PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07 「六本木未来大学 by 水野学」 第5回 「水野学さん、まとめると、クリエイティブディレクションって何ですか?」講義レポート

講義も、いよいよ佳境に入っていきます。ここからは、クリエイティブディレクションの大きなポイントになる「らしさ」=「シズル」をつかむ方法について。水野さんが「春といえば?」と聞くと参加者のひとりが「桜」と即答したように、シズルは日常的に認識しているもの。

シズルをつかむための方法、「〜っぽい分類」。

「さて、右と左で、どちらがより『春らしい』でしょうか? これで左だって思った人は、クリエイティブディレクションを諦めてほしい(笑)。このように、多くの人の中にある普遍的な潜在意識をつかむことは、誰もが日常的にやっていることです。なのに、いざデザインをする、デザインを発注するとなると、この商品のターゲットは○○だからとか、最近はこれが流行しているからとか、余計なことを考えてしまう。もちろん、余計なこととはいえ、これらもデザインには欠かせないものですよ。ただ、だからといってシズルを見失ってはいけないんです」

シズルを発掘する方法として教えてくれたのが「〜っぽい分類」。これを使って、対象とフラットに向き合うことでシズルを見つけられるのだそうです。実際に講義でやってみた例は「靴下」。

「まず『ポジティブ分類』をしていきます。これは対象を褒めていくというもの。『あったかい』『靴ずれを防いでくれる』などが出ましたね。続けていくといくつかのワードに集約されていきます。次に『どこっぽい分類』。靴下って北半球っぽいですか、南半球っぽいですか? 北半球なら、北米、北欧、ロシア、中国の4択ですね。これ、最終的にはだいたい北欧に行き着くんです。多くの人が『靴下は北欧っぽい』と思っているんですよ。面白いでしょう?」

そのほかにも、「誰っぽい分類」「いつっぽい分類」「何色っぽい分類」などなど、あらゆる方向から分類を繰り返していくことで「らしさ」を見つけ、そこで発見したシズルをもとにデザインの方向性を見極めていきます。

色と書体を知れば、ある程度デザインがわかる。

「さらに、シズルを見極めたうえでデザインの良し悪しを判断する基準は『知識量」。美大生なら即答できるようなアートに関する知識も、有名大学を出ていてもまるで答えられない人がいたりする。つまり多くの人は、そもそもデザインやセンスに関する知識のストックが圧倒的に少ないんです。逆に言えば、デザインの良し悪しは、知識を増やすことで容易に判断できるようになるということ」

デザインを判断するためのたくさんの知識の中でも、水野さんがこれだけは知っておくべきと考えているのが「色」と「書体」の2つ。スライドに写した12色相環を見ながら、対極にある「補色」や隣り合う「同系色」は相性がいいことを解説。

「たとえば『カッパープレートゴシック』という書体があります。その名の通り、銅版文字が元になったフォントです。これ、つくられた当時は貴族しか使えない、高貴な書体なんですよ。それを知らずにラーメン店のメニューなんかに使ってしまうと『高貴なラーメン』というチグハグなことになってしまう。海外に行くと、お寿司屋さんの看板が変な書体で書いてあったりしますよね。それを僕らも平気でやってしまいがちなんです。だから、どの国で生まれ、いつ頃の年代に、何を目的につくられた書体なのかを、僕らは必ず確認して選びます。発注する側は『その書体を使ったのはどうしてですか?』と聞いてみてもいいし、デザイナーには答える義務がある。書体は本当に重要なんです」

【クリエイティブディレクションのルール#5】
色と書体の知識を身に付ける

知識だけでも、クリエイティブディレクションはここまでできる。

最後にスライド上で見せてくれたのは、チョコレートの新商品開発のシミュレーション。まず世の中のチョコレートを調査して、「赤っぽい」というシズルを抽出。そこで「赤」の捕食である「青」系の色をパッケージにし、チョコの原産国がフランスなら、フランスで生まれた書体を使ってみる。

「これ、ほとんどデザインをしていません。色を決めて文字を入れただけ。たったこれだけの知識でわりとおいしそうに見えるパッケージができました。知識や理屈でつくっても、それなりのところまでいける。つまり、ここくらいまでは『デザイナーに渡す前のオリエンテーションの範囲』といってもいいのではないでしょうか。クリエイティブディレクションとは『問題の発見と解決』を結ぶもの。知識を増やすことで、必ず身につけられるものなんです。今、日本の経済が停滞しているのは、デザインの停滞が一因ではないかと僕は考えています。これはもちろんデザイナーの責任ですが、デザインを必要としている側の苦手意識からの開放も必要でしょう。デザインは、世の中をよりよくできるはず。デザインで日本を活性化して、世界をよりよくしていけたらいいなと思っています。本日はありがとうございました」