PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07 「六本木未来大学 by 水野学」 第3回「川村元気さん、エンタテインメントのデザインって何ですか?」講義レポート

ここからは、小説におけるクリエイティブディレクションのお話。川村さんのデビュー作『世界から猫が消えたなら』と2作目『億男』(ともにマガジンハウス)は、どのような発想でつくられたのか。話はそのアイデアの源泉に、さらに映画と小説の違いにまで及びました。

「捨てること」でやりたかったことがクリアになる。

川村さんが小説を書くきっかけになったのは、映画「悪人」の製作で、原作者の吉田修一さんに映画の脚本も書いてもらったこと。小説と映画、それぞれのメディアの得意なことと苦手なことを考えさせられたことで、小説ならではのストーリーテリングに自ら挑戦したくなったのだそう。

「小説なら『世界から猫が消えた』というタイトルだけで、読者がその世界を頭の中でつくってくれる。でも、映画でそんなシーンをつくるのは困難です。せっかくなら、映画が苦手なことをやろうというコンセプトでつくっていきました」

処女作『世界から猫が消えたなら』は、余命わずかとなった郵便配達員が、世界からひとつものを消すごとに1日の命を得ていくというストーリー。川村さんの「違和感ボックス」には、アイデアのもとになったいくつかの発見があったと言います。ひとつは、携帯電話をなくしたときの自身の体験。

「連絡しようと思っても、職場の番号も家族の番号も覚えていない。携帯電話に自分の記憶を預けていることを怖いなと思いました。そしてその日、電車に乗って窓の外を見ていたら、虹が出てたんです。驚いて周りを見渡したら、僕以外はみんな携帯を見ている。つまり僕は、携帯電話をなくしたことで虹を見ることができたわけです。失うことと得ることはセット、等価交換なんだということを強烈に意識しました」

もうひとつは、川村さんが映画をつくっていてずっと感じていた感覚。編集作業をしていて、いいなと思っていたシーンを並べてみると、途端にどちらも良くなくなってしまう。そういうことが、映画に限らずデザインなどほかのジャンルでもよく起こると川村さん。

「そんなときにどうするべきか。正解は『どちらかを捨てる』こと。捨てることで自分がやりたかったことがクリアになり、いろいろなものを捨てていった先に正解が見つかる。それが僕にとってのメインテーマだって気づいたんです」

「発明」と、それを組み合わせる「発見」の数が揃うまで始めない。

2作目『億男』は、お金をテーマにした小説。「書店にはお金持ちになるための本が溢れているけど、そもそも僕たちって、そんなに大金持ちになりたいんだっけ? 不幸になっている人もたくさんいるのに」、そんな気づきが出発点に。

「『発見』してから、どうやったら小説になるかという思考実験が始まるわけですが、最終的に『お金を考えることは、人間を考えること』という当たり前の結論に至りました。僕を含め、お金を汚いと思っている人は多いですが、電車の手すりのほうがよっぽど汚いはずですよね。つまり心理的な側面が大きいわけで、お金を通して見ると、その人がほしいものや嫌なものが見えてくるのでは、と思ったんです」

小説を書くときは1年から2年かけて、気になって仕方がないことをずっと取材して書くことを繰り返している川村さん。お金の重さを量ったり、お金にまつわる名言を調べたり、100人以上の大富豪に話を聞いたり、億万長者セミナーに通ったり......。いくつかの「発見」と「発明」が揃うまで、その一つひとつを延々と編み上げて重ねて、ようやく小説を書きはじめるのだそうです。

映像での表現に不向きな点を逆手にとったものづくり。

『世界から猫が消えたなら』は佐藤健さん、宮崎あおいさんを迎えての映画化が決定していて、2016年に公開されます。プロデューサーは、「世界の中心で愛を叫ぶ」など数々のヒット映画を手がけた春名慶さん。自分の小説が映画になることで、腑に落ちたことがあったと川村さんは言います。

「原作者の側に回ってあらためて、小説と映画の関係性を感じました。この小説は自分の命と引き換えに世界から電話が消えたり時計が消えたりしていく話ですが、消えた後の世界は一切描写していません。それは、書けば書くほど『語るに落ちる』から。消えた後の世界の描写は、バサッと切り捨てたんです」

「一方、映画では、主人公が電話でつながることができた恋人との人間関係が消えるというところまで描いています。映画は、現象ではなく人間の関係性を描くもの。『バクマン。』にしろ『告白』にしろ、僕がやってきた映画づくりも、映像に不向きな点を逆手に取ってアイデアを生み出してきました。今回、映画にならないものを書いたはずなのに映画化されるという不思議な体験をしたわけです」

【クリエイティブディレクションのルール#2】
捨てることでアイデアは強くなる

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