PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#04 森の学校 by 六本木未来会議【後編02】

前日とはうってかわって、11月2日は快晴。爽やかな秋風が吹く中、スピンアウト授業として、あいさつランデブー先生の授業「みんなで踊ろう!あいさつランデブー」も行われました。そして森の学校、最後の授業は"校長"の椿昇さんと長嶋りかこさんが担当。締めくくりには、おふたりからのメッセージもどうぞ。

執着せず、縁を大切にする、禅の教え。
〈自己〉「心の型と体の型」古川周賢先生

「お寺では、3時半に起きます(笑)。お経を読んで、そのあとは禅問答。『タンスの中から富士山を出せ』なんて問題もあるんですよ。で、5時半くらいにおかゆを食べて、そのあと掃除。7時半からは托鉢して、お昼ご飯を食べたら肉体労働。夕方4時半に夕飯を食べたら、そのあと何も食べないんです」

1限目の先生、古川さんは、禅寺「恵林寺」の住職。お寺で物質的に限定された生活を送っていると、ご飯がものすごくおいしく感じられたり、天気を予測できたり、五感がシャープになるというエピソードから、話題は「捨てる」ということへ。

「禅では、捨てることを『放下』といいます。捨てるものには、それにふさわしい捨て方があります。時計を捨てたって、時計の値段分がなくなるだけど、もし家族を捨てたら恨まれることもある。そうでしょう? よくいわれる『断捨離』は、ポイッと捨てて見えなくすること。でも『放下』は、念を残さない、執着しないということ。本当に捨てるっていうのは、自分で思いを切り離す、心の問題なんです」

続いて、事前に参加者から募った質問に、一つひとつ答えていく古川さん。たとえば「生きることの意味とは?」という質問には、次のように答えました。

「考えてみてください。みなさんが生まれたのは、お父さんとお母さんの縁があったから。人生って、生まれるずっと前から、縁でつながっているんです。少なくとも今、自分がここにいるのは、誰かのおかげでしょう? 誰かにしてもらったことは、誰かに返す。でも、それを直接返すことはできないから、次の世代に返していく。それが生きることの意味、そんなふうにして人間は暮らしているんです」

命の現場に「ルール」を持ち込んだ、現代社会の歪み。
〈生命〉「命のいま、昔、そして未来」遠藤秀紀先生

「動物の亡きがらと一緒に空気を吸っている人間がその思いを伝えて、(みなさんの)意識にちょっと小さな小石を投げられれば。それが今日、僕にできる唯一のこと」と語りはじめた遠藤さんは、東京大学総合研究博物館に勤める解剖学者。解剖学のこと、教育のこと、勤務している博物館のこと。さまざまな話のあとで、取り出したのは巨大な骨。

「これ、何の骨かわかるかな? ゾウじゃない、カバじゃない。そう、キリンの骨。首? すね? 違うんだよね。これ、手の平なんですよ。キリンって、本当に長いのは首じゃない、手の平だ。この骨の先っぽの曲面、ここをさわるのがたまらない。命を感じるって、私にとってはそういうことなんですよ。最高なのは、その意味を感じられたとき。今、それを理解してさわっているのはおれだけだぞって」

「合理的にやれとか無駄なくやれとか、余計なお世話だと思っています。命の現場に、ルールとかカネを持ち込んじゃいけない。ある大手ハンバーガーチェーンは『牧場からお客様に届くまで、厳しい品質管理を守り続けています』といいます。そこには、牧場→配送→ストア→テーブルと書かれている。牛を一頭も殺さずにハンバーガーをつくっているんでしょうか? 市場原理、合理主義に走っている経済活動が、命を考える機会を与えてくれることは絶対にありません。普通の人よりも死との距離が近い僕は、そんな現代社会の命に対するかなり大きな歪みを感じながら、日々を過ごしています」

「なんで?」のひと言が、人と人の距離を縮める。
〈適当〉「なんでなんでピクニック」大宮エリー先生

芝生にレジャーシートを敷いて、みんなでわいわいおしゃべり......。ほのぼのとしたこの光景は、大宮エリーさんの授業の様子。参加者を小学生から高校生と保護者に限定して、「サンドイッチの具を持ち寄る」というルールで行われました。まずは持ってきた具を発表しながら、みんなで順番に自己紹介。そのつど、「なんで?」「どうして?」と、大宮さんは質問を投げかけます。

「こうやって『なんで』って聞いていくとさ、エピソードが出てくるんです。初対面同士だと、ちゃんとしたことを話さなきゃって思うからなかなか話せないけど、ちょっとしたことでも質問してみると、意外な話が聞ける。『イチゴジャムのつぶつぶが好き』とかさ。それで、相手のことも覚えるじゃない?」

サンドイッチの具の紹介、最後は先生の番。脇に置いた紙袋から出てきたのは、カニ缶とマヨネーズ。

「ちょっと混ぜてくる時間がなかったから、タッパーに入れてそのままもってきちゃったけど。理由は、私はすごくカニが好きなんですね。仕事が忙しかったりすると、ご飯にカニをのせて卵をかけて食べるくらい。あとはみなさんと一緒で、ちょっとカニ缶が余ってたからなんだけど(笑)」

その後は、お互いに具を交換、みんなでおしゃべりしながらサンドイッチを食べることに。「あ、これおいしい!」「よかったら私のもどうぞ」と、ピクニックそのもの。「初対面同士でピクニックするっていうのもなかなかないよね」と大宮さん。

「今日は、授業っぽくしたくなかったからこの形にしてみました。前に大学で教えていたとき、学生に興味のある本を選んでもらって、理由を聞いてみると、その人の隠れた想いが出てきたりしたんです。だから、『なんで?』『なんで?』って聞くことで、みんなとの距離が近くなるかなって。また、みんなで会えたらと思います。ありがとうございました!」

整理しきれない、混沌とした感覚を蘇らせる。
〈五感〉「想像の森」椿昇校長&長嶋りかこ校長

「今日は、みなさんに埋めてもらうためのドングリを持ってきました。この森はきれいに掃除されていてあまり落ち葉がないけど、それはきっと文句を言う人がいるからですね。『子どもが落ち葉で滑って頭を打ったら補償してくれるんですか』って。ドングリは、そんなバカな社会へのささやかな抵抗です(笑)」(椿)

「ドングリ・テロですね(笑)。私の田舎では、お月見のお団子を子どもが盗んでいいっていう習慣があったんです。昔はもうちょっとゆるやかだった。でも今、こういう場所で木になった実を食べると、きっと怒られる。今日はキッチリ整理されていない、混沌としたものを生み出してほしいです」(長嶋)

参加者に配られたのは、目の部分が塞がれたキツネのお面。一つひとつに装飾が施されたこのお面、椿さんが教鞭を執る京都造形大学の学生が手づくりしたものだそう。

「まず、このお面を被ってください。ハロウィンじゃないですよ(笑)。目隠しをされた状態で、レモンバームと白樺の匂いを嗅いでもらいます」(椿)

「そして、その匂いを絵に描いてみてください。具体的なものじゃなくて、イメージをそのまま絵にしたほうがいいですね」(長嶋)

「このあとは、お面を被ったまま、森の中を手探りで歩いてもらおうと思っています。肉球のついた手袋やシッポも用意していますから、"不思議な森の動物"になってください。また『森の洋服屋さん』にも来てもらっています。端切れがいっぱいありますから、オリジナルのアイテムもオーダーできますよ」(椿)

絵を描き終えると、今度は仮装大会。足踏みミシンで襟巻きをつくってもらったり、お互いにシッポを付けあったりと、みなさんオシャレに余念がありません。その中には、1限の先生・古川さんの姿も!

最後は、椿さんも長嶋さんもお面を被って仮装に参加。そのままの格好で、前の人の肩につかまって一列になって進み、ミッドタウン・ガーデンをぐるりと一周。「(肩につかまってると)前の人の骨格がわかるようになってきた」「地面が柔らかいから、ここは芝生?」「あ、今、トンネルに入ったぞ!」と、みなさん、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされてきたよう。これで、すべての授業が終了しました。

ファンタジーを通じて"気づき"を与える。それがクリエイターの役割。

終了後、椿さんと長嶋さんに「森の学校 by 六本木未来会議」の感想をうかがいました。全4回にわたってお送りしたプロジェクトレポートは、おふたりの言葉で締めくくりたいと思います。

「私自身もいくつかの授業を受けたんですが、先生たちのパワーがすごかったなって。名児耶さんの授業のときなんて、彼女が歌う姿と、それにどんどん引き寄せられる子どもたちを見て、泣きそうになっちゃいました。森の学校、今回だけじゃもったいない!」(長嶋)

「やってみて、意外と大人のほうがこういう授業を求めているのかなって思いました。今は、本当の豊かさが知らぬ間に失われています。そこに気づきを与えるのが、アーティストやデザイナーの役割。森の中に賢者が現れたり、妖精が踊っていたり、本当にファンタジーみたいなプロジェクトでしたね」(椿)