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六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#15 「六本木、旅する美術教室」第3回 美術家やんツーの美術展の見方【前編】

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update_2018.7.25 / photo_masashi takahashi / text_momoko kawano

六本木の美術館やギャラリーを舞台に繰り広げられる「六本木、旅する美術教室」。クリエイターやアーティストのみなさんに先生になってもらい、その人ならではの、美術館やアートの見方を教えていただきます。


第3回の先生は、デジタルメディアを基盤に、文字や身体にまつわる作品を多く制作する美術家のやんツーさん。訪れたのは、国立新美術館で開催されている『ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか』。この展覧会のキュレーターの宮島綾子さんに案内していただきます。古代から1848年までの美術作品が収められているルーヴル美術館と、デジタルアートの領域であるやんツーさんの作品は、扱う作品の時代性がまったく違うようにも感じられるかもしれません。けれども、今回の美術教室では、古代と現代美術がつながっていることを節々と感じることになりました。

後編はこちら

サブタイトル

日本独自の『ルーヴル美術館展』にこだわること。

棺に由来するマスク cap1

新王国時代、第18王朝、アメンへテプ3世の治世(前1391-前1353年)
エジプト出土
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Franck Raux /distributed by AMF-DNPartcom

女性の肖像 cap1

2世紀後半
エジプト、テーベ(?)出土
Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Georges Poncet /distributed by AMF-DNPartcom

 ルーヴル展の入口に足を踏み入れると、薄暗い空間にふたつのマスクが浮かび上がっていました。思わず吸い寄せられるように、やんツーさんがマスクに近づきます。

宮島綾子 展示エリア冒頭の「プロローグ」では、古代エジプトのふたつのマスクを展示しています。今回の展覧会のテーマである"肖像"のオリジン(起源)を示したいと考え、表現の方向性が対極をなすマスクを並べました。ひとつ目は、エジプトの3,000年以上前の『棺に由来するマスク』。抽象化され、理想化された、個人のものではない顔です。もうひとつは、それから約1,500年後、同じくエジプトで制作された『女性の肖像』ですが、こちらはとても写実的で亡くなった人に似せようとしています。板に描かれたもので、ミイラの顔に直接つけられていました。

 肖像芸術は、どの時代にも、「理想化」と「写実(本人に似せる)」のふたつの方向性があるそうです。その両方の要素を、同じエジプトのマスクを並べることで対比させているのがこのプロローグです。

宮島 今回の「ルーヴル美術館展」は、ルーヴルの全8部門からの多種多様な作品を、「肖像芸術」という切り口でご紹介する展覧会となっています。

やんツー 肖像を展示する文化は、海外では多くありますよね。肖像ばかり集めた「ポートレート・ギャラリー」もありますし。でもやはりルーヴル美術館のような多様な作品を持っている美術館では、「肖像」というひとつの切り口だけで展示をしませんね。

宮島 そうですね。実は日本では、ルーヴルのコレクションによる「肖像展」が1991年に国立西洋美術館で開催されています。その際は、部門ごとの展示でした。27年ぶりとなる今回は別の切り口を示したかったので、"肖像の社会的役割と表現上の特質を明らかにする"というコンセプトで1〜3章を組み立てました。

 プロローグを抜け、第1章に入ると、壁紙がすべて青い空間のインパクトに目を奪われます。今回のルーヴル美術館展ではテーマごとに壁紙の色が異なり、観る人の気分をガラリと変えます。

宮島 第1章のテーマは『記憶』。人の存在を記憶するという、肖像の最も古い役割に焦点を当てています。展示の中心となるのは、亡くなった人の肖像を刻んだ墓碑彫刻です。また、神々や神殿に捧げられた彫像や、先祖の肖像もこの章に含まれています。

日本人に合わせた展示の工夫。

ボスコレアーレの至宝 エンブレマ型杯 cap1

35-40年頃
イタリア、ボスコレアーレ出土
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

やんツー これ、すごいですね。

 突然、やんツーさんがある作品に向かって一直線に歩いて行きました。そこには、銀の杯の中央に男性の顔の彫刻が施された『ボスコレアーレの至宝 エンブレマ型杯』が。

宮島 これはおそらく、古代ローマの先祖崇拝に関る作品です。ローマの人々は、家の中の目立つ場所に先祖のデスマスクや肖像画を飾っていました。その習慣を例証する、とても貴重な作例です。

やんツー 見た目も衝撃的ですね! 僕、ユーモアがある作品が好きなんです。

 やんツーさんはイヤホンガイドは聞かず、自分のペースで気になった作品をじっくり見るそう。そして、時には作品よりもキャプションを読んでいるのでは、というほど、作品解説をじっくり読みこみます。

やんツー なぜ足元に置いてあるキャプションと、胸の高さの看板に書かれているキャプションとがあるんですか?

宮島 最初、作品の見栄えを重視してキャプションを下に置いたのですが、混んだ場合に読みづらいため、会期の途中で高さを上げました。日本のお客様は、1点1点きちんと読む方が多いですね。

やんツー 読み飛ばさないように、キャプションの前に人だかりができたりしますよね。

宮島 そうなんです。海外のお客様と一番違うところだと感じます。ルーヴル美術館のキュレーターの方々にもその日本の特徴がなかなか理解していただけませんでした。日本の美術館に来てやっと「日本では列をつくって1点1点見るとわかったよ」と納得してくれました。ですから展示の導線は一筆書きでたどれるように心がけています。また、キャプションの人だかりができやすい場所はスペースをゆったりととって展示します。

やんツー 日本ならではですね。僕も以前はしらみつぶしに見ていましたが、最近では気になったところだけ見ています。

宮島 それぞれ自由に見ていただくのが一番だと思います。キュレーターとしては、1点1点は必然的なものとしてその場にはあるので、くまなく見ていただきたいという気持ちもあるのですが......。でも、見るひとの好き勝手と言いますか、自分らしい見方をして欲しいですね。展示も、自発的に見てもらえるように心がけています。

【美術展の見方#1】
すべての作品を見なくていい。自分の「好き勝手に」見る。

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