84 安藤忠雄(建築家)前編

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建築も、街もすでにあるものを味方にすることが大事。

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ニューヨークのマンハッタンにある線形の都市公園。廃止されたセントラル鉄道のウエストサイド線の高架を転用したもので、2009年に開園。徐々にその区間を伸ばし、第3区間までを含めた長さは2km以上になる。
http://www.thehighline.org/

 『21_21 DESIGN SIGHT』のスタートをもう少し振り返ると、はじまりは背後に立ち並ぶヒマラヤ杉でした。「まるで屏風のように上手く植えましたね」と言われることもあるのですが、あのヒマラヤ杉ははじめからあったものです。

 建築というのは、そして街というのは、すでにあるものをどう味方に引き込むかということが大事です。21_21ではそのひとつがヒマラヤ杉だったわけですが、『表参道ヒルズ』では、参道の象徴とも言うべきケヤキ並木でした。ケヤキ並木の高さを超えないようにするために、地下30mの深さまで掘り、建物を地下に埋設しました。

 世界に目を向けてみると、活気のある街ではどこも、すでにあるものや歴史的な景観、建造物とうまく結合しながら、人々の好奇心を受け止める新しい場所が生まれています。

 たとえば、ニューヨークに「ハイライン」という空中庭園があります。これは廃止された鉄道の高架を活用したもので、地上3階建てくらいの高さがあるのですが、リノベーションによって緑豊かな市民の憩いの場になっています。ホイットニー美術館も近くに移転してくるなど、「ハイライン」は今やニューヨークきっての文化ゾーン。そういう在り方や考え方というのは、おもしろいと思いますね。

諦めずに続けていると、いいこともある。

ブルス・ドゥ・コメルス vol1topic4_001.jpg

敷地はルーヴル美術館とポンピドゥ・センターの間に位置するパリ中心部。19世紀に建てられた元穀物取引所の建物を50年間借り受け、ピノー財団所蔵の現代アートを展示する美術館へと改修する。歴史的建造物の中に、コンクリートの壁に囲まれた空間を新設するという大胆な挑戦で、模型は国立新美術館での『安藤忠雄展-挑戦-』にも展示される。
Rendering of the facade from the jardin des Halles.© Artefactory Lab ; Tadao Ando Architect & Associates ; NeM / Niney & Marca Architectes ; Agence Pierre-Antoine Gatier. Courtesy Collection Pinault - Paris.

 私がいま新たな挑戦として取り組んでいるパリの美術館は、19世紀の穀物取引所『ブルス・ドゥ・コメルス(Bourse de Commerce)』のリノベーションです。その構想はドーム形の屋根をもつ円形の建物の中に、鉄筋コンクリート造の展示空間を挿入するというもの。歴史的建造物のリノベーションですから、10年くらいかかるかと思っていたのですが、パリもがんばってくれて、2019年にはオープンする予定です。

 このプロジェクトのクライアントは、ピノー財団を率いるフランソワ・ピノー氏。ピノー氏とは15年ほど前に、セーヌ川の中州に浮かぶスガン島で現代アートの美術館をつくろうと計画したことがあります。工事はスタートしたものの途中で中止になり、場所をイタリアのヴェニスに移して現代美術館『プンタ・デラ・ドガーナ(Punta della Dogana)』を完成させました。

 『プンタ・デラ・ドガーナ』が完成した年と同年、2009年に私は胆のうと胆管、十二指腸をとるという大きな手術をしたのです。2014年にも大手術をしまして、膵臓と脾臓をとりました。どちらも、なかなかの大きな手術。「まぁ、やってみるか」という気持ちで向き合ったのですが、意外と大丈夫で術後も元気に動いています。毎日1万歩は歩いて仕事をし、週に1度は大阪から東京に、月に1度は海外にも行っていますから。

 ピノー氏も私の体調を心配してくださっていたのですが、あるとき、パリにいた私が彼に電話をしたら「元気ならやってくれないか」と、再びパリでの挑戦がはじまったわけです。とてもタイミングがよかったな、と。将来的にはパリのポンピドゥ・センターでも展覧会を開催できればと考えています。

 人生というのは、まっすぐの道ばかりを進むわけにはいきません。あっちへ行ったり、こっちに行ったり、前に行ったかと思えば、後ろにも行く。エリートはまっすぐ行くのでしょうけれど(笑)、普通の人はいろんなものにぶつかったりもします。それでも、人間、諦めずに続けていると、いいこともあるものです。

後編はこちら



【information】
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安藤忠雄展-挑戦-
会期:2017年9月27日~12月18日 
会場:国立新美術館企画展示室1E+野外展示場
休館日:毎週火曜日
開館時間:10:00〜18:00(金曜日・土曜日は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで
問い合わせ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
特設webサイト:http://www.tadao-ando.com/exhibition2017/



安藤忠雄
大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年に安藤忠雄建築研究所を設立。代表作に「六甲の集合住宅」、「光の教会」、「FABRICA(ベネトンアートスクール)」、「ピューリッツァー美術館」、「地中美術館」、「表参道ヒルズ(同潤会青山アパート建替計画)」、「プンタ・デラ・ドガーナ」、「上海保利大劇場」など。79年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、85年アルヴァ・アアルト賞、89年フランス建築アカデミーゴールドメダル、93年日本芸術院賞、95年朝日賞、95年プリツカー賞、96年高松宮殿下記念世界文化賞、02年AIAゴールドメダル、京都賞、03年文化功労者、05年UIA(国際建築家連合)ゴールドメダル、レジオンドヌール勲章(シュヴァリエ)、06年環境保全功労者、10年ジョン・F・ケネディーセンター芸術金賞、後藤新平賞、文化勲章、12年リチャード・ノイトラ賞、13年フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)、15年イタリア共和国功労勲章グランデ・ウフィチャーレ章。11年東日本大震災復興構想会議議長代理「桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金」実行委員長。イェール、コロンビア、ハーバード大学の客員教授歴任。97年より東京大学教授、03年より名誉教授。著書に『建築を語る』『連戦連敗』『建築家 安藤忠雄』『仕事をつくる』『TADAO ANDO Insight Guide 安藤忠雄とその記憶』など。