PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#15 「六本木、旅する美術教室」第3回 美術家やんツーの美術展の見方【前編】

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ルーヴル美術館ではないから実現できることも。

戴冠式の正装のナポレオン1世 cap1

クロード・ラメ 1813年
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

「国王の嗅ぎタバコ入れ」のためのミニアチュール48点 cap1

マリー=ヴィクトワール・ジャコト 1818-1836年
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Droits réservés /distributed by AMF-DNPartcom

 第2章は、赤い壁紙の空間。テーマは『権力の顔』とされ、王、皇帝、王妃などの最高権力の肖像画が展示されています。その描かれ方に注目して欲しいと、宮島さんは言います。

宮島 ルイ14世の肖像は、3点を並べて展示してあります。ローマ皇帝の服装をした5歳の頃の姿、馬に乗ったもの、聖別式(戴冠式)の正装をしたものです。ローマ皇帝風、騎馬姿、聖別式の正装はいずれも、最高権力者を表す形式です。

やんツー 3点並ぶと面影があっておもしろいです。次のナポレオンも、権力的ですね。

宮島 若い頃のものと、皇帝になってからのもの。ナポレオンは皇帝になってから非常にイメージ戦略にこだわっていたので、ある一定の肖像形式があるんです。戴冠式の正装の絵や彫刻をたくさんつくらせて、帝国各地の建物に設置したりしています。

 その肖像形式を理解してもらえるように、ナポレオンの全身を表した彫刻『戴冠式の正装のナポレオン1世』と、戴冠式の服装の色がわかる絵画『戴冠式の正装のナポレオン1世の肖像』を並べて展示。コーナーの最後には、1821年に亡くなったナポレオンのデスマスクのレプリカである、『ナポレオン1世のデスマスク』を展示しています。「肖像と呼べるかは判断が難しいですが、後世に伝えるために人を象ったという意味では肖像と言えるのでは」と宮島さん。

 肖像画は、絵画や彫刻などの展示物だけにとどまりません。展示のところどころに現れる薄暗い小スペースに、「幕間劇」と称して飾られているのは、メダルや嗅ぎタバコ入れなど、小さくて、持ち運びができる肖像。「気分を変えていただければ」と、空間の雰囲気を変えて展示しています。

宮島 嗅ぎタバコは鼻に詰めて匂いを楽しむもので、それを入れるケースは、よく贈りものに使われました。国王や皇帝は、自分の肖像が描かれた嗅ぎタバコ入れを家来や外国の賓客に配ることで、自分のイメージを広めていったんです。

やんツー 作品としてもとてもきちんとつくられた、良いものですよね。描かれているものだけでなく、それがどういう風に、なんのために制作されたかの背景がわかると、歴史や時代についてわかってきますね。

宮島 この嗅ぎタバコ入れには、蓋を飾るための交換式のミニアチュールの肖像が48点あり、ルーヴルの素描・版画部門が管理しています。ですが、それらを収納するために作られた箱は美術工芸品部門に属しているので、ルーヴルの常設展ではミニアチュールの肖像と箱が一緒に展示されてはいないんです。ですので、今回のようなテーマ展は、こうした作品を本来あるべき姿で展示できる機会になることもあります。

【美術展の見方#2】
「なんのために」「どう使われていたか」など、作品の背景を知る。

展覧会全体を通して浮かび上がる「肖像」。

女性の肖像、通称『美しきナーニ』 cap1

ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ) 1560年頃
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

cap1

ジュゼッペ・アルチンボルド 1573年
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Jean-Gilles Berizzi /distributed by AMF-DNPartcom

 最後の第3章のテーマは『コードとモード』。コードは、正確に該当する日本語はないのですが、肖像表現の「決まりごと」を意味します。モードは流行のこと。第3章にはこれまでの権力者とは違い、一般の人々の肖像が展示されています。歩みを進めるやんツーさんがふと立ち止まりました。

やんツー 僕は展示を見るときに描かれた「年代」が気になるんですが、ここだけルネサンス以降ですね?

宮島 そうですね。ルネサンス以降、ヨーロッパでは次第に社会の近代化が進み、上層市民の力が増していきます。その結果、それまで王侯貴族など特権階級のものであった肖像芸術の裾野が、より下の階級の人々に広まっていきました。

 奥には、今回の目玉でもあり、展覧会のポスターにも使用されている『女性の肖像』、通称『美しきナーニ』が展示されています。

やんツー これが今回イチ押しの作品ですね。

宮島 そうですね。普段ルーヴル美術館では『モナ・リザ』と同じ部屋に飾られています。ルネサンスを代表する肖像画の名品ですので、なかなかルーヴル美術館の外に出ない作品ですが、今回貸していただけました。筆のタッチを生かした描き方はヴェネツィア派の特徴です。

 3章を終え、エピローグには、2枚のアルチンボルドの絵画『春』と『秋』が飾られています。たくさんの草花や野菜や果物が描かれており、遠目で見ると人間の横顔に見えます。

宮島 最後に遊び心を添えました。古代から19世までの多彩な肖像作品を、時代順や地域別ではなく、いくつかのテーマにそくして展示することで、肖像の役割や表現の多様性を感じていただける展覧会に仕上がったのではないかと思います。

やんツー いろいろな角度で肖像作品というものを見ることができておもしろかったです。古代から始まり、数千年の肖像を見ましたが、そのすべてが現代の作品性につながっているなと感じました。後日、家族ともう一度来たいと思います。

【美術展の見方#3】
作品ひとつひとつだけでなく、展覧会全体を通して感じてみる。

後編はこちら

information
ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか
会場:国立新美術館 企画展示室1E
会期:2018年5月30日(水)~9月3日(月)
開館時間:10:00~18:00 ※金・土曜日は21:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜(ただし8月14日は開館)
観覧料:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
展覧会サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.ntv.co.jp/louvre2018/

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