PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07「六本木未来大学」第20回「原研哉さん、原研哉のクリエイティブディレクションって何ですか?」講義レポート【前編】

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印象に残るロゴのつくり方。

2013年に隈研吾さん主導のもと生まれ変わった、銀座にある歌舞伎座。背後に地上145mの「歌舞伎座タワー」を構え、伝統と現代の融合が実現しました。「建築家と仕事をすることが多い」という原さんは、新・歌舞伎座と京都南座のVIを手がけました。

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「歌舞伎座と歌舞伎座タワー、ふたつ合わせて『銀座歌舞伎座』であることがわかるVIのデザインを依頼されました。なので、歌舞伎座の背後にそびえる歌舞伎座タワーの存在感をポップな造形に落とし込んだのです。建物の外観を強烈に象徴化することで、新たな歌舞伎座の始まりを表現しました」

歌舞伎座に続き、原さんは京都の歌舞伎劇場「南座」のロゴデザインも手がけています。この時も、建物の造形から着想を得たロゴを制作したのだそう。

「『京都四條 南座』は、2018年11月、新開場を迎えます。その節目を記念して、新しいシンボルマークとロゴタイプを制作しました。シンボルマークは、"南"という文字を明快に削ぎ落とした造形に、南座の外観を連想させるかたちを融合しています。シンボルカラーは、南座の内装に用いられている深紅色としました。歌舞伎は象徴と凝縮の美学であると考え、紋章のような、目を引く強い造形としています。『京と。』というショルダーフレーズは、所在地が京都であるということを超え、京都とともに歩んできた来歴と、これからも京都とともに歴史を重ねていく南座の姿勢を端的に示すものです。マークとロゴは、ショッピングバッグ、風呂敷、手拭いに展開しています」

【クリエイティブディレクションのルール#5】
できるまでやり、勝つまでやめない

"一流"の存在感は、究極のシンプルさから生まれていく。

原さんが代表を務める日本デザインセンターは銀座にあります。ここに35年間通い続ける原さんにとって、銀座は第二の故郷のようなもの。そのため、銀座の新たな"顔"となる「GINZA SIX」のVIには、特別な思いがあったのだと原さんは振り返ります。

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「銀座の街にはお店もビルも『銀座』とつく場所が非常に多い。当初『GINZA SIX』という文字でロゴをつくってほしいと依頼されたのですが、個人的に『またGINZAはやだな』と思ったんです。ですから『GSIX』というロゴを提案しました。それぞれの文字が独特の形をしているので、存在感のあるかたちになる。エントランス部分では、ロゴを建築の中に埋め込んでいて、昼はGが金色、SIXが黒ですが、夜になると内照のライトが点灯して全部白く見える。GINZA SIXはおびただしいブランドの集積ですから、それらの中で強烈な軸性、中心性を発揮しなくてはならない。そういうロゴタイプです」

同じく銀座にある、老舗ジュエラー「MIKIMOTO」の本店が、建築家の内藤廣さんによってリニューアルした際にも、原さんはVIを担当しました。MIKIMOTOといえば、世界トップ10に入るジュエリーブランド。だからこそ、原さんは"簡潔さ"を意識したのだと話します。

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「カルティエも、シャネルも、ブルガリも世界レベルのブランドのVIはとても簡潔ですよね。非常にオーセンティックな雰囲気の中に高級感が漂っている。MIKIMOTOのVIを手がける際にもそこを意識しました。ロゴは基本を変えないでしっかり磨き直しました。また、『機前の白をコーポレートカラーにしてみては』と提案したんです。"機前"とは、何かが成就する直前の状況を意味する言葉です。幸福が成就する一歩前をことほぐ色です。

内藤廣さんが手がけた建築のテーマは『英虞湾の輝き』。ですから、パッケージの紙にもそのイメージを取り入れました。バッグや包装紙は海のきらめき、ジュエリーのパッケージには西陣織の布を使っています。世界トップレベルのジュエラーならばこそ、究極のミニマルを表現したいと思いました。最高級を標榜するには、ベーシックな部分を徹底的につくり込むことが大事です」

【クリエイティブディレクションのルール#6】
オーセンティシティを磨き上げる

「蔦屋書店」のベースにある、"大人っぽさ"。

"大人"をターゲットにした書店として、各地に展開を広げる「蔦屋書店」。"大人の図書館"として、独特の雰囲気を醸し出す背景には、原さんが手がけたVIの工夫がありました。

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「蔦屋書店の第1号店となる『代官山 蔦屋書店』は、"大人の図書館"を目指してつくられたものです。ロゴにその着想を表現しました。明朝でもゴシックでもない、一見なんの変哲もないロゴですが、落ち着いた雰囲気を醸し出しているはずです。これは『二期倶楽部』ロゴから徐々につくり始めた文字で、フォントとしても進展させつつあります。アルファベットで『TSUTAYA』と書くよりも、漢字で『蔦屋書店』と書いたほうがわかりやすくて感じがいいでしょ。

さらに、大人を対象にしたお店ですから、店内サインも大きな文字で読みやすくしました。ただ、文字が大きいと鬱陶しさも感じるので、サインの躯体はパンチングメタルを使って半透明にしています。大人っぽいといってもそういう空気が好きな若者で満ちています。こういう雰囲気を大事にしてくれるお客によって蔦屋書店の空気ができあがってきました」

西洋の「シンプル」とはまったく違う、日本独自の「エンプティー」の美しさ。

2001年から、無印良品のアートディレクターを務めている原さん。前任の田中一光さんがつくりあげた「無印良品」を引き継ぐにあたり、原さんが意識したのは「世界に展開できるブランドに昇華させること」でした。

「アートディレクターになって初めて手がけた仕事はポスターです。写真家の藤井保さんと一緒に、ボリビアのウユニ塩原とモンゴルの大平原に行って地平線の写真を撮りました。ウユニ塩源は四国の3分の2ほどの面積で、ほぼ真っ平らなんですよ。雨季で水が溜まっても、長靴を履けばどこまでも歩いていける。水深が一定しているので、完璧な鏡面のように空を映す。幻想的な風景を収めたこの写真には、見た人が自由に解釈できる余白があります。無印良品は、この写真のように『エンプティ(空っぽ)』を運用することで、究極の自在性を標榜するブランドにできると、このときに思ったんです」

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さらに原さんは、「エンプティ」の美学は日本特有のものであると続けます。

「ここで言う『エンプティ』とは、西洋的な『シンプリシティ』とは違います。西洋で生まれた『シンプル』は、近代社会の誕生とともに生まれた合理主義から派生したものなんですね。長く続いた王や貴族の時代においては、権力の表象として豪華絢爛な装飾が使われていました。国を統治するためには、強烈な求心力が必要で、煌びやかな装飾で権力を示す必要があったんです。そうした時代が終わりを迎え、人びとが合理的に生きていくために、建築も家具も暮らしかたもシンプルになっていったんです。

日本も、室町中期ごろまでは豪華絢爛な渡来ものがよしとされていましたが、応仁の乱を境に日本文化はいったんリセットされています。西洋のモダニズムがおこる300年ほど前の話です。京都の都が10年に及ぶ戦乱で焼け野原になってしまった。寺も、庭も、調度も、着物も、仏像も......。たいへんな文化的喪失です。当時の将軍、足利義政が、応仁の乱ののちに隠居して生み出したのが『東山文化』です。建築・庭、茶の湯・花・絵画・能・連歌など、いわゆる日本特有の簡素・簡潔な文化はこの時代に源流があると言われています。

義政が隠居した銀閣・東求堂に今も残る書院『同仁斎』は、何もない『エンプティ』な空間なのですが本当に美しい。義政を始めとするこの時代の目利きやクリエイターたちは、『何もないもののほうが、イマジネーションを鼓舞する』ことに気づいたのだと思います。

僕は、無印良品のなかにある「簡素であることが豪華に引け目を感じず、むしろ誇らしく思える境地」という思想は、室町後期にさかのぼる『エンプティネス』の系譜につながるものと考えています」

無印良品の商品は特定の年齢層や対象者を限定していません。どんな世代にもフィットするし、使用者の使い方次第でクラシックにもモダンにもなる。文脈次第でどうにでもなるという究極の自在性、つまり融通無碍な様相を『エンプティ』と説明しているのです。「これは世界の人々も、大変よく理解し、共感してくれます」

【クリエイティブディレクションのルール#7】
広げられるだけ広げて編集で仕上げる

後編はこちら



【information】

「原研哉さんの講義を復習してみよう」
六本木未来大学アフタークラス

【講師】横石崇(「TOKYO WORK DESIGN WEEK」発起人/オーガナイザー。&Co.Ltd代表取締役)
【開催日】2018年1月22日(水)
【時間】19:00〜21:00(予定)
【参加費】2,000円 
【受付】お申し込みはこちらから ※外部サイトへリンクします
【場所】東京ミッドタウン・デザインハブ(ミッドタウン・タワー5F/東京都港区赤坂9-7-1)


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