86 伊藤直樹(PARTY クリエイティブディレクター)前編

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「GPSのズレ」がコミュニケーションをおもしろくする。

セカイカメラ

頓智ドット株式会社(トンチドット)が無償で提供していたiPhone、Android上で動作する拡張現実ソフトウェア。セカイカメラを起動すると、iPhone、Android内蔵のデジタルカメラによって目の前の景色が画面上に映し出されたうえに、その場所・対象物(建物・看板など)に関連する「エアタグ」と呼ばれる付加情報(文字・画像・音声)が重ねて表示される。エアタグはユーザーが自由に付加することができ、ユーザー間で共有される。2014年1月22日に全サービスを終了した。

インタラクティブを上手に扱いたいときは、テクノロジーが持つ「不甲斐なさ」を料理する必要があります。かつてスマートフォン内蔵カメラに映し出された光景に、GPSを利用して「エアタグ」と呼ばれる付加情報を表示するサービス「セカイカメラ」が話題になりました。しかし、現実世界の情報とWeb上の情報が複雑に重なり合ってしまい、混沌としたUIになってしまったんです。GPSの精度が高くなかったために、普及しなかった。

逆に、そのテクノロジーの不甲斐なさを巧みに利用したのが「Pokémon GO」です。「Pokémon GO」はGPSによって場所を知覚し、そこにモンスターを出現させていました。ただ、セカイカメラ同様に誤差が出てしまう。そこで、GPSのズレをあらかじめ利用したサービスが開発されたのです。

僕は「Pokémon GO」のヘビーユーザーで、よく新宿御苑にモンスターを捕まえに行っていました。ただ、新宿御苑は午後4時30分に閉園してしまいます。そうすると、園内にいるモンスターに出会えない。でもGPSにズレがあることで、柵の前でじっくり待っていると、モンスターが「ぴょん」と現れることがあるんです。

そうすると、そのポイントに人がいっせいに移動していきます。はたから見たら異常な光景ですよ。僕も一緒に移動しているうちのひとりなんですけど(笑)。でもそれって、非常にインタラクティブな設計だと思いませんか?

場所とメディアが融合する未来。

「みちびき」 topic4.png

主に日本地域向けに利用可能とする地域航法衛星システム。現在は4機体制を進め、将来の7機体制への整備を整えている最中であり、国内の多くの位置情報アプリと連携している。今後精度が高くなるにつれ、地理空間情報を高度に活用した位置情報ビジネスの発展が期待されている。
画像提供:内閣府宇宙開発戦略推進事務局

テクノロジーによってこれからのデザインやコミュニケーションは変化していきます。例えば準天頂衛星システム「みちびき」が打ち上げに成功したことで、GPSも今後より精度を増していくでしょう。「Pokémon GO」はズレを前提とした設計でしたが、今後はズレがないことを前提としたサービスが生まれてくるわけです。

GPSがある地点を正確に認識できるようになれば、ピンポイントでその情報をスマートフォンに表示させることができるようになります。そうすると、「この椅子には過去誰が座り、どんな景色を見たか」といった細かい情報にまで一瞬でアクセスできるようになっていくんです。街の情報も事細かに記憶することができますから、場所とメディアが融合するような世界が実現していくと思いますよ。

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伊藤直樹 / PARTY クリエイティブディレクター
71年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。テクノロジーとストーリーテリングの融合を追求するクリエイター集団「PARTY」のCEO。これまでに Nike 、Google、Sony、無印良品など企業のクリエイティブディレクションを手がける。「経験の記憶」をよりどころにした「身体性」や「体験」を伴うコミュニケーションのデザインは大きな話題を呼び、国際的にも高い評価を得ている。2016年、Fast Company誌が選ぶ世界の「The Most Creative People in Business 1000」に選ばれる。最近の作品に、成田空港第3ターミナルの空間デザインやサンスターのハミガキIoT「G•U•M PLAY」など。経済産業省「クールジャパン官民有識者会議」メンバー(2011、2012)。NYの国際広告・デザイン賞ONE SHOWの国際ボードーメンバー。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授。事業構想大学院大学客員教授。