PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07 「六本木未来大学」第9回 「水野祐さん、クリエイティブディレクションに必要な法との付き合い方って何ですか?」講義レポート【前編】

法律家としての水野さんの専門は知的財産権。ただし、クリエイティブ関連の仕事は一般的な弁護士より多いという程度で、ITやアプリ関連、最近では建築不動産分野の仕事も手がけています。また、知的財産権以外の民法、会社法、製造物責任法などさまざまな相談に対応できないと、多分野にわたるクライアントの仕事に対応できないそうです。「アーティストを支援しているとか守るとか言われますけど、クリエイティブに限らず、ビジネスも含めて、新しいものをつくろうとしている人、イノベーターを応援したいという気持ちなんです」。そう語る水野さん、続いて実際の事例を解説してくれました。

法は、イノベーションを社会に実装するための「コード」。

「法を、規制ではなく、社会の潤滑油としてドライブさせるものと考えられるんじゃないか。規制したり、拘束するという側面はもちろん法の大きな役割だけど、逆に、上手に設計すればクリエイティビティやイノベーションを加速させたり、促進したりして、最大化できるんじゃないかと思って活動しています」

これまで水野さんは、さまざまなクリエイティブ・プロジェクトに関わってきました。たとえば、ライゾマティクスの真鍋大度さんらが関わった著名なミュージシャンのプロジェクト。楽曲や3Dスキャンデータ、モーションデータなどを無料で公開、ウェブ上でグラフィックをデザインしたり、フィギュアをプリントできるというものです。

「本来、権利保護を一番強化しなければならないアーティストの知的財産をどうやって安全に、それでいて広く拡散・配布するのか、その利用規約を設計するサポートをしました。当時は、ミュージシャンとかアーティストという文脈で貴重なデータを配布した事例はほとんどなく、初音ミクやレディオヘッドがやっていた例を参照しつつ手がけました。クリエイターがやりたいことを否定するのではなく、そのプロジェクトの意義を受け止めたうえで成り立つロジックや仕組みを考えています。もちろん、ダメなものはダメだと言いますけれど」

そのほか、同じく真鍋さんのプロジェクトで、曲をAIに読み込ませてラブソングを生成する「Love Song Generator」に携わったり、最近ではChim↑Pomの取り壊し予定のビルを使用した展覧会「また明日も観てくれるかな?」では建築基準法や消防法との適合性を検討したり。また、顧問を務める山口情報芸術センター(YCAM)での仕事では、エンジニアとの協働が刺激になっていると言います。なんとクリエイターと交わす契約書すらもオープン化するという「GRP Contract Form」というプロジェクトも行っているそう。

「YCAMは、InterLabというエンジニア集団を抱えています。彼らはプログラムを書きますが、私がいつも書いている契約書を書く作業ととても似ていることに気づきました。契約をつくることって、企業とか人の関係性をプログラミングしている、という感覚に近いんですね。契約という社会を駆動するプログラムを上手に設計することで、イノベーターとか挑戦者といった人による、新しい試みをサポートしていくのが私の仕事です」

ロジックが、組織内や社会を説得するための大きな武器に。

「先日、『シチズンフォー スノーデンの暴露』という映画を観たんですが、 劇中で『法律家にロジックをつくらせろ』という言葉が印象的に使われていました。Facebookを創設したザッカーバーグを描いた『ソーシャル・ネットワーク』でも同じようなセリフが出てきて。こういう考え方は、アメリカでは当たり前だとされているようです。これまでロビーイングと言われてきたこともそうですし、最近ではグーグルなどが『パブリック・アフェアーズ(公共的側面から見た企業広報)』という言葉を使っています。社会的にもロジックをつくることは、以前にも増して重要視されてきているように思います」

水野さんいわく、前例がないことを成立させるためのロジックは3つ。1つめは法的な裏付け、2つめは前例を見つける、あるいはつくること。3つめは社会的意義。『新しさを社会に実装する』ときには、必ずこの3つが揃っているというのが水野さんの考え。具体的にどうロジックを構築していくか、その方法を教えてくれました。

「たとえば、道路や公園で何かプロジェクトをやりたいと思ったことはありませんか? でも、公園って共有地なのに、看板に禁止事項がばーっと書いてあったりします。都市公園法を見てみると、行為の禁止という項目に『みだりに〜してはならない』とか、『物品を販売』してはいけないという言葉がある。こういう多義的に解釈できる言葉が、法律が用意している"余白"なんです。多くの場合、第一条にその法律の目的が書かれているんですが、都市公園法の場合は『公共の福祉の増進に資することを目的とする』。であれば、公共の福祉の増進に資する行為であれば『みだりに』には当たらないんじゃないか? 『物品』の販売の禁止は、あらゆる物品ではなく、公共の福祉に資さない物品に限定されると解釈されるべきでは? こんなふうに法律の文言に隠された余白を解釈するためのロジックを、法律家は日々つくっているんです」

さらに、その「ロジック」は、一般的にも役立つこともある、と水野さん。

「何か新しいことをやろうとするとき、これをやれば盛り上がるよね、という意義の部分だけで進めることってよくあると思います。でも、それだけでは片手落ちになる。組織が大きければ大きいほどさまざまなプレイヤーが出てきて、企画書をたいして読んでいない人が『こういうリスク考えてないの?』なんて、頭のいいことを言いたがる(笑)。そのとき、ロジックは会社内部、クライアント、社会を説得する大きな武器になります。そして、こういうことを意識的、あるいは無意識的にやっているのが、新しいことを次々と達成している人たちなんです」

【クリエイティブディレクションのルール#2】
グレーゾーンのロジックを構築して社会を説得する

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