PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07 「六本木未来大学」第10回 「齋藤精一さん、プロジェクトを成功させるディレクションって何ですか?」講義レポート【前編】

真鍋大度「electric stimulus to face -test3 」(2008年)

ここからが本題、話はディレクションの方法へ。ライゾマティクスは、ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの『千のラプトー』という本に登場する概念「リゾーム(rhizome)」から名付けられました。リゾームとは地下茎や根茎という意味で、「ざまざまなプロジェクトを通じてモノ、コト、場所と関係し合いあらゆる方向に根を複雑に伸ばし、増殖していく」というのがライゾマティクスのコンセプト。その多彩な作品を紹介しながら、話は進んでいきます。

脱ブラックボックスを目指してライゾマティクスを分解。

ライゾマティクスのプロジェクトが「下流から上流へ」移行してきたことで生み出されたものなら、「ディレクション」とは「上流から下流へ」、プロジェクトのDNAを末端まで持っていくという行為です。ただし「ここが非常に難しい」と齋藤さんは言います。

「僕らの会社って、いい意味でも悪い意味でもブラックボックスだったんです。僕も端から見ていて思うんですが、頼んだらなんでもできそうだという、魔法使いみたいな感じがある。それはそれでいいのですが、ディレクションをするという観点からみると、社外的にも社内的にはやりづらい面があって。そこで、10周年を機に脱構築しようということで、会社をリサーチ、デザイン、アーキテクチャーの3つに分解したんです」

作品的、さまざまなテクノロジーを使って実験的な作品を生み出す「リサーチ」、クライアントとともに広告や商品開発を手がける「デザイン」、建築や都市開発の分野にテクノロジーを導入する「アーキテクチャー」。それぞれについて、実際の事例とともにその内容を教えてくれました。

テクノロジーで実験的な作品を生み出す「ライゾマティクスリサーチ」。

ライゾマティクスリサーチでは、音楽信号で顔の表情筋を動かす映像作品「electric stimulus to face」から肉眼の映像とCGをシームレスにつないだ映像を体験できる「border」、アーティスト・ビョークのVR動画で制作されたプロモーションビデオ「Bjork Digital」など、先進的な技術を使った作品を生み出しています。

「真鍋(大度)と石橋(素)の2トップで、多種多様な技術を使って実験をしています。たまにスタジオに行くと、ボールを跳ねさせたり、風船を飛ばしたり、BB弾で何か打って彫刻みたいなのつくったりと、よくわからないことをやっている(笑)。謎なんですが、実は一連の文脈があって。ハックの発想で、今まで交わらなかった分野や表現、機材とかを使って、自由な発想でいろんなものをつくる。それをアーカイブして、いろんなプロジェクトに使っていくということをやっています。比較的、クライアントがいないものが多いんですが、テクノロジーを軸に作品をつくっていくというのではなく、テクノロジーを道具として使ってしっかり表現をしていくというところで、コンセンサスがとれていると思います」

【クリエイティブディレクションのルール#3】
テクノロジーはあくまで「道具」として使う

クライアントとともに新しい商品をつくる「ライゾマティクスデザイン」。

ライゾマティクスデザインでは、紫舟さんという書家と一緒に書をずっと書き続ける作品をつくったり、メガネメーカーのJINSとメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME」のマーケティングやソフトウェアのコンセプトを手がけたりと、さまざまなプロジェクトを展開。最近では、セブンドリーマーズと世界初となる全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」を手がけました。

「セブンドリーマーズは、BtoBでカーボンファイバーを扱っている会社が母体となり、これからはBtoC向けの商品を自社ブランドで開発したいという想いでできた会社です。ライゾマティクスデザインでは、ブランドの立ち上げからクリエイティブパートナーとしてサポートしていて、彼らが開発した『ランドロイド』を、試作機の段階から、ブランディング、UX開発、製品デザイン、展示会などのクリエイティブ全般を担当しています。これは僕のディレクションの特徴ですが、よく『御社のIP(知的財産)を見せてください』って言うんです。IPというのは Intellectual Property、パテント(特許)や技術のこと。それを組み合わせて、今まで誰も思いつかなかった、もしくは社内では思いつかなかった、新しい製品をつくり出す。たとえば、BOSEがメルセデスのサスペンションをつくったり、富士フイルムが消しゴムをつくったりしたのもそうですよね」

【クリエイティブディレクションのルール#4】
IPから発想してアイデアを生み出す

そのほか、2019年に実物大の「ガンダム」を動かすことをめざすプロジェクト「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」に関わり、バンダイナムコ社内で流す映像も手がけました。

「せっかくつくらせていただくなら、やっぱり今までとは違う切り口で、アニメではなく実写でやりたいと思って。お台場の実物大のガンダムは武器を持ってないんです。ガンダムは、戦争を描くものじゃなくて、儚さとか、そういうものを語りたいというものから始まっている。仕事をいただいた日にスクリプトを一気に書いて、それを制作チームに送り、監督を決めてやり取りをして。そうしたら、ガンダムオタクの人がストーリーのつじつま合わせをしてくれたり、関わる人みんなが『つくるんだったらとことんいいものを』とやってくれた。みんなが同じテンションで動いたからこそできたプロジェクトです」

【クリエイティブディレクションのルール#5】
最初の考えを一気に現場まで行き渡らせる

Rhizomatiks Architecture「CURTAIN WALL THEATRE」(2016)

建築や街でのテクノロジーを使った表現を追究「ライゾマティクスアーキテクチャー」。

「10年目にしてアーキテクチャーをつくったのは、2013年にやった『建築家にならなかった建築家たち』という展覧会がきっかけ。僕が建築学科を出たのに建築家にならなかったのは、若気の至りで『こんな遅いものはつくってられない』と思ったから。でも、いちクリエイターとして僕は何をつくるべきなのかというところに立ち戻って、建築的にいろんなものを解釈して、今までライゾマがやってきたテクノロジーを使った表現を、建築にどう入れていくことができるかということをやっています」

たとえば、脳波でカーテンを動かすインスタレーション「CURTAIN WALL THEATRE」、プレイする選手の動きにリアルタイムでLEDライトが反応するバスケットボールコート「House of Mamba」、かつて発電所だったロンドンの巨大な「バターシーパーク」でプロジェクション・マッピングを行ったナイキ「FUEL」のプロモーションイベント。さらに「上流から下流まで、なんなら現場で出る弁当まで見ていた」というプロジェクト、KDDIのプロモーションCM「FULL CONTROL」も。

「街をスマホでハックできるんじゃないかという発想でつくったのが『FULL CONTROL』。最初、渋谷のスクランブル交差点にサンタクロースが出てきて、パーティーが始まるんですが、ここが物議をかもし出しまして。知り合いから『許可取らずに撮影したでしょ、やらかしたね』みたいなことを言われたんです。でもそのシーンはCGなんですよね。面白かったのが、行政の方とかにこれを見せると、こういうことは実際にやるべきなんじゃないかというディスカッションが起こったりしたんです。ものをつくった結果、社会がどうなるか、人が思っていることがどうなるのかというところまでしっかりとディレクションができると、表現も次のレベルにいけるんじゃないかと思っています」

【クリエイティブディレクションのルール#6】
完成したあとの社会への影響も考える

「FULL CONTROL」の続編では、スマホで噴水をコントロールしたり、タクシーを動かしたりするシステムを実際につくり、増上寺をプロジェクションマッピング。今度はCGに頼らず、すべてをリアルでつくりました。

「これをやるのに、行政との協議がすごく多かったんです。今まで無理だったことって、今回も無理だろうというリミットがどうしてもかかるじゃないですか。でも、このときは意外といけるなという手応えがあって。打ち合わせをしているときに『そもそも無理ですよ』と言われたんですが、とはいえ1回話を聞きに行ってみたら、意外と普通にドアが開いたということがあって。最近は国家戦略特区になって特例として認めてくれるようなところもあるので、そういうことを勉強しておくと、今までにないことも可能だとわかったりすると思います。ここまで紹介したライゾマティクスのプロジェクトは、どれも、テクノロジーや知識、機材を「道具」として投入し、つくったもの。自分やクライアントが持っている道具を掛け合わせると、今まで見たことのないもの、新しいものができるということです」

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