91 小林武史(音楽家&音楽プロデューサー)前編

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"極端なもの"が時代や文化をつくる。

J-WAVE(81.3FM)

1988年から1989年にかけてJ-POP(Jポップ)という新しい音楽ジャンルと名称を定義・新造し、それを定着させたFM局としても知られている。2003年に西麻布から六本木ヒルズ森タワー33階に移転。小林さんは、2016年3月から2017年3月まで、J-WAVEの日曜22時からの番組「Hitachi Systems HEART TO HEART」のナビゲーターを務めていた他、「GOOD NEIGHBORS」、「THE HANGOUT」などにゲスト出演を果たす。

「kurkku fields」 農場全景.jpeg

ap bank をはじめてから環境やエネルギーの問題を考える中で、新しい生活や暮らしの選択肢を提案する実践の場として、2005 年に「kurkku」を立ち上げる。2010年に「農業生産法人株式会社耕す」が開墾し、有機農産物や鶏卵の生産を実施している農場内に、食の一次産業を基盤にした、楽しさ、美味しさ、気持ちよさを共有できる施設「kurkku fields」のオープンに向けて、現在準備を進めている。

 今はコンプライアンスや安全性の問題とか、いろんなリサーチが行き届くにつれ、あまり振り切れたことができなくなってきていると思います。そういったなかで、六本木をあらためてどんな街にしていきたいのか。その可能性を探るのは、とても意味があるような気がしています。というのも、本質的に時代や文化をつくるのは、"極端なもの"から始まると思うからです。

 それは音楽にも当てはまります。マスの論理から逆算して作られる音楽というものがあります。それはいわゆる最大公約数から導かれた平均化した音楽ですよね。もちろん僕自身、マスのあり方はどこかで意識はしています。けれど、もともと音楽家としては暗いところに入っていくのも好きですし(笑)、音楽の本質はそうした細かなディテールから生まれるものです。つまりハイ&ロウ、極端な部分が両方欲しいし、どちらもあったほうがいい、それは作品としても精神的にも。

 極端と言えば、音楽家である僕が農業をやっているということが極端に見えるのか、六本木ヒルズにあるJ-WAVE(81.3FM)の番組に出演すると、必ずナビゲーターの方に「小林さんは今、千葉で農業をやっていらっしゃいますね」と、言われるんですよ。どの番組に出演しても必ず言われるので、触れずにはいられないんだなって思っているんですけど(笑)、例えばこの農業という手段を用いて、東京のまん中で酪農をしてみたらどうなるか考えてみるのもおもしろそうです。

"都市型で生きる"、"地域型で生きる"という価値観はもう古い。

 それこそ都市と酪農こそ極端な組み合わせと思うかもしれませんが、でもソフィスティケートされてきたこの六本木という土壌のなかに、自然の野太いところと結びつく準備や下地はあるのかどうか、チャレンジしてみたいと思う自分がいるんです。「食を自給しましょう」とか、そういう優等生的なことではなくて、地続きの人やモノも飛び越えて、極端なコラージュを起こした先の現象にこそ、きっと可能性があると。

 そもそも、これからの時代、特に都市ではそうした野太い命との出会いをすることが大切なような気がしているんです。そのうえでその出会いを都市で起こすとするなら、東京ではやっぱり六本木が一番似合う感じがしませんか? それは六本木という土地が育んできた尖った精神、遊び心があるから。もっと俯瞰してみると、野太い命のある自然豊かな地方と都市は、完全に分けられる時代ではないと思うんです。「都市型で生きる、地域型で生きる」という価値観も、これからどんどんなくなっていくのではないでしょうか。何よりITの発達によって地方と都市の距離が縮まりましたし、僕自身も相当に駆使して仕事をしています。

 ITと言えばよく「AIの発達によっていずれ人間の仕事は奪われる」と言われていますけれど、僕自身はあまりそこに不安は感じていません。逆にもっと人間の本質的なことが見えてくるような気がしていますし、むしろそういうAIのような時代になっていくときにこそ、自然を同時に持ち込んでいけたらいいのではないかと思うんです。極端と思われるものを混ぜて、つないでいくこと。つまり僕自身が触媒のようになれたらと、願っているのかもしれません。

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小林武史 / 音楽家&音楽プロデューサー
山形県新庄市生まれ。5歳でピアノを始め、20歳頃からスタジオミュージシャンとして活動を始める。1980年代から日本を代表する数多くのアーティストのプロデュースを手掛け、1990年代以降になると、映画と音楽の独創的コラボレーションで知られる『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』など、ジャンルを越えた活動を展開。2003年には「ap bank」を立ち上げる。自然エネルギーや食の循環、東日本大震災の復興支援など、様々な活動を行うなかで、2017年には復興支援の取り組みとして、宮城県石巻・牡鹿半島を中心とした「Reborn-Art Festival 2017」を開催。述べ51日間行い、大盛況のうちに終了した。2018年4月4日に、東京メトロのCM楽曲を中心に収録したワークスアルバム『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』をリリースしたばかり。