100 尾崎マリサ[スプツニ子!](東京大学生産技術研究所特任准教授・アーティスト)後編

スプツニ子!_04

六本木から女性が生きやすい世界に。

 最近になって、あらためて自分のなかで確信をしたのですが、私には「達成したい未来」があって、その未来とは、女性がもっと生きやすい世界になること。それを六本木から発信できればいいですね。

 私は女性として生まれて、理系で、いろいろな夢や大志を抱きながらも、日本で生まれ育ちましたが、残念なことに、上の世代の女性の研究者は少ないし、女性の政治家も少ないし、管理職も少ない。学校では、男の子も女の子も夢をもってがんばっていいんだよ、と言われるのに、その先には未だに、女性は結婚したら家事育児をするものだという社会通念がある。2018年には東京医大の試験で女性を一律減点していたという事実が発覚しましたが、日本の女の子たちは、女なのに医者になるの? 女なのに勉強をするの? という偏見を乗り越えてがんばってきたのに、大学にまで差別されるなんて、信じられないような人権問題です。

 その偏見や性差別の問題は、日本人の女性だけではなく、ロンドン時代に知り合ったアジアの女性たちが共通して抱えていたことでもあって、アジア文化に根付く結婚観や夫婦観は、どうしても、女性が男性を支えるというイメージがある。女性が活躍、いいじゃん! と言いながら、結婚した相手には、俺を支えるもんだろ、というのが染み付いている気がするし、女性とは、俺より弱く愚かなもの、みたいな。例えば、テレビでキッチンのリノベーションの紹介をするときに、「こんなに使いやすいキッチンなら、奥様も喜びます!」って、妻しかキッチン使わないのかー! とか。

 そういう価値観を恐れるがあまり、パートナーを見つけられない女性たちも多いと思います。でも、妊娠出産のタイムリミットだけは変わらないので、戸惑っていたり、忙しくしていたら、あっと言う間に、いつ産むの? 誰と産むの? 産めるの? ってことになる。

女性をバイオロジーから解放したい。

 未婚女性が卵子凍結をすること自体がまだタブーだと思われているけど、卵子凍結や精子バンクの分野にも興味があるし、新しい家族像の構築にも興味があって、女同士だけで子どもを育てるという選択だってあるかもしれない。もっともっと、女性の新しい「生きやすいかたち」を描き出し、発信することで、現代女性が抱える苦しさを少しでも減らしたい。究極的には、私は、女性をバイオロジーから解放したいんです。

 その目標がはっきりしたので、今、アーティストとして「テクノロジーでわくわくする未来を描いてください」というオファーは全部、断わっています。もうね、そんな、"わくわく"を描いている場合ではない! 性差別に関する分野からは、誰からも仕事のオファーは来ていないのだけれど、頼まれたからやるのがアートではないし、女性が解放されるというのは、政治家や大企業のおじさまたちには見たくない未来なのかもしれないけれど、未来は自分がつくるもの。私は、私が望む未来に向かって、全力でやっていきたい。

 実は今、起業も考えているんです。この分野の根強い問題がアジアに共通するものであるなら、アジア全体を視野にできることはたくさんあるはず。「尾崎マリサは極端なことを言っている」と思われるかもしれないけど、それはそれで、いいと思っています。私がちょっと極端なことを言ったり、極端なことをやれば、議論や選択の幅が広がりますよね。「あの人が言っているところまではいかないけれど、私も、ここくらいまではいけるかな」と、女性たちが一歩先に進めるようになるだけでも、意味があるのではないでしょうか。

>前編はこちら

取材を終えて......
街ですれ違ったら、尾崎マリサさんその人と知らなくとも思わず振り返ってしまう美しさ。と同時に、話を聞けば聞くほど伝わってくる、意志の強さ。「スプツニ子!」なのか「尾崎マリサ」なのか、アーティストなのか、研究者なのか。「私には達成したい未来があり、そのためなら名前や肩書、手段はなんでもいい」。そう言い切る潔さも印象的でした。「女性がもっと生きやすい世界」に向けて。これからますます広がっていくであろう尾崎さんの活躍が楽しみです。(text_tami okano)



尾崎マリサ(スプツニ子!)/ 東京大学生産技術研究所特任准教授(アーティスト)
1985年東京都生まれ。東京大学生産技術研究所特任准教授。ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士課程を修了。2013年からマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教としてデザイン・フィクション研究室を主宰し、2017年より現職。RCA在学中より、テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作。最近の主な展覧会に,「Japanorama」(ポンポドゥー・メッツ,フランス)、「NEW SENSORIUM」(ZKMアートセンター,ドイツ)など。VOGUE JAPAN ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013受賞。2016年 第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」受賞。2017年 世界経済フォーラムの選ぶ若手リーダー代表「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。著書に『はみだす力』。共著に『ネットで進化する人類』(伊藤穣一監修)など。