PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07「六本木未来大学」第15回「寺尾玄さん、新しい体験を提供するって何ですか?」講義レポート【前編】

project_07_31_main2.jpg

「やりたい」の気持ちが第一で、"それをやっているだけ"の会社。

音楽を辞めても自分の中のクリエイティブのエンジンが回り続けていることに気づいた寺尾さんが始めたのが、会社設立の準備でした。

「音楽やっていたのに、その後ものづくりへよく急にシフトしましたね、と言われます。でも自分にとっては、ギターをドライバーに持ち替えて、ここまでただ一本道を歩いてきたつもりです。音楽の夢は終わったものの、情熱は終わっていない、と。情熱の次の行き場を見つけなくてはいけない、と自分で感じていたんですね」

「ビジネスの世界で、もっと格好いいことやっている人たちがいるかもしれない、と探したところ、"やりたい"がまず始めにあり、それをやり続けている、ロックバンドのような考え方をしている会社を見つけたのです」

それが、アップル、パタゴニア、ヴァージン・グループの3社だったと寺尾さんは話します。

「ロックバンドを想像してください。彼らは、オーディエンスが何を聴きたいか、というマーケティングからは始めません。どういう曲が流行っているのかなって分析してやるバンドっていうのは、真のロックバンドではないでしょうね。4人が集まり、衝動的に出てきてしまった音楽、すなわち自分たちが本当に好きだと思う音楽を世に広めようぜ、と活動をするのが、ロックバンド。そんな衝動を彼らは会社として実現しているように見えたんです」

この3社はマーケティング調査から何かを始めるのではなく、「自分たちがほしい!」ものを作ることから始めているのではないか? つまり、クリエイティブから事業が始まっているのでは? という気配を感じた寺尾さんは、自らも、ものづくりへと邁進するのです。

【クリエイティブディレクションのルール#2】
ものづくりは必ずしもマーケティング調査から始まるものと考えない

1020六本木未来大学153.jpg

工場に通い、ゼロからものづくりを教えてもらった日々。

ギターは弾けたものの、ものづくりについてはまったくの門外漢。当時、アルバイトを終えると秋葉原などの街へ通い、まずは「もの」について知るところから始めました。

ものづくりを学ぶためには、まず用語を知る重要性に気づき、ステンレスやアルミ、木材やゴムの問屋、またある日はベアリングメーカーへも自分の足で通い質問しながら学んだ寺尾さん。こうして知った用語をネット検索し、次はそれらを扱う工場へと出向き、部品作りに協力してくれる工場を探し回るようになりました。

「30〜40軒ほど門前払いを受け続けましたが、自分でCADを覚えて図面を描き、この部品を作っていただけますか? という聞き方に変えたところ、一軒の工場と出会うことができました。それが東小金井の駅近くの春日井製作所です。社長と弟さんともうひとり、たった3人の職人でやっているアルミ製作工場で『うちの機械使っていいから自分で作りなよ』と言ってもらえたんです」

まさに天使のような存在との出会いを果たした寺尾さんは、それからはアルバイトが終わると毎晩、加工技術を習いにその工場へ通いました。

「やすりのかけ方から旋盤、フライ盤など、簡単な工作機械のことを教えてもらい、だんだんと自分で部品を作るようになっていった......それが、バルミューダという会社の始まりです」

そして、最初の商品であるアルミ製の「X-Base」というノートブック用の冷却台が誕生し、寺尾さんは会社を設立しました。

EGF-IMG_9016.jpg

会社設立後最大のピンチのなかで生まれた「GreenFan」。

「いまでも「X-Base」はバルミューダのラインナップから外していない製品です。これができたとき、売れるんじゃないかな、と率直に思えたんですよね。でも会社を始めるのは怖かったですよ。それこそ、清水の舞台から降りるような覚悟で。でも商品梱包のための緩衝材も自分で作り、家に持っていたデジカメで製品を撮影、初めてのフォトショップで仕上げ、自分でウェブサイトを立ち上げました」

35,000円ほどの決して安くない冷却台が初めて売れたときには、「あまりにも嬉しくて、お客さんのところに直接持って行こうかと思ったほど」。その後も次々と注文が入ってきて、気づいたらひと夏で100台も売っていたのだといいます。

2003年に会社を創業してから14年間、順風満帆にやってきたのかと思いきや、いまでも会社が続いてきていることが信じられないときすらある、と寺尾さんは語ります。

「特に、リーマンショックの煽りは大きく、私たちの会社は倒産寸前になりました。でもそんなもう寄る辺もない状況のときにも、近くのファミリーレストランを見れば人はごはんを食べているわけです。自分たちだけが取り残されたような気持ちになりながらも、一方では『好不況関係なく、どんな状況でも人は必要なものは消費するんだ。自分たちの商品は、人々に必要なかったから売れなかったんだ』と心の底からわかったんです」

真正面から煽りを受けて倒れるのではなく、会社があるうちに一番やりたかったことをやって前に倒れよう、と思った寺尾さんは、いつか作れたらとアイデアだけがあった扇風機の開発にすべてを注ぎ込むことにしました。当時はまだ家電を作ったこともなかったバルミューダにとって、いちかばちかの大勝負。

「扇風機から出る風の渦を消し、自然界で吹いているような気持ちのいい風を送れる扇風機『GreenFan』を作りました。周囲からは、まず元からあった事業の立て直しが先ではと言われたけれど、他をすべてやめて挑んだ勝負でした。でも、発売してみれば予想を上回る大ヒット商品になりました」

人生をかけた、会社が倒産するか、あるいは大きく飛躍し次のステージに行けるかの勝負どころ。寺尾さんは、一歩も引かずにとことん向き合ったことで次に進むことができました。

「会社を大きく変えてくれるのは、いつだって商品しかないんです。しかも、不可能を証明することはそれこそ不可能です。なぜならまだ不可能を打開する方法を思いついていないだけかもしれない。だからいつだって、まだ誰もが体験していないけれども確実にすばらしい商品を人に届けるガイドをする際、つまりクリエイティブディレクションをする時は、そこで考えうる限りの可能性を使いきらないといけないんです」

【クリエイティブディレクションのルール#3】
 勝負では一歩も引かず可能性を使う

【information】

「寺尾玄さんの講義を復習してみよう」
六本木未来大学アフタークラス
【講師】横石崇(「TOKYO WORK DESIGN WEEK」発起人/オーガナイザー。&Co.Ltd代表取締役)
【開催日】2017年11月28日(火)
【時間】19:00〜21:00(予定)
【参加費】2,000円 
【受付】お申し込みはこちらから ※外部サイトへリンクします
【場所】東京ミッドタウン・デザインハブ(ミッドタウン・タワー5F/東京都港区赤坂9-7-1)