PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#08 六本木ブックフェス by 幅允孝【後編】

時間は午後3時。夏のような太陽が照りつける中、いつの間にか芝生広場は本を楽しむ人でいっぱいに。読書に没頭する人、陽射しの中でまどろむ人、それぞれが会場に響く朗読に耳を傾けていました。

芝生広場に、朗読の声とオペラの歌声が響きわたる。

会場をおおいに盛り上げたのは、作家の柚木麻子さん。読んだのは、今年、山本周五郎賞を受賞した『ナイルパーチの女子会』(文藝春秋)。直木賞の候補にもなった、女性同士の友情を描いた作品です。

「私としてはすごく頑張ったんですが、落選しちゃいました。選考では『リアリティがない』なんて言われて(笑)。これから読むのは、問題となったその箇所です!」

「アルコールウェットティッシュを取り出した。冷んやりと濡れた質感が指紋の溝を押し広げ、肉の内側まで容赦なく染みていくようだ......」。こんな入りで一気に数ページを読み上げると、「ここから、急激にリアリティがなくなっていきます!」と柚木さん。会場からは笑いが。

「『何、女の友情に過大な期待しちゃってんの? お前、女嫌いじゃん。女を見下さないでは一瞬だって生きていけないくせにさ? そのくせ、なに、本とか映画とかに出てくるみたいな、切れない絆とか期待しちゃってんの。お花畑みたいな麗しい女の園を勝手に思い描いてんだろ、おおかた。そこに苦い感情が少しでも混じっていると、指差して喜ぶんだよな。やっぱ女の敵は女、ほら見ろ男の方が偉い、って手ぇ叩いて、囃し立てて大騒ぎしやがって。ガキか、このボケが』真織が杉下の髪をぞんざいに後ろに引っ張ると、彼は激しく咳き込んだ。......これ、山本周五郎賞を受賞しています」

トリを飾ったのは、『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)で2015年上半期の芥川賞を受賞した羽田圭介さん。壮大な音楽とともに登場するやいなや、「期間限定、読書のフェス......スクラップ・アンド・ビルド!」と叫んで朗読をスタート。

ひとしきり読み終えると、立ち上がって自己紹介。ジャケットを脱いで自著の表紙をプリントしたTシャツを披露しつつ、「みなさん、本は買ってくれましたか? まだの方はこのあとの物販で買ってください(笑)」。このあと朗読のほか、なんとオペラも披露してくれました。

「実は先週、同じ作品を30分間朗読したんですが、それだけだと聞いてるほうはつらいんじゃないかって思って、歌ってみました。今回はパブリックな場所なので、僕のことを知らない人もいるはず。でも、突然歌うやつがいたら面白いじゃないですか。六本木には、めちゃくちゃなことをやっていても許してくれる、おおらかさがありますね(笑)」

徐々に高まりつつある、本と生活との親和性。

5日間にわたって行われた「六本木ブックフェス」、レポートの最後は、このイベントの企画者でもある幅さんの、こんな言葉で締めくくりたいと思います。

「インタビューで『六本木は容赦のない場所』と言いましたが、参加してくれた人たちは存外にやさしかったですね(笑)。参加して本が読みたくなったという人もいるでしょうし、作家の方たちも読者との結び目を少し知ることができたのではないでしょうか。昔は読書や朗読というと、堅苦しくて難しい印象がありました。でも、読書のフェスの自由に朗読できるオープンマイクが盛況だったように、本と人の生活との親和性はだんだん高まってきている、そんなことも実感できました。こうしたイベントをきっかけに、本を巡る状況が少しでも愉快なものになっていったらうれしいですね」