87 新海誠(アニメーション映画監督)後編

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人生のピークについて考える瞬間。

六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー 7.JPG

国立新美術館と同じく、『君の名は。』で瀧くんと奥寺先輩がデートした展望台。映画の舞台になったことがきっかけで、2016年11月~2017年1月に、東京の夜景をバックに『君の名は。』をはじめ新海作品の映像が窓一面にプロジェクションマッピングされるイベント『HUAWEI presents 星空のイルミネーション』が開催。イベント期間中、新海監督とAR三兄弟 川田十夢さんのトークイベントも行われた。

『君の名は。』を作っているとき、六本木は自分にとってアウェイな場所でした。年に1、2回行く程度だし、さっき言ったように映画にまつわる思い出くらいしかない場所だったので。でも映画が公開されてから、東京シティビューで『星にタッチパネル劇場』とのコラボイベントをやっていただきましたし、国立新美術館でも『新海誠展』を開催していただけました。映画のなかに登場させて、土地に対する思い出ができたことで、六本木にほんの少し近づけて、優しく受け入れてもらえたような気がしています。

映画の一舞台になっている国立新美術館で展覧会を開催できることは、本当にありがたいですし、こんなこともあるんだなあと不思議な縁を感じています。作品そのものを楽しんでいただくだけで十分ではあるのですが、普段は目に触れないアニメーション制作の裏側みたいなところを知ると、映画の見方も変わってくるというか、違うメッセージもそこから受け取ることができると思うんです。自分の仕事と比べてみたり、映画とは関係ないけれども自分自身の人生の気づきみたいなものが、もしかしたらあったりするかもしれない。

新海誠展 「ほしのこえ」から「君の名は。」まで 8.jpg

デビュー15周年を記念して、12月18日まで国立新美術館で開催されている展覧会。現役アニメーション映画監督の名前を冠した展覧会が、国立の美術館で開催されるのは初めて。貴重な制作資料である絵コンテや作画、設定資料に加え、「キーワードで読み解く作品世界」「新海誠と時代背景」など東京会場の特別展示も多数企画されている。
© 2016「 君の名は。」製作委員会
© Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
© Makoto Shinkai/ CMMMY

そのきっかけになるかもしれない場所として、これ以上の環境はないので本当に光栄ですし、ひょっとしたら今が人生のピークなのかな、なんて考えたりもします(笑)。展覧会がきっかけではないのですが、作品そのもののクオリティとして、いつがピークなのかということは、つい考えてしまいます。人生も仕事も、必ずしも経験を重ねるほどいいわけではなく、どこかにピークがあるはずだから、自分にとってそれはいつなんだろうって。そんなことを想像してしまうくらい、大きな展覧会なのだと思います。

東京は好きでい続けても報われない異性のよう。

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2001年に結成され、2005年メジャーデビューしたロックバンド。ロック、ジャズ、ヒップホップから民族音楽まで縦横無尽に織りこまれた、ジャンルにとらわれない音楽性や、哲学的でロマンチックな歌詞が大きな支持を受けている。『君の名は。』で主題歌「前前前世」をはじめとする音楽を担当。アルバム「君の名は。」も発売されている。

僕は東京に住み始めたときに本格的にアニメーション制作も始めたから、東京で作り続けているだけなんです。もちろん東京で制作するメリットは、現実的にはすごくたくさんあるんですけど、それが一番大事なわけではない、とはいつも思っています。

だけどまあ、たまたまの集積が人生だったりするんですよね。東京に住んでいるから、たぶん僕は東京を好きになって、物語の舞台にしているのだと思うし、その場所を好きになるのは、そこに住んでいるからこそ。ここが最高だからとか、理想的な場所だから暮らしているわけではない気がしますが、東京にはとらわれてしまっているような感覚もあります。好きでい続けても決して報われることのない、異性みたいな(笑)。客観的には、東京での暮らしは大変なことのほうが多いんじゃないかって思うんだけど、自分の気持ちをコントロールできなくなるくらいの魅力がある街だと思うし、東京を舞台にすればするほど、好きな気持ちは強くなっています。

六本木が少し遠い場所だと感じるように、東京そのものも住んでいながら、やっぱりどこか遠い場所なんですよね。RADWIMPSと一緒だなって思います。彼らと一緒に仕事もできたし、とても身近な存在だと感じるようにはなったんですけど、やっぱり今でも遠くの星であり、手の届かない人たちなんです。六本木もやっぱりそういう存在で、ほんの少し近づくことはできたけど、いつまでも遠い存在であり続けるような気はしています。

手が届かないと思っていた場所にときどき触れることができて、今日はいい日だったなと思えるようなことがたまにあるくらいが、ちょうどいい。六本木が輝いているものの象徴のような街であり続けてくれたら、僕にとっては嬉しいですね。

取材を終えて......
本人もおっしゃっていた通り、次回作のことで頭がいっぱいになっているなか、貴重な時間を割いていただき実現した、今回のインタビュー。にも関わらず、内面で起こっている格闘を感じさせないくらい、新海監督の口調や物腰はとても穏やかで、ひとつひとつ言葉を選びながら、丁寧に話してくださる姿が印象的でした。東京に愛着を抱きながらも、「地元の長野で暮らし続けているもうひとりの自分がいるような、不思議な感覚がずっとあるんです」と話す姿が、『君の名は。』の瀧くんと重なりました。(text_ikuko hyodo)

>前編はこちら



新海誠 / アニメーション映画監督
1973年、長野県生まれ。02年、個人で制作した短編作品『ほしのこえ』でデビュー。同作品は、新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を受賞。04年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。07年公開の『秒速5センチメートル』で、アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。11年に全国公開された『星を追う子ども』では、これまでとは違う新たな作品世界を展開、第八回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞受賞。13年に公開された『言の葉の庭』では、ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞した。同年、信毎選賞受賞。16年に公開された『君の名は。』は邦画興行収入歴代2位となる、空前のヒットを記録。次世代の監督として、国内外で高い評価と支持を受けている。