90 脇田玲(アーティスト&サイエンティスト)× 廣川玉枝(ファッションデザイナー)前編

int_90_main02.jpg

研究、作品、そして商品の交差点。

SXSWやSIGGRAPH SXSWやSIGGRAPH

アメリカのテキサス州オースティンにて毎年3月に開催されているSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)。世界最大の音楽や映画、テクノロジーなどの複合的クリエイティブビジネスフェスティバル。SIGGRAPH(シーグラフ)は、1974年より毎年アメリカで開催されてきた、国際的なコンピューターグラフィックスやインタラクティブテクノロジーのカンファレンスイベント。ソフトウェア全般からデザイン、アートやゲーム、教育にいたるまで幅広い分野の会員を有する非営利組織によって支えられている。

脇田 10年ほど前、ファッションの技術を研究していた時期があって、色が変わる布とか、島精機のホールガーメントをインターネットに繋げて服のデータを遠隔地で出力するとか、ウェアラブルの服のようなものを研究していました。ただそれは研究でしかなくて、それらを実際に服として売るには至らなかった。そういう意味で、廣川さんのように実際に販売までを実現している方は憧れます。技術系のカンファレンス「SXSW」や「SIGGRAPH」に行くとサイバーファッションショーなど、テクニカルなショーケースがたくさんあって、何となく未来を感じ取れるものの、結局5分程度のランウェイでおしまい。日々、着る人の手に渡るものをつくる、というハードルを超えていくのはすごい。

廣川 私が無縫製ニットでスキンシリーズをつくりたかったのは「第二の皮膚」みたいなものが生まれたらファッションの世界が広がるのではないかという考えからでした。ただ、それをどのように日常へ落とし込んでいけるかという、デザインの領域まで両方考えていかないと成立しないかなと。

美しいとか、見たことないとか、視覚的な見え方もあると思うのですが、一方では「いくらなんだ?」「どういう人がターゲットなんだ?」ということも合わせて、両方の脳で考えていかなければいけない。つくっているものが作品ではなく商品なので、服飾では、地味に耐久性など細かいところをクリアしていくという感じですね。

それに、私は無縫製ニットの技術をすごくおもしろいと思っているので、その技術を伸ばすためには、小さくても誰かがそれを使って更新していかないと発展しないな、と。それを続けていくと次第にそれが普遍的なものになっていくし、もっともっとデザインができる人が増えていくかもしれないと思っています。

脇田 作品と商品の違いはめちゃくちゃ大きいと思います。商品づくりは、研究開発があって、コンセプトを形にしてプロトタイピングをつくりますよね。そこからが大変じゃないですか。先ほども廣川さんがおっしゃったように、エイジングやウェアラビリティ、コスト、そして当然マーケットも見るわけですよ。今はいろいろと試作できるツールも一般化してきたから「こんなことができるよね」というのを一瞬だけ実現するのは、ちょっと頑張ればできる。MATにあったメディアアートも、あの開催期間だけであれば動く。けれど、それを製品として屋外に持って行ったり、子どもが意図しない使い方にまで対応させるのは、ものすごく時間がかかるんですよね。

ネットの普及はファッションにとって産業革命以上の衝撃だった。

Symptom Visualized-可視化された兆候 Symptom Visualized-可視化された兆候

2018年1月20日から3月10日まで、ART & SCIENCE gallery lab AXIOMで行われた、脇田さんの個展。マッピング映像とジャンク品の接点を探るインスタレーション、液晶ディスプレイのフィジカリティを拡張するマテリアリズム的アプローチによる作品、MUTEK/RedBull Music Festivalでの小室哲哉氏とのライブパフォーマンスからのスピンオフ作品などを展示した。

コンテンポラリーダンサーとの舞台 コンテンポラリーダンサーとの舞台

東京で開催される2年に一度のダンスフェスティバル「Dance New Air2018」にて、ダンサーで振付家の湯浅永麻による振付・演出によって公演『enchaîne』が披露。この作品で、廣川さんは衣裳を担当した。

スキンシリーズ スキンシリーズ

廣川さんが2007年より手がける自身のブランド「SOMARTA」の代名詞でもある無縫製ニットのコレクション。レディー・ガガも愛用しており、2017年夏にはシリーズとしてニューヨーク「MOMA」に収蔵されたことでも話題になった。


 credit: Skin Series : Noism『NINA』モデル

廣川 脇田さんの展示『Symptom Visualized-可視化された兆候』を拝見しても、こういう家電の音に日常で包まれて生きているんだ、というのを考えさせられることにアートの力を感じますね。やっぱり人の考え方ってすごくおもしろいし、それって"合う"ことがない。100人いたら100人がばらばらですから。ただ、自分がどこで何を見ているかの「視点」を気づかせてくれることはすごく大きい。例えば、ギャラリーはある意味、特殊な空間じゃないですか。そこへやってきて、脇田先生の作品を見て何かを感じたことが、自分の中に蓄積されて、フィルタリングされて、そしてまた次の新しいアウトプットに繋がる、というような装置になりますよね。だから私はアートが好きなんです。

私が独立した10年くらい前から、ファッションの世界も変わってきています。こうしてインターネットやスマートフォンが日常で欠かせなくなった時代において、ファッションデザイナーの立場というのも変わらないはずがないだろうと独立したときに深く考えました。そこからさらにさまざまな人と仕事ができるような環境をつくれれば、もっと世界が豊かにおもしろくなるだろう、とも思えたんです。ファッションでいえば産業革命などは大きな変革期とされますが、インターネットの普及は同じかそれ以上に大きなことで、世界は大きく変わったのかな、と。

脇田 インターネットがなければ、すべては違ったでしょうね。そもそもインターネットがなかったら僕はアートをせずに、真面目なエンジニアをしていたんじゃないかなと。もともとは3次元CADと言われる世界、車や飛行機をデザインするソフトの数式をつくるエンジニアでしたから。インターネットで自分の考えたものを公開し、人と繋がるということが自分のアプローチの仕方や職業にもたらした影響は絶大でした。ネット環境がなければ今に至っていないですね。

廣川 人々のファッションの捉え方、価値の置き方もだいぶ変わりました。スマートフォンもある意味でファッションですし、ファッションはより広義になっていると思います。これまでのランウェイスタイルのファッションショーはライブ感があって魅力的ですし、私もそういう方法をとってきていますが「これをこのまま続けていってもいいのかな?」と思ったこともあります。今は、いろいろな表現の仕方があっていいと思うので、既存のファッションショーではない新しい道筋を探している段階です。

ファッションショーは、昔は限られた人のためのショーでしたが、ウェブがあることでもっと開けたショーをできるかもしれないでしょう。先日、六本木の国際文化会館で行なわれたコンテンポラリーダンサーとの舞台も私の『スキンシリーズ』をとてもすばらしい形で表現してくれるものでした。何かそういう新しいクリエイティブな仕事がおもしろいし、そういうことをこの街から生み出したいですよね。そしてそれはさまざまなクリエイティブな人がいて実現したことだったので、やっぱりひとりではできない。国際文化会館の力があり、ダンサーのアイデアがあり。それらが集まって具現化していくのはおもしろいし、そのような機能がもっと加速するといいなと思います。

>後編はこちら

脇田玲 / アーティスト&サイエンティスト
博士(政策・メディア)。2014年より慶應義塾大学環境情報学部教授。流体力学や熱力学に基づく独自ソフトウェアを開発し、科学と美術を横断する映像表現に注力。日産LEAFと一体化した映像作品「NEW SYNERGETICS - NISSAN LEAF X AKIRA WAKITA」(2017)、スーパーコンピュータを用いた海流映像「海洋大循環シミュレーション」(日本科学未来館)など、アート&サイエンスをキーワードにコラボレーションを展開。2016年に開始した音楽家小室哲哉とのオーディオ・ビジュアル・プロジェクトではArs Electronica Festivalでの8K展示、MUTEK/RedBull Music Festivalでのライブ・パフォーマンスが話題を集めた。
http://akirawakita.com/

廣川玉枝 / ファッションデザイナー
ファッション、グラフィック、サウンド、ビジュアルデザインを手掛ける「SOMA DESIGN」を設立。同時にブランド「SOMARTA」を立ち上げ東京コレクションに参加。
第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜」の他Canon[NEOREAL]展/ TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展/ YAMAHA MOTOR DESIGN [02Gen-Taurs]など企業コラボレーション作品を多数手がける。2017年SOMARTAのシグニチャーアイテム"Skin Series"がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ。
http://www.somarta.jp/