PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07 「六本木未来大学」第11回「菅野薫さん、チームでいいものを生みだす方法って何ですか?」講義レポート【前編】

ここからは、菅野さんがこれまで手がけてきたプロジェクトを紐解いていきます。菅野さんは、電通で最初の10年間はマーケティング系の部署でクライアントのマーケティングに関するサポートや、データの分析システムの開発などを行なっていました。そこから現在のような仕事を手がけるようになったのは、今から5年ほど前のこと。まずはそのきっかけとなった本田技研工業株式会社(Honda)とのプロジェクトの話をどうぞ。

研究職から「クリエーティブ・テクノロジスト」へ。

菅野さんが電通総研という部署で研究者として働いていた当時、Hondaの双方向通信型ナビゲーションシステム「インターナビ」の広告をつくるプロジェクトが進行していました。「インターナビ」とは、3G回線ネットワークに常時接続して搭載車の走行位置をリアルタイムで解析し、渋滞を回避するルートを提案するという最高峰のナビであり、社会全体としては渋滞そのものをなくしていくことを目指したシステムです。

「この商品を、ちゃんと理解してもらえるように説明するのが難しいんです。当然、15秒の枠じゃそのすばらしさを説明しきれない。そもそも広告クリエーターでちゃんと理解できる人もなかなかいない。そこで、まずシステムを理解できる人を連れてきてくださいということで、声をかけてもらったのが僕でした。最初にお会いしたとき、2時間くらいかけて延々と続くデータの列でシステムをご説明いただいたのですが、たしかにこれはコピーライターやアートディレクターは苦手だろうな、という。で、僕はどうしたかというと、そのデータそのものを使ったアプリをつくってお見せしたんです。」

できあがったのが、「インターナビ」搭載車から集められたデータを、光で地図のように俯瞰で描画するアプリ。ヘッドライトが白で、ブレーキランプが赤。車だけの夜景のようです。「もし日本にHondaの車しかなかったら、夜に上空から見た日本はどんな景色だろうか」と考えたのだそうです。

「インターナビのデータって美しいですね。CMで一生懸命説明するよりも、これを見せた方が伝わりますよって言いました。そうやってつくりながら話しているうちに、制作の担当として指名していただいて、僕の『クリエーティブ・ディレクター』としての初めての仕事が始まったんです。インターナビを発明したのは当時Hondaの役員待遇だった今井武さん、僕らのような広告クリエイティブの人間も含めて、チームとして理想の高いプロジェクトを一緒に成し遂げようという姿勢の方でした。僕が勝手に師匠だと思っている方です。今井さんは企画の参考事例として、過去にほかで行われた成功例を出されるのが好きではなかったんです。『世界一か世界初かしか興味がない。新しい発明をしないと親父さん(本田宗一郎)に怒られる』みたいなことをおっしゃっていました。そんな今井さんに『菅野さんがそういうならやりましょう』と言っていただくと、案が通ってうれしいというより、なぜか追い込まれる気持ちになりました(笑)。そうやって育ててもらったと思っています」

【クリエイティブディレクションのルール#4】
常に世界初なのか世界一なのかを問う

震災を機に、多くの人と進めたプロジェクト。

菅野さんが「インターナビ」に関わりはじめてから1ヶ月後の2011年3月11日に東日本大震災が発生。直後にHondaの今井さんたちは、「インターナビ」の走行データを解析して、震災後に通行の実績があった道路を発表するというプロジェクトを開始します。

「震災当日の混乱した状況の中、24時間以内に情報を発表したいし、なるべく多くの人に届けたい。でも、あらゆるデバイスで見られるようなウェブサイトをつくっている時間がない。そこで、今井さんたちは、解析後の地図データをオープンにして配布しました。そうしたら、インターネットでそれを知ったプログラマーがガラケーやスマホで見られるようにしてくれて、次々と広まっていったんです。自分たちがつくったものを提供するだけのワンウェイのコミュニケーションではなく、オープンに使える情報やきっかけを提供することで、多くの人と一緒にコミュニケーションをつくることができるということをと学ばせてくれたプロジェクトでした。このプロジェクトをより多くの人に知ってもらうために、データのビジュアライズするパートを担当させてもらったのが僕の最初のクリエイティブの仕事になりました」

このプロジェクト「CONNECTING LIFELINES」は世界でも高い評価を受け、『カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル』でチタニウムライオンなど多数の賞を受賞しました。

「そのときのカンヌの審査委員の言葉がすばらしくて、『これは、みんなが知っている広告とはまったく違うプロジェクトだ。広告をつくるということは、CM、ポスター、ウェブバナーをつくることだと決めてしまうとしたら、それは先入観にすぎない。本来の広告の役割は、そのブランドを理解し、そして信じるための理由をつくる行為すべてであり、このプロジェクトはHondaを好きになってインターナビを理解するために最大に機能している』と。この仕事をきっかけに、僕はクリエイティブの仕事をメインにするようになりました」

【クリエイティブディレクションのルール#5】
広告は、ブランドを理解し信じるための理由をつくること

>後編へ続く(2017.3.22 更新予定)

RELATED ARTICLE