85 蜷川実花(写真家 / 映画監督)後編

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アジアに行けば、日本の無駄な部分にも気づく。

 日本の人は、国内で収まりすぎないほうがいいと思います。たしかに国内で仕事をするのは何かと楽だし、気心の知れた人と良質なものを作るっていうやり方もあるけれど、もっとアジアに目を向けて交流したほうがいい。私なんかはどんどん違うところへ行っていろんな世界を見たくなるから、どうしてみんなそうしないんだろうって不思議に思うんです。私の場合、大変なことをおもしろいと思える質だからっていうのもあるけど(笑)。

 アジアに行ったら日本みたいに物事がうまく運ばないことも多いだろうけど、この先、日本がアジアと渡り合っていくためにも避けては通れないことだし、アジアのいろんな人と仕事をすると、日本のほうが変だと思うようなことにも気づいたりできるから。

 たとえばアジアで仕事をしたあと、日本で広告代理店ががっちり入っているような仕事をすると、私が意見をする必要なんてないじゃんっていうくらい、企画書が完璧に作られていたり、こんなに時間をかけるほど本当に必要な資料なの? って思うことがたくさんあったりする。日本の無駄もたくさん見えてくるし、もう少しお互いの得意なところや優れているところを真似し合えたらいいのになって思います。

オリンピックを利用しないともったいない。

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蜷川さんが初監督を務めた2007年公開の映画。安野モヨコの漫画が原作で、江戸吉原の遊郭で育った少女が花魁になるまでの波乱万丈の物語。花や金魚など蜷川さんおなじみのモチーフを効果的に用いて、アバンギャルドな遊郭を作り上げた。

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(C) 2007 蜷川組『さくらん』フィルム・コミッティ (C)安野モヨコ/講談社

 私は東京で生まれ育って、東京にしか住んだことがないので、やっぱりこの街が一番好きだし、一番好きな場所であってほしいっていう思いがすごくあります。地方の人は地元愛が強かったりするけど、東京の人って東京についてあまり語ろうとはしないじゃないですか。その点、私は意外と地元愛が強くて、これまで作ってきた映画も『さくらん』は江戸が舞台で、『ヘルタースケルター』は渋谷近辺がメイン。次に企画している何本かも東京が舞台なので、全部作ることができたら東京の作家と名乗ってもいいかなって思っています。

 東京が一番好きな場所であり続けるために、今足りないことをあげるなら、やっぱり元気かな。そういう意味で2020年の東京オリンピックはいいきっかけになるかもしれないし、そうしなきゃいけないって思うんです。海外の方もたくさん来るし、注目を浴びて、必然的にエネルギーが渦巻くわけだから。

 そこに向けて私たちも盛り上がっていきたいし、オリンピックをうまく利用しなきゃもったいなさすぎません? 今はまだオリンピックがどんなものになるのか実感がわかないけど、よく考えてみようよ、すごいことが起こるんだよ、そうそうあることじゃないから楽しまなきゃ損だよ! って声を大にして言いたいです。

おもしろいことと面倒くさいことは、かぶっている。

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マンガ大賞を受賞した、岡崎京子の漫画を映画化。全身整形を施し、究極の美貌とスタイルを持つトップモデルが、手術の後遺症と頂点から転落する恐怖に追い詰められる様を描く。

『ヘルタースケルター』
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(C)2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会 (C)岡崎京子/祥伝社

 オリンピック組織委員会理事をやらせてもらってよかったと思うのは、普段は会わないような方たちと会うきっかけができたこと。アーティスト同士の横のつながりも生まれたし、政治家の方と会ったりするのですが、オリンピックに関わらず、何か新しいことをやろうとするときって、能動的に人と会うじゃないですか。普段自分が動いているテリトリーの外に出て、いろんな人と会うことはとても刺激的だし、そのこと自体が財産になるのだと実感しました。

 面倒くさがっていると何もできないけど、おもしろいことと面倒くさいことって、結構かぶっていたりしますよね。面倒だと思わずに怖がらないで動かないと、新しいことやおもしろいことには出会えないし、自分のテリトリー内で動いているだけだと、よっぽどのことがない限り、予測範囲内のことしか起こらないでしょ。自分のテリトリーを一歩出る勇気、といっても小さな勇気だけど、重い腰を上げるきっかけとしてオリンピックとうまく付き合ったらいいんじゃないかなって思うんですよね。

取材を終えて......
終始フレンドリーだった蜷川さん。ガーリーな感性を持ち続けたまま、世の中の流れを冷静に見つめるバランス感覚が素晴らしく、若い世代を次々と取り込んでいる理由がよくわかりました。アジアが魅力的だからこそ、東京ももっと元気にならなきゃ! という、東京を愛する蜷川さんの思いが伝わってくるインタビューでした。(text_ikuko hyodo)

前編はこちら



蜷川実花
東京都生まれ。01年、第26回木村伊兵衛写真賞を受賞。07年、初監督を務めた映画『さくらん』は、第57回ベルリン国際映画祭、第31回香港国際映画祭に特別招待作品として正式出品。08年に個展「蜷川実花展」が全国の美術館を巡回し、のべ18万人を動員。10年、Rizzoli N.Y.から写真集「MIKA NINAGAWA」を出版、世界各国で話題となる。12年、監督第2作目となる『ヘルタースケルター』が公開し、22億円の興行収入を記録。新藤兼人賞銀賞を受賞した。16年、台湾の現代美術館(MOCA Taipei)にて大規模な個展を開催。20年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事就任。
蜷川実花公式HP http://www.ninamika.com/