94 石上純也(建築家)前編

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都市の歴史や雰囲気を残すことが、街のポテンシャルを引きあげる。

 誰とでもつながることができ、どこへでも簡単に行けるようになりつつある時代の中で、その場所が持つ特殊性はとても重要になりつつあるように思います。グローバリゼーションの初期段階においては、世界中のすべての街が同じ価値観で、同じような見た目の近代的な大きなピカピカのビルが立ち並ぶことを目指していたように思いますし、今でもそのような開発が続けられている例は世界中のいろいろな場所で見ることができますが、時代は、次のステージに移行しつつあるのではないでしょうか。

 つながっている人たちが、自分が知らない風景の中にいることが伝わってきたら、やはり羨ましく思うもので、そこに行きたくなるということはとても重要なことです。そういうなかで、世界中がどこも同じような街並みになってしまったら、移動したいという欲求さえ生まれなくなってしまいます。移動することの理由は無限にあるかもしれませんが、見たことない場所、知らない場所に行きたいという欲求はその原動力としてとても大事なことだと思います。さまざまな企業を呼び込むためには、もしかしたら、近代的なビルがたくさん必要なのかもしれませんが、グローバリゼーションが行き渡った世界では、それだけでは人々の流動性は確保できなくなるように思います。

 つまり、世界中がつながったあかつきには、それぞれの場所の固有性がより強い価値観として求められるようになるのではないでしょうか。しかも、ただ単にその場所をそのまま残すだけでは不十分なのかもしれません。

 その場所が持つ歴史や文化などを踏まえつつ、それを更に掘り下げ、それらが持つ固有性を現代の価値観につなげていき、既存の固有性をさらにそのポテンシャルを高めるかたちで、その場所のあり方をつねに再考していく必要があるように思えます。

 維持するだけではなく、ものすごいスピードで、ものすごい回数の再考を無限に行っていくようなダイナミックで深淵なエネルギーをその場所ごとに与えていくことがこれからの都市開発の肝になるのではないでしょうか。

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石上純也 / 建築家
1974 年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科建築科修士課程修了。妹島和世建築設計事務所を経て、2004 年、石上純也建築設計事務所設立。日本建築学会賞、第 12 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞など多数受賞。
http://jnyi.jp