85 蜷川実花(写真家 / 映画監督)前編

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上海の個展を控えて。

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2017年11月11日~2018年1月10日に、中国・上海の『LAFAYETTE ART & DESIGN CENTER』で開催予定。過去最大規模となった昨年の台北での個展をさらに上回る内容に。協賛:キヤノン

 台北の個展がきっかけになって、今年の11月には上海で個展が控えていて、これまでで最大の規模になる予定です。この個展を実現させてくれたのが、上海の20代後半の女の子、といってもCEOなんですけどね。「絶対に裏切らないよね」「うん、裏切らない」みたいな女の子特有のやり取りで、ビジネスマンなんだけどマインドがギャル(笑)。

 日本では考えられないけど、中国では若い子たちに決定権があって、バンバン仕事を決めてくるんです。上海に巨大なショッピングモールができたときも、「メインビジュアルを実花に撮ってもらおうと思って」とさらりと言われて、「はい、撮ります」みたいな(笑)。日本だったら決定するまでにものすごく時間がかかりそうなことでも、彼女たちがOKと言ったら実現してしまうので、おもしろいことができそうな予感が常にあります。

熱狂的に物事を進める勢いは、アジアから学ぶべき。

 アジアの人たちって、おもしろかったらシンプルに喜んでくれるところがいいんですよね。日本の場合、事前の打ち合わせが多すぎたり、丁寧すぎてなかなか進まなかったりして、一見合理的なようでいて、そうじゃないところがあるから。その点、アジアでは打ち合わせが打ち合わせとして機能していないようなことも多々あるけど、おもしろくなるのであれば予定していた内容から変更してもいいし、むしろそれが喜ばれちゃったりもする。

 やっぱりエネルギーの量が、日本とは明らかに違うんですよね。日本のクリエイションは繊細だし、優れている面はまだまだたくさんあるけれども、いいものだけを作っていればいいっていうのとは別の、エネルギー量というベクトルも必要なわけで。熱狂的に物事を進めるような勢いは、アジアからどんどん学ぶべきだと思います。アジアと東京を行き来していると、東京はそのエネルギーが残念ながらちょっと少ないと感じてしまう。「おもしろいことやっちゃおうぜ!」「おー!」みたいな向こう見ずなノリが、もっとあったらいいのになあ。

素直に楽しむことで実感できるアートの本質。

 アートの受け手、つまり見る側に関していうと、アジアの人の反応はとてもピュア。わかりやすくて明るい感じとか、インタラクティブなものがすごく好きですよね。私の展覧会でも「わあ、すごいー!」って素直に反応してくれるから、作り手としても嬉しいです。アートに触れてウキウキしたり、誰かに話したくなるような感じは、アートが持つ大きな力の側面なんだろうなあって、彼らを見ていると考えさせられます。

 日本人の楽しみ方は、もう少し斜に構えているというか、作品に対して距離がある気がします。たとえば教科書なんかで見覚えのある名画って、「ふむふむ、いい絵ですね」みたいに真面目に見なければいけないと思っているふしがあるじゃないですか。だけどフラットに見たら、このモデルのことを絶対に好きだったでしょ!? って言いたくなるような絵とか、それこそ海洋堂のフィギュアじゃないけど、このラインがたまらないって思いながら描いたでしょ? ってツッコミを入れたくなるようなものが、実はたくさんあったりする。

 エモーショナルな部分ってどうしてもはみ出ちゃうものだし、自分がものを作っているからよくわかるけど、これはたまらん! と思って作っているところこそ、人間味があっておもしろいんですよね。日本人は生真面目だから、そういう楽しみ方をしてはいけないって思いがちだけど、アートはもっとワーキャー言いながら、自由に楽しんでもいいと思うんです。

後編はこちら



蜷川実花
東京都生まれ。01年、第26回木村伊兵衛写真賞を受賞。07年、初監督を務めた映画『さくらん』は、第57回ベルリン国際映画祭、第31回香港国際映画祭に特別招待作品として正式出品。08年に個展「蜷川実花展」が全国の美術館を巡回し、のべ18万人を動員。10年、Rizzoli N.Y.から写真集「MIKA NINAGAWA」を出版、世界各国で話題となる。12年、監督第2作目となる『ヘルタースケルター』が公開し、22億円の興行収入を記録。新藤兼人賞銀賞を受賞した。16年、台湾の現代美術館(MOCA Taipei)にて大規模な個展を開催。20年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事就任。
蜷川実花公式HP http://www.ninamika.com