102 目[mé](現代芸術活動チーム)後編

目_04

鑑賞者を通して、つくり手が得られるアートの実感。

『おじさんの顔が空に浮かぶ日』 『おじさんの顔が空に浮かぶ日』

おじさんの顔写真の一般応募者のなかから1名の顔を選び、巨大な立体物にして、2日間にわたって空に浮かび上がらせた、代表作のひとつ。2014年、宇都宮美術館の館外プロジェクトとして発表。今年2019年から、新たなプロジェクト『まさゆめ』として、国籍・年齢・性別を問わず、世界中から顔を募集し、2020年東京の空に1人の顔を浮かべる。
https://masayume.mouthplustwo.me/
主催:東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
2013-2014年 展示風景:「宇都宮美術館 館外プロジェクト2014」(栃木)

『憶測の成立』 『憶測の成立』

国道に面した旧店舗に、そこにはなかったが、元々あったようにしか思えないコインランドリーをつくり出し、会期途中から鑑賞希望者が行列をなした作品。「越後妻有 大地の芸術祭2015」で発表。
2015年 展示風景:「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」(新潟)

荒神最初に南川が今回の作品についての説明でも話した、鑑賞者の反応。気づきを得てハッとしたり、急に写真を撮り出したり、想像していなかったようなストーリーを話し始めたり、鑑賞者が主体的になる瞬間を目の当たりにすると、こちらもハッとしたり「だよねー!」って思ったり、ときどき涙が出るくらい嬉しくなるんです。そうやって心を動かされて、新しいものが生み出される瞬間が自分にはとても大事で、最近はむしろそこにアートの実感を得ています。

南川つくり手は鑑賞者を通してしか、作品に出くわすことができない。

荒神鑑賞者の行動で、私が聞いた一番好きな話は、『おじさんの顔が空に浮かぶ日』のとき。タイトル通り、15mのおじさんの顔の立体物を街の空に浮かべたんですけど、それを見たふたりのおばさまの話で、お互いが橋の両側から歩いてきて、橋の上から空に浮かぶおじさんの顔を見て、知り合いでもないのになぜかそのままふっと抱き合って、お互いに涙を流したそうなんです。

南川『憶測の成立』という作品では、今だから言えるけど、空き家を使ってそこが元々コインランドリーだったようにしか見えないような空間を作ったんですが、当然「ここはもともとコインランドリーだったの?」と質問する鑑賞者が結構いて、すると地元のおじいちゃんがいろんな人に「ここは昔からコインランドリーだったよ」と勝手に答えていたらしくて。どこでそう思い込んでしまったかわからないですが、そんな勘違いが広まることで作品の見方に大きな影響を与えていることがおもしろいと思います。

どんな作品も馴染んでしまう、六本木という特殊な導線。

南川森美術館は、いろんな広告を通り抜けて最終的に展示室に辿り着くっていう、かなり珍しい導線と言えるかもしれません。地方の美術館で同じ作品があったら、見え方は当然違ってくるんでしょうけど、六本木の場合は派手な映画のポスターとか、ファッションや巨大なモニターなど、広告をいっぱい見てから、作品と出会うことになるから、わりとどんな作品でも良くも悪くも馴染むということが影響していると思います。ヨーロッパとか文化や評価の成熟したような場所では、こうはならないかもしれないですが、逆に日本は経済的に成立していたら何をやってもいいようなところが特権かもしれないし、そこは世界一自由なんじゃないですかね。

そう考えると、街を変えるのはそんなに難しいことではなく、いろんなことができそうにも思えてきますよね。六本木なんてこれだけ強固で、ビルばっかりで、もうまったく手を入れられないように見える場所なのに、いろんな人がまだなんかやってやろうって思っていること自体がおもしろいし、そんな都市ってなかなかない気がします。

実を言うと僕には野望があって一角だけでもいいから街を和風にしたいんです。本当の木造建築とかじゃなくて、和でできている"ような"でいいんです。むしろその浅さがいい。江戸時代に景観が異常に発展していたみたいな、圧倒的に変で美しい街になると思うし、高速道路なんかも逆にかっこよく見えると思いますよ。無機質な高層ビルだってちょっと手を加えるだけで和風にできるだろうし、そういうことは得意なので勝手に見積もりを出したいくらい。

荒神私はまったく無意味な空間をつくってみたいですね。何もないこと自体を受け入れるような無法地帯みたいな場所があったら、おもしろいんじゃないかなって。先日渋谷のハロウィン騒動がありましたけど、悪いことをしたかったわけではなく、自由を共有したかったというか、みんなで「いる」ってことを確認し合いたかったんじゃないのかなって思うんです。だからここは自由な場所ですって言われたら、人はどんな風景をつくろうとするのか興味がありますね。

南川自分が今、興味があるのは、知り合いのお坊さんに教わった仏教の「空」という概念。「あること」と「ないこと」は一緒だっていうことの意味をとにかく知りたくて。でも荒神は知っているらしくて、「目を閉じたら世界はない」とか、お坊さんと同じことを言うんです。知ったかぶりかもしれないけど(笑)。

荒神南川はいろんなところでおもしろい話を仕入れてきて、私にいろいろ質問してくるんです。南川とか鑑賞者が気づいて発した言葉が、私にも響くことがよくあるのですが、その人がどういうふうに考えて気がついたのか、その過程に今は関心があります。今回の作品でも鑑賞者がどう反応して、それをどんなふうに吸収できるか、すごく楽しみですね。

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取材を終えて......
お互いを信頼し合っている3人ですが、もともとアーティストとして活躍してきた実力のある人たちが、チームになるという選択は決して簡単ではなかったはず。だからこそ月2回のメンタルミーティングもいまだ必要なのでしょう。しかし、さまざまな感情を掻き立てる作品を発表し続ける彼らは、すでに唯一無二の存在。2020年には、なんと東京の空に「誰かの顔」が浮かぶそうです! (text_ikukohyodo)



南川憲二 / ディレクター(目[mé])
1979年大阪府生まれ。2009年、東京芸術大学大学院美術研究科修了。アート作品のアイデアを一般募集し、参加と実現に移す表現活動wah document(わうどきゅめんと)を立ち上げ、各地で活動を展開。

荒神明香 / アーティスト(目[mé])
1983年広島県生まれ。2009年、東京芸術大学大学院美術研究科修了。アメリカ、ブラジルなど、国内外で作品を発表。日常の風景から直感的に抽出した「異空間」を美術館等の展示空間内で現象として再構築するインスタレーション作品を展開。

目[mé]
アーティスト荒神明香、ディレクター南川憲二、インストーラー増井宏文を中心メンバーとする現代芸術活動チーム。2012年結成。果てしなく不確かな現実世界を、私たちの実感に引き寄せようとする作品を展開している。手法やジャンルにはこだわらず、展示空間や観客を含めた状況、導線を重視。個々の特徴を活かしたチーム・クリエイションに取り組み、発想、判断、実現における連携の精度や、精神的な創作意識の共有を高める関係を模索しながら活動している。