99 津森千里(ファッションデザイナー)前編

津森千里_02

自分が楽しいなら、周りの人も楽しいはず。

I.S. chisato tsumori design I.S. chisato tsumori design

イッセイミヤケインターナショナルでデザイナーをしていた津森さんが、1983年、チーフデザイナーに就任して立ち上げたブランド。前身は「ISSEY SPORT」。「WAKU WORK 津森千里の仕事展」で復刻し、Tシャツやブルゾンなどが会場限定で販売された。

 楽しくて幸せな気分、つまりハッピーを提案したいっていうのは、ずっと前から思っていたこと。「TSUMORI CHISATO」を立ち上げる前に「I.S. chisato tsumori design」のチーフデザイナーをやっていたときも、おもしろくてみんなに楽しんでもらえるような服をつくりたいなといつも思っていました。もっと言うと、物心ついた頃から漠然とそんなことを考えていたのかもしれません。

 絵を描くのが好きな子どもで、といってもほんとにみんなが描くようなチューリップとか、女の子の絵とかを描いていたんですけど、それを見た人がおもしろがったり、喜んでもらえたことが嬉しかったんですよね。あるとき、私が描いた絵を父親が仕事場に持って行ったんです。「『うちの娘が描いたんだよ』って会社の人に見せたら、『上手だね』って言ってくれたよ」という言葉で有頂天になっちゃって、漫画家になりたいとずっと思っていたくらい。あのときの幼稚園児が、そのまま大きくなっちゃった感じなんです。

 自分も楽しいんだったら、周りの人もきっと楽しいに違いないっていう思いが、洋服をつくる原動力なのかもしれません。ハッピーな気分をおすそ分けしたり、シェアしたりして、つながっていけるといいなと思っているので。自己満足かもしれませんが、自分だったらこんな服を着てみたいっていう欲求を形にしたいんです。ひとりのリアルユーザーが、ここにいる感覚ですね。自分が欲しい服を欲しがる人は、ほかにもきっといるだろうし、もし日本にいなかったとしても、ほかの国の女性たちが欲しがってくれるはず、と思ってつくっています。

 今は多少変わってきましたが、日本ってパーティに行く機会がどうしても少ないから、ロングドレスを着るチャンスがなかなかなくて、あまり売れなかったりするんです。そういうことを気にせず、お姫様ルックなロングドレスをつくっちゃうこともあるんですけど、夏のカンヌとか香港なんかでは人気だったりするから。人とはちょっと違う格好をしたいっていう方が、買ってくださるんでしょうね。

時代と逆行している私は、絶滅危惧種。

 小さい女の子って、リボンをつけたり、フリルをつけたりするだけで、すごく喜ぶじゃない? 大人になって頭に大きなリボンをつけるのはちょっとつらいかもしれないけど、下着とかにさり気なくついているだけで気分が上がったりするでしょ。かわいらしさっていうのは、年齢を問わず永遠に女性が好きなものなんでしょうね。

 その点、「TSUMORI CHISATO」の服は女の子っぽいけど、セクシーな雰囲気もあるんです。だって誰でもそうだと思うけど、ひとりの女の人のなかにガーリィな面もあるし、セクシーなところもあったりするじゃないですか。単にかわいいだけじゃなく、セクシーで、スポーティでもあり、ボーイッシュでもあるほうが魅力的だし、その日の気分で毎日いろんな自己演出をできるのが、洋服のおもしろいところ。そういう意味では、男性よりも女性のほうが遊べるし、洋服やメイクで自己演出をすることで毎日をハッピーに送ることができますよね。

 ハッピーの基準は人によって違うけれども、私ができる唯一のことは着るとアガるような洋服をつくって、その気分を共有すること。人が楽しそうにしているのを見ると、周りもなんとなくハッピーになれるじゃないですか。反対に悲しい気持ちや嫌な気持ちみたいな、ネガティブな感情も連鎖しやすいものだけど、せっかく連鎖するなら楽しいほうがいいですからね。

 それを「愛」って言葉に置き換えると照れくさいんだけど、やっぱり洋服は愛をもってつくらないといけないですよね。着る人は、愛がこもっているかどうか敏感にわかっちゃうものなんです。手を動かしてつくったものには温かさがあって、図案ひとつとっても、手描きのものとタブレットで描いたものとでは、愛の伝わり方が全然違う気がします。私は生地にストーリーを感じることがよくあるのですが、素材なんかも天然のものには愛を感じちゃいますね。手がかかればかかるほど、人の念がこもってパワーが生まれるから。今は時代的に効率化の方向に進んで、手仕事がどんどん難しくなっていますが、手をかけてつくったものには愛がある。私は時代に逆行するような服のつくり方をしているので、自分のことを絶滅危惧種って呼んでいるんです。

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津森千里 / ファッションデザイナー
1973年、文化服装学院デザイン科に入学。卒業後、1977年株式会社イッセイ ミヤケ インターナショナルに入社し、「イッセイスポーツ」のデザイナーに。1983年、同ブランドから「I.S. chisato tsumori design」に名称が変わり、チーフデザイナーに就任。1990年、I.S.から独立して「TSUMORI CHISATO」をスタート。2003年10月に2004SSコレクションをパリで発表。以後、発表の場をパリに移す。2017年にはニューヨーク・シティ・バレエ団の依頼で、「2017 FALL FASHION GALA」の衣装をデザインするなど、多岐にわたって活動している。