PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#15 「六本木、旅する美術教室」 第1回 グラフィックデザイナー長嶋りかこの美術展の見方【後編】

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『教室』 2017年

ものの見方をどう学校で教えていくか。

 これまで見たり、触れたりした美術館、展覧会で心に残っているものをたずねると、日本の芸術祭の名前があがりました。

「近年は日本でも芸術祭が乱立していますが、日本に芸術祭がまったくなかった頃に見た『瀬戸内国際芸術祭』や『越後妻有 大地の芸術祭』は衝撃が大きくて。社会に明確に機能する芸術のあり方を作れるんだな、と驚きました。今は乱立してしまったことや、芸術に明確な役割を求めすぎたことの悪い側面も出てきていると思いますが、誰でも気軽に美術に触れる機会ができたことは良い面だと思います。海外だと美術館には無料で入れるのに大規模な展覧会をやっていることもあって、お年寄りも子どもも公園感覚で美術館に入ってアートに触れる。そんな環境は、すごく意義があるなと感じていたので」

 たしかに、日本は気軽にアートに触れる機会が多いとは言えないのかもしれません。美術館に行くことへのハードルが高いのは、美術教育にも理由があるのではないでしょうか。

「私は美大出身ですが、振り返るとどうしても手法を習うことが主となりがちだったと感じました。美術教育って、本当は"ものの見方"だと思うんですよ。何をどう捉えたのか、なぜ作るのか。その"なぜ"を形にするために"どうやって"作るのかっていう、そこで初めて手法の話になるはずなんですよね。自分がつくる意味に自覚的であればあるほど、作ったものは人に何がしかの影響を与えるのではないでしょうか。ものの見方の意見がある作品は、作ったものが人に与える影響も変わる。

見た人にとっては、日常がひっくり返るとか、見えてこなかったものが見えるようになり始めたり、世の中の小さな声が大きな声になったりする。そういう大きな変化を、もたらす可能性があるんですよね。

日本だけかもしれませんが、振り返ると美術教育は"なぜ"より"どうやって"が先行している気がします。逆に欧米では"なぜ"にとことん向き合う。例えば日本人の若い建築家志望の学生は世界ですごく重宝されると聞いたことがあります。理由は、めちゃくちゃ精度の高い模型が作れるから。その現状が本当なのだとしたら、教育の現場の一側面を表している気がします」

日常では出会わない、別の言語を知る。

 廃校になる小学校の生徒に向けて、過去にワークショップを開催した際、こんな試みをしたと言います。

「小学校での思い出を絵に描いてもらったんですが、その際に絵を描くための道具ではなく、おはじきやビーカーなどを渡して、それで描いてもらいました。そうするといつもは書かないような、別の新しい言語が生まれるんです。

たとえばある子は騎馬戦を描いたのですが、抽象的な絵なのに闘っている状況とか熱量とかがわかるんですよ。実際に描いた子どもも、"あ、なんか描けた"と手応えを感じていました。自分が今まで描いてきたり見てきたような、具体的なものとは違う、別の騎馬戦があるんだという事実が目の前に立ち現われる。それが、すごくおもしろかったですね」

 その感覚はアートをいかに自分にたぐり寄せるか、ということでもある。美術館を楽しむときもその感覚が大切。

「これまでに出会ったことのない、見たことのないものにも、どこかに必ず接点があるはず。"もしかしたら、こういう気持ちで創造したのかな""こういうことを批判しているんじゃないか"と、何でもいいから感じ取ってみること。その気持ちって、実は自分を映す鏡になるんですよね。作品に触れることで、自分自身から出てくる感想や感情に出会い、今何に関心があるかがわかったり、興味のあることに気づいたりすることで、自分のもとにアートをたぐり寄せられるんじゃないかなと思います」

【アートの見方#6】
自分にアートをいかにたぐり寄せるか。作品と自分の接点を探す。

 長嶋りかこさん流、美術館の巡り方。共通点はありましたか? まだエルリッヒの不思議な世界を体験していない方は、この記事を片手に、森美術館で開催中の『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』を訪れてみてはいかがでしょうか。一度訪れた人も「見方」を意識してみたら、新しい発見があるかもしれません。

前編はこちら

【information】
レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル
会場:森美術館
会期:2017年11月18日(土)~2018年4月1日(日)
休館日:会期中無休
開館時間:10:00~22:00(最終入館21:30)
※火曜日のみ、17:00まで(最終入館16:30)
入場料:一般1,800円 高校生・大学生1,200円、子ども600円、シニア1,500円
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します): http://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/LeandroErlich2017/