100 尾崎マリサ[スプツニ子!](東京大学生産技術研究所特任准教授・アーティスト)前編

スプツニ子!_02

肩書きや名前はなんでもいい。

東京大学生産技術研究所 東京大学生産技術研究所

目黒区駒場などに拠点を持つ工学を中心とした研究所。尾崎さんは2017年10月に特任准教授に着任。デザインとエンジニアリングの融合によるイノベーション創出と、その活動を通じた人材育成(デザインエンジニアリング教育)にも注力している。

「スプツニ子!」 21_21 DESIGN SIGHT

尾崎さんの現代美術家としてのアーティスト名であり、作品名。代表作に『生理マシーン、タカシの場合。』(2010年)『寿司ボーグ☆ユカリ』(2010年)ベネッセアートサイト常設展示の『豊島八百万ラボ』(2016年)など。
© Sputniko!

 2017年から東京大学生産技術研究所の特任准教授になり、「スプツニ子!」ではなく、本名の尾崎マリサでみなさんに挨拶をする機会が増えました。『もしかする未来』にも、作品は本名で出しましたし、東大では「尾崎先生」(笑)です。

 そもそも、「スプツニ子!」は私の作品のひとつ。私が伝えたいメッセージを喋ってくれるペルソナであり、心強いひとりの「キャラクター」なんです。一方の私自身は、もともと、本当にヘタレで、プログラミングは大好きだけど友だちをつくるのはあまり上手じゃないし、人前に出ることだって得意ではなかった。だからこそ、「スプツニ子!」というキャラに自分ができないことをステージの上でやってもらっていたわけです。

 そのキャラがいつの間にかメディアにどんどん出ていって、そこで知り合った人たちには、プライベートでもそのまま「スプツニ子!」でいなければならない。それは、ちょっとしんどいなぁ、と。だから、最近新しくお会いする人には、大学以外でも「尾崎です」と名乗るようにしています。「スプツニ子!」という人は、もちろん今でも存在しています。と同時に、今後、私自身は、また違うペルソナをつくるかもしれない。私が思い描いている「いいと思うほうの未来」に綱を引くためだったら、その手段や肩書き、名前はなんでもいいんです。

「わからない」ことが思考を刺激する。

RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)

世界で唯一のアート・デザインの修士号以上の学問を扱う研究大学(大学院大学)。1837年設立と歴史も古く、グローバルな舞台で活躍できる、次世代のアーティスト、デザイナーを育てる教育プログラムに定評がある。

RCA-IIS Tokyo Design Lab 21_21 DESIGN SIGHT

2016年12月に設立された、東京大学生産技術研究所(IIS)とRCAが協同で行うデザインプロジェクト。「デザインとエンジニアリングの融合」をキーコンセプトとする。

 ロンドンに長くいたので、ロンドンと東京での、テクノロジーやデザインに対する捉え方の違いについて聞かれることがあります。私が卒業したRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)を例にいえば、RCAには、世界中の学生たちが集まって議論をしてきた歴史があるので、AIひとつとっても、さまざまな文化から見た、さまざまなコンテキストが存在する。世界には多種多様な社会課題があり、それに対する問題提起への意識は、東京よりロンドンのほうが高いと思います。

 あと、RCAらしさというか、先日も感心したのが、プレゼンテーションの自由さですね。理系の人がプレゼンするときって、筋が通ったものしかスライドに入れないんですけど、RCAって、まったく意味がわからないものも入れてくる。先日もロンドンでのワークショップでモビリティの未来についてのプレゼンを受けたのですが、プレゼン前に、土の匂いのついた紙を渡されたんですね。それで、雨の音が流れてきて、何をするのかなと思ったら、結局最後まで、土の匂いにも雨の音にも触れない(笑)。スライドに折り込まれていた映像の展開も早いし、なぜそれがつながっているのか、言語化もされない。

 それで思ったのが、プレゼンで「答え」を出されるとそのまま「理解」はできるんだけど、自分の頭の中は広がらない。それに対して、その謎だらけのプレゼンは、自分なりに考えさせられるというか、「わからない」ことで思考を刺激されたような気もして、プレゼンとしては、ただダメなプレゼンなのかもしれないけれど、個人的には、とても好きでした。

 最近は東大にも留学生が増えていますし、「RCA-IIS Tokyo Design Lab」にはRCAからの学生もたくさん来ているから、国際的なマインドセットになっていて、とてもいい環境だなと思います。技術力は高いし、優秀な学生も多い。それに加えて、私みたいな人を先生にしてしまうんだから、どんどん変わってきているな、という印象があります。

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尾崎マリサ(スプツニ子!)/ 東京大学生産技術研究所特任准教授(アーティスト)
1985年東京都生まれ。東京大学生産技術研究所特任准教授。ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士課程を修了。2013年からマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教としてデザイン・フィクション研究室を主宰し、2017年より現職。RCA在学中より、テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作。最近の主な展覧会に,「Japanorama」(ポンポドゥー・メッツ,フランス)、「NEW SENSORIUM」(ZKMアートセンター,ドイツ)など。VOGUE JAPAN ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013受賞。2016年 第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」受賞。2017年 世界経済フォーラムの選ぶ若手リーダー代表「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。著書に『はみだす力』。共著に『ネットで進化する人類』(伊藤穣一監修)など。