90 脇田玲(アーティスト&サイエンティスト)× 廣川玉枝(ファッションデザイナー)後編

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何か拡張するための実験を続けられる場所であってほしい。

脇田 僕がギャラリーで展示をする際にも、もちろんコンセプトなどは書いていますけど、「どうやってつくっているんですか?」と聞かれるより、その人なりの解釈を自由に言ってくれるほうが、こちらもインプットを貰えて嬉しい。それが自分の作品の意図とかコンセプトを上書きしていくことになります。自分の作品に新しい解釈をくれる人、射抜く言葉をくれる人に見てほしいのだけど、それは想像を超えた部分での出会いでしかない。ちょっとしたおばちゃんがポロッと言うかもしれないし、"この人"とは言えないですね。だからやっぱり、いろんな人が行き交うストリートになるのはすごく大事だと思う。

九州から日帰り出張で六本木に来た、みたいな人がふらっと入ってきて僕の展示を見て何か感想を言って帰ったりするのがおもしろくて。一方でMATのように、インスタグラムにアップする写真を撮る人がたくさん来て、5秒程度で作品が消費されて行く姿を見るのも大事だと思うんです。

廣川 ヨーロッパや日本のファッションショーでも、皆、いいアングルで写真を撮ろうとスマートフォンを構えているので、最後拍手もできない。リアルを見に来ているはずなのに、スマートフォン越しに服を見ていて、リアルを見ていないんですよね。なんだか切ないですよ。

脇田 写真を撮り過ぎでは、という話と関連してですが、さっき廣川さんが話された「第二の皮膚」は、マーシャル・マクルーハンによる一説だそうですが、彼はテトラッドという考え方を出していて。どんなデザインにも「増強」「衰退」「回復」「転化」という4つの機能がある、と唱えていました。カメラであれば目を増強する。一方で何かを衰退させることもある。何かを意図してつくっても結局3つの副作用があるというのは避けられないということです。さらにここでいう「転化」というのは極度に使い込んだ際に何かにトランスフォームすることを言っていて、使い込んでみないと何になるかは、わからないんです。だからスマートフォンのカメラも、アプリケーションとしてのインスタグラムももっと極度に使い込むと、まったく予期しない新しい姿が見えてくるはず。そこで生まれる現象や気づきを副作用と捉えるか、もしくは新しい何かのきっかけと捉えるか。それを使ううちに、こんな機能が欲しいとかこんな世の中の見方があると気づくこともあると思います。

マーシャル・マクルーハン マーシャル・マクルーハン

カナダの文学者であり文明批評家としても広く知られる。1964年に刊行された「メディア論 人間の拡張の諸相」は彼の代表作であり、現在もメディア研究に関わる者にとっては不可欠な古典として扱われている。

廣川 身体の拡張ですね。「第二の皮膚」については、マーシャル・マクルーハンという人が最初に言ったのだということを、随分あとになってから知り、本を購入して読みました。

脇田 彼は「これまで身体は視覚空間の中に生きてきたけど、これからは電子の時代に入る」というようなことも言っていました。「全身で電子をまとう」と表現していて、これが"ウェアラブル"を予見しているのか言葉遊びなのかはわからないのですけど。僕はそういう点で、廣川さんと一緒にやりたいことのイメージがわりと具体的にあります。例えば身体のダイナミズム。呼吸もしているし、代謝もしている、そういうものが外側に現れていくことでファッションになることはないのかな、と考えています。

疲れているというモードを外にわかりやすくすることもできるかもしれないし、"ちゃんと体の中を血が流れている"というようなこと、身体の美しさや、第二の皮膚として出せる服とか、そういう身体活動を表現するようなファッション。江戸時代の人が急いでいるときに袴を持ち上げて走っていたじゃないですか。あれって「急いでいる!」感がすごく出る。そういう、その人のモードとか状況をより美しく拡張できる服というのができるんじゃないかと思うのです。

廣川 私が服をつくるときのテーマは自然物からインスピレーションを受けることが多いですが、先ほど脇田さんがおっしゃった見えない部分を表現するようなことを、私もやりたいと思っていました。間もなく2020年に東京でオリンピックがありますが、私が構想していたのが、聖火ランナーの服。ランナーの走るポイントごとに服の色が変わったらおもしろいかなって。リレーがブラジルからスタートし、地球を一周しながら世界の国旗の色に変わる。ブラジルの色、平昌の色、さまざまな世界の色、そして最後に日本の色になるという、場所と身体と視覚的なアイデアです。

脇田 走っている様子を美しく見せる服があるといいですよね。変形するとか。そういう布を研究していたこともありました。化学反応で色が変わるインクと、導電性の繊維を使うことで、身体情報に応じて連動させたコンピューターからの信号で服の色を変えられるのではないかって。それがまだ製品化はしていなくて。廣川さんだったらこれを形にしてくれそうな気がしますね。

廣川 おもしろいですね! そういうことを実験したいですよね、六本木で。ここで提案をしたなら、場所を提供していただけますかね(笑)。今は過渡期というか物事の仕組みの転換期なので、実験をしながら街が変わっていくのは楽しい。六本木が、今話したような実験をたくさんさせてもらえる場所であってほしいな、と思いました。

取材を終えて......
脇田さんによるデザインとエンジニアリングからのアプローチと、廣川さんが挑むファッションのクラフト性とデジタルの世界。テクノロジーを前提とした新時代に必須の視座ともいえるメディアアートの領域を、ほんの少しだけ覗かせていただけたように思います。六本木という街が持つ特異性を捉え直しながら、次世代のこの街に必要なデザインやアートについて考え、さまざまな実験を繰り返していくことの重要性を改めて感じる貴重なインタビュー時間でした。(text_emiri suzuki)

脇田玲 / アーティスト&サイエンティスト
博士(政策・メディア)。2014年より慶應義塾大学環境情報学部教授。流体力学や熱力学に基づく独自ソフトウェアを開発し、科学と美術を横断する映像表現に注力。日産LEAFと一体化した映像作品「NEW SYNERGETICS - NISSAN LEAF X AKIRA WAKITA」(2017)、スーパーコンピュータを用いた海流映像「海洋大循環シミュレーション」(日本科学未来館)など、アート&サイエンスをキーワードにコラボレーションを展開。2016年に開始した音楽家小室哲哉とのオーディオ・ビジュアル・プロジェクトではArs Electronica Festivalでの8K展示、MUTEK/RedBull Music Festivalでのライブ・パフォーマンスが話題を集めた。
http://akirawakita.com/

廣川玉枝 / ファッションデザイナー
ファッション、グラフィック、サウンド、ビジュアルデザインを手掛ける「SOMA DESIGN」を設立。同時にブランド「SOMARTA」を立ち上げ東京コレクションに参加。
第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜」の他Canon[NEOREAL]展/ TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展/ YAMAHA MOTOR DESIGN [02Gen-Taurs]など企業コラボレーション作品を多数手がける。2017年SOMARTAのシグニチャーアイテム"Skin Series"がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ。
http://www.somarta.jp/