90 脇田玲(アーティスト&サイエンティスト)× 廣川玉枝(ファッションデザイナー)前編

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目の前にあるはずなのに、人間が知覚できていない自然界の情報。それらをシミュレーションすることで見えるように、聴こえるように、感じ取れるようにし、新しい世界の見方を提示するデザインを続ける脇田玲さん。自身のブランド「SOMARTA」で発表した無縫製のニット『スキンシリーズ』を中心に、"第二の皮膚"としてのファッションを問い続ける廣川玉枝さん。今回は普段から六本木との関わりを持つおふたりに、アートやデザインが六本木という街にもたらす可能性を、それぞれの視点を交差させながらお話しいただきます。

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update_2018.3.28 / photo_mariko tagashira / text_emiri suzuki

デジタルテクノロジーが生み出す美しさ、身体の持つクラフト感。

ART & SCIENCE gallery lab AXIOM ART & SCIENCE gallery lab AXIOM

アートと社会の新しい接点を開拓するオープンな場所を目指し、2016年10月より六本木の芋洗坂にて始動。脇田さんも設立に大きく関わり、アートとサイエンスの両者に共通する公理(=AXIOM)を照らし出すべくさまざまな展示やラウンジとしての使用も展開している。

Media Ambition Tokyo(MAT) Media Ambition Tokyo(MAT)

2018年2月9日〜25日まで六本木を中心に行われたメディアアートの祭典。脇田さんはダイキンとのコラボレーションで『Visualization of Air Conditioner』を発表、廣川さんは浅井信道とHonda による コラボレーション作品『CONNECTED FLOWER』でロボデザインを担当した。
credit: CONNECTED FLOWER by Nobumichi Asai (NOBUMICHI ASAI~Honda) photo by Koki Nagahama

脇田 六本木との関わりですと、僕はかつて就職したデザイン会社が麻布十番にあり、10年ほど前にはこの辺りに住んでいました。今は、私が勤務するSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の全研究室が「オープンリサーチフォーラム(ORF)」という研究発表会を東京ミッドタウンで毎年やっています。2014年にその実行委員長を僕が務めた際には、東京ミッドタウン以外にもスーパーデラックスでの発表や、ニコファーレから放送をしてみたりなんてことも。今は、こうしてART & SCIENCE gallery lab AXIOMの設立に関わったり、個展を開いたりと、週に1度くらいは六本木へ来ています。

廣川 私は学生の頃は六本木というと非常に大人の街のイメージがあって少し縁遠く思っていました。東京ミッドタウンで「Japan Fashion Week」が開催されたことがきっかけとなり、ようやくその頃から馴染みがでてきました。今年は「Media Ambition Tokyo(MAT)」でもトークセッションに登壇しました。

脇田 2018年のMATは僕も出展していまして、コンピュテーショナルなデザインと、クラフトが同居しているデザインをされている廣川さんとはぜひお話をしてみたいと思っていました。廣川さんは、テクノロジーやサイエンスに基づいた知見を、新しいマテリアリティに反映していくファッションを実践されていると思っているのですが、それを研究のみならず"服"という商品にして販売までしているという人は僕の周りにいなくて。そういう意味で廣川さんは稀有な存在。どうやってこなしているのだろう? と思っていたんです。

廣川 服をデザインするということは、人に届けるというところまですべて考えた上でのデザインである、という意識が基本ポリシーとしてあるからでしょうか。私がつくっている無縫製のニットというのは服飾の歴史からすると割と新しい技術なんです。だから珍しいと注目をされるけれど、今の時代にまだ技術を扱える人が少ないだけで、100年後にはすべて無縫製になっているかもしれません。

私は学生の頃から"皮膚のような服"をつくりたかったのですが、それにマッチしたのが無縫製で、たまたまデジタルテクノロジーを使っている手法だった、という感じなので、実際の私はかなりローテクノロジーですよ(笑)。

脇田 案外そういうものなのでしょうね。外から見てテクノロジーを使いこなしているように見える人ほど、実は地道な手作業とともにあるように思えます。

廣川 昔は職人がひとりひとりつくって完成させていましたが今はグループワーク。何かをデザインし、それをいろんな人が関わってつくる手法は、これからの時代もっと増えるでしょう。職人さんが徐々にいなくなってしまうという現状に対し技術面で機械が変わっていく、ということでもありますね。

脇田 本質的なところだと思います。新しい技術が生まれ、ストリートや研究者が熱狂することがあっても、よりハイファッションであったり、大きなメーカーなどが勇気を持って採用したりしないと、広がって浸透することはないでしょうから。それを廣川さんはやっているのかな、と。

廣川 周りのみんなの力を借りながら、ですけどね。MATもそうですし、そういったテクノロジー関係の方々と繋がることが多くなりましたが、私から見たら魔法の世界。勝手に機械が動いてオーケストラみたいになっているし、どういうふうにしたらそうなるのかと。ただ、そこにできているものはとても美しいな、と感じます。本当に素人なんですけど(笑)。

脇田 それを感じてもらえるのは嬉しいです。みんなからは仕組みの質問ばかり来るから。そうではなく「きれいですね」「これは今後、世界をどう変えるんですか」というような議論をしたいのに、特に日本人は"どうつくっているか"というテクニックの話ばかりなんです。純粋に「心が動きました」ということをシェアすることがすごく大事だと思うのですけど。そういう意味でMATは六本木でとてもいい機会が生まれていると思うけれど、ああいう場はまだまだ少ないですね。

廣川 確かにそこはデジタルテクノロジーが苦手な人と得意な人が合わさることでおもしろいことができるし、私はすごくいい経験とチャレンジをさせてもらえていると思います。