96 福原志保(バイオアーティスト)前編

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世界中のバイオアーティストは、日本に来るべき!

 日本はバイオアートの歴史をこれから蓄積していく段階にあるということもあって、まだまだ認知されていないですよね。だからこそ、いろんな作家さんや作品が現れてくる可能性があると思っています。欧米なんかだと、バイオアートの定義がわりとしっかりしているのですが、日本はそこがまだ緩いんです。以前は私自身も考え方が狭いところがあって、映像とか写真ベースの作品はバイオアートとは呼べないんじゃないかと思っていたし、生物学的な現象を作品制作のための素材や方法としてリアルに用いて、作品をつくるべきだと思っていたんです。そのぶんハードルは高くなってしまうけど、そこをクリアしてこそいろんなものが見えてくるので、ストーリーだけで終わらせるような作品はちょっと嫌だなあって。だけどそういうことも受け入れるのは、日本らしいというか、日本の多様性や寛容性につながっているのだと最近は思うようになって、「バイオアートはこうあるべき」という頑なさは特になくなりましたね。

 最近の傾向としておもしろいのは、バイオが経済的な活動とつながっているところだと思っています。インターネットやコンピューターの発展と比べても、バイオの発展のほうが今は早くて、投資家などがバイオにとても可能性を感じているようなのです。メディアなどを見ていても、日本はバイオの流行りがほかの国より長い気がします。そう考えると、世界中のバイオアーティストは日本に来たほうがいいし、実際に呼び寄せる活動もしているんです。しかも日本は今のところ、規制がまだ少ないというのも大きくて。欧米ではなかなか難しいような遺伝子組み換え実験が日本ではまだまだ可能な段階だったりします。そういったバイオアーティストに寛容な環境は絶対に生かすべきだと思います。

ルールは守るためにある? 破るためにある?

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大学や企業の研究室など専門機関の外でも、サイエンスに関心のある人たちがディスカッションを行ったり、本格的な実験を行うことができるコミュニティ。福原さんはファウンダーのひとり。バイオテクノロジーに関するあらゆるテーマをディスカッションする、誰でも参加可能なオープンミーティングを毎週火曜日に行っている。見学などもそのときに可能。

 渋谷の道玄坂を上ったところにある「FabCafe(ファブカフェ)」の2階に、クリエイターが日単位や月単位で借りられる「MTRL TOKYO(マテリアルトーキョー)」っていうコワーキングスペースがあるんです。その奥の倉庫みたいな部屋に「BioClub」のウェットラボをつくり、バイオアーティストが制作もできる空間にしたんです。といっても私はただの言い出しっぺなんですけど(笑)。ライセンスをきちんと取っているので、遺伝子組み換えの実験もできますし、トークイベントやワークショップなども開催しています。最近はファンディングでヨーロッパのアーティストに来てもらったり、アジアのアーティストとコラボーレーションしたりして、ようやく軌道に乗ってきました。

 日本って一見、ルールでガチガチに固められていると思われがちですが、ルールを壊すためのルールが存在していたりもするじゃないですか。例外の多さはまさにそれで、ひとりひとりが「ここまでならいいか」というふうに勝手に判断して動いているのが、おもしろいですよね。例えばアメリカはルールが絶対的なので、交渉する余地もない。フランスはルールの数は限られているけれども、ルールがある物事に関してはまったく容赦しない。「泣こうがなんだろうが知るか!」みたいな感じなので(笑)。どちらも歴史的に外国人がたくさん入ってきている国なので、厳しいルールを設けないと文化を守れなかったんでしょうね。

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福原志保 / バイオアーティスト
アーティスト、研究者、開発者。2001年ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ卒業、2003年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。2004年ゲオアグ・トレメルとアーティスティック・リサーチ・フレームワーク「bcl」を結成。以後、特にバイオテクノロジーの発展が与える社会へのインパクトや、水環境問題について焦点を当てている。また、それらにクリティカルに介し、閉ざされたテクノロジーを人々に開いていくことをミッションとしている。