95 藤本実(ライティング・コリオグラファー)前編

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「ライティング・コリオグラファー」という新しいエンターテイメント。

 最近は、デジタルアートやインタラクティブアートの賞をいただいたり、「ライティング・コリオグラファー」をアートとして評価をいただいたりする機会も増えました。でも、自分の中では工学とストリートダンスが基軸になっていて、基本的には"エンターテイメントをつくっている"、と思っています。アートとして評価してもらえることは嬉しいですが、僕の中に「アートをつくろう」という意識はありません。

 作品づくりの難しさは、基準がないことですかね。つまり、やり方がまだ確率されていない。人間の「動き」に対して、どういう「光」をつけるかの「基準」ってないんです。現在確立されているデジタルのエンターテイメントは、基本的に映像のモーショングラフィックスかプロジェクションマッピングで、そういった、静止したものに完成した映像を反映させるようなものではなく「動的なものに、動的な光を組み合わせたらどう見えるか」はまだ研究としても取り組まれておらず、分析の仕組みも存在していない。映像であればつくったものを再生して見ることができるので、見た人の感情も想像ができるけれど、「ライティング・コリオグラファー」は動きと動きの組み合わせだし、見る人の目の動きもあるから、極端な言い方をすると、確かなものが何もない。

 じゃあ、どうやってつくるかというと、まず一度仮定を立て、仮定通りに「つくってみた」というものを50種類くらい映像にしてみて、その中で、これはおもしろい、おもしろくない、の取捨選択を繰り返して組み合わせていきます。組み合わせて、これは完璧につくったぞ! というものをさらにブラッシュアップを5回くらいやるんですね。やり直す中で、例えば1変えようとすると変えないでいい残りの99も全部直さなければなりません。そうすると、どんなに膨大な作業を経ても、元の案で生き残るのは1、2割です。たいへんはたいへんです。でも、それは見る人には関係ないですからね。

線から面へ。ピクセルからユニットへ。身体との関係を研究し続ける。

『SAMURIZE from EXILE TRIBE』 SAMURIZE from EXILE TRIBE

EXILE HIROがプロデュースする実力派ダンサーによるLEDの光の演出とダンスによるパフォーマンスチームで、藤本さんらmplusplusが光の演出・LEDデザイン・ハードウェア・ソフトウェア開発を担当。「Cannes Lions International Festival of Creativity 2018」や、NHK紅白歌合戦などでも披露された。

 表現の進化としては、2年くらい前に、映像を表示できる身体用パネルをつくったことでしょうか。『SAMURIZE from EXILE TRIBE』の衣装の胸にはすべてそのパネルが入っています。そこはひとつのジャンプアップというか、今まではLEDの点や線で表現していたものに、今度は「面」が加わり、「映像と身体の動き」の関係も考えなければならなくなった。2次元で考えていたディスプレイを、3次元的に動かしたら、どう見えるか。その先はもう、やれることはないやり切ったと思っていたんですけどまた新たな課題が見つかった。それが、昨年から新たに始めた、デジタルの数字で人の動きを構成する『Quantified Dancer』です。




『Quantified Dancer』 Quantified Dancer

アナログな人間の身体にデジタルな数字表現を組み合わせたプロジェクト。最新型はLED9,000個、450個のデジタル数字によって構成されている。

 きっかけは、現代美術家・宮島達男さんの作品との出会いでした。それまでは、自分のデジタルの要素は、「1ピクセル」だと思っていたんです。LED1粒、1ピクセルの色を変えたり、動きを変えたりすることでしか、表現できないと思っていたんですが、宮島さんの『7セグLED』の作品を美術館で見て、すごく感動したと同時に、「数字をひとつのピクセル、ひとつのユニットとして考えたら、全然違う身体表現ができるかもしれない」と。

 宮島さんにメールで、作品に感銘を受けこと、『7セグLED』でダンスの作品をつくりたいことなどを書いて送ったら、7セグは私が生み出したものではないし、自由につくってください、というお返事をいただけて。嬉しかったですね。で、つくり始めたんですけど......難しいです。正直、まだぜんぜん満足はしていません。もし人間がデジタルの数字だけで構成されていたら、どんな動きになり、どんなダンスをするだろう。数字の増減や離散値といった難題の登場で、今また改めて、身体と動きについて考えているところです。

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藤本実 / ライティング・コリオグラファー
1983年生まれ、兵庫出身。mplusplus株式会社代表取締役社長。2012年3月、神戸大学大学院において博士(工学)を取得。東京工科大学での教員経験を経て2013年にmplusplus株式会社を設立。自らがダンサーであるという特徴を活かし、ライブパフォーマンスにおいて新しい表現を可能とするシステム開発・舞台演出を行っている。2010年にIPAよりスーパークリエイターとして認定、Ars ElectronicaやEdinburgh Festival Fringe参加など研究者、メディアアーティストとして幅広い活動を行っている。