92 西野壮平(写真家)前編

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街の中心に"静"があるのは、世界を見渡しても東京だけ。

 東京だけでなく、これまで世界20か国の『Diorama Map』をつくってきましたが、海外に行くときは1か月〜1か月半ほどアパートを借りて、現地の人の生活になじむような滞在をするんですよ。最初にするのはヘアカット。"バーバープロジェクト"と呼んでいるのですが(笑)、現地の人間になるという意味で、ローカルな床屋さんに行って髪を切るんですね。アムステルダムなら「アムステルダムのヘアカットにしてください」とだけ言って、その人に委ねるんです。

 インドでは、路上で散髪している人にお願いしたのですが、テクノカットのような、サイドがパキッと揃った焼海苔のような髪型になりました(笑)。切り終わって鏡を見せてもらったとき、「いいだろう?」という感じでドヤ顔をされるんですよ。思わず自分でも笑っちゃいましたが、ある意味、潔くて気持ちよかったです。それから、東京の浅草では髭も眉毛も剃られ、ザ・七三の昔の演歌歌手のような髪型にされたこともありました。最初にヘアカットをすることで、土地の人間になっていくような感覚があり、何か別のものが見えてくるような気がするんです。

 "バーバープロジェクト"を終えると、街を歩くことから始めます。まずはカメラを持たず、2、3日ほど歩き回るんですが、最初に"街の中心"を探すんですよ。地理学的な中心ではなく、その街が中心を置いている場所やもの、たとえばロンドンならテムズ川、ヨハネスブルクはポンテタワーというように、そこを中心に都市が広がっていく場所へ行くんです。

 じゃあ、東京で言うと"中心"は何なのか。僕のイメージでは、皇居なんですよね。地図上でも23区のまんなかに当たるのですが、おもしろいのは"静"が街の中心にあること。皇居ってその中に新たな建物をつくることも、大きな音も出すこともできない、非常に神聖な場だと思うんですよね。そういった"静"が都市の中心にある街って、僕は東京以外に知らないんです。世界の大都市のひとつとして括られがちですが、またちょっと違う感じがしますね。そうやって、いろんな国で街の中心は何なのか、人々の生活がどこを起点にしているのかを探ると、都市ごとの違いを認識することができるんです。

反発し合い、ときに融合する展示が見せる都市の姿。

 『写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち−』では、大小11点の作品を展示しているので、都市ごとの違いを見ていただけると思います。これまでもグループ展には参加させていただきましたが、今回は展示方法がおもしろいんですよ。写真の展示は壁面に並べることがベーシックですが、床と平行の箱の上に写真があったり、宙につるされていたり、音楽と写真が融合していたり。作家それぞれの作品のエネルギーがぶつかり合っているようで、ときに交わり、融合し合う......。ある部分ではすごく反発していて、ある部分ではすごく合致していて、腑に落ちるような、落ちないような。その感覚が"都市"をテーマにした作品の集合体という感じがします。

 都市を撮るときの感覚は、写真家の記憶や経験、体験によって捉え方が変わると思うんですね。それがいい化学反応になりそうだと、このインスタレーションを見てすごく感じました。きっとご覧いただく方も作品によって視点が違うので、ぐるぐると目線を振り回されると思うんですよ。そういう経験って写真展では珍しいですし、それこそが"都市"の中にいる感覚と重なるんじゃないかな、と。ぜひ、多くの方に体感していただければと思いますね。

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西野壮平 / 写真家
1982年兵庫県生まれ。大阪芸術大学写真学科を2004年に卒業、その後活動の拠点を神奈川と静岡で制作活動を行っている。近年の主な展示に、2012年 OUT OF FOCUS: PHOTOGRAPHY (Saatchiギャラリー, ロンドン)、2013年A Different Kind of Order (The ICP トリエンナーレ,ニューヨーク)、2015年 NEW DIORAMAS (マイケルホッペンギャラリー, ロンドン)など。2016年秋にサンフランシスコ近代美術館にて個展が開催される。