81 ゲルフリート・ストッカー(アルスエレクトロニカ総合芸術監督)前編

int_81_main02.jpg

完璧なものから、完璧ではないものへ。

 int_81_sub03.jpg

オーストリア・リンツ市
人口約20万人、ウィーン、グラーツに次ぐ第三の都市で、オーストラリア最大の工業都市。アルスエレクトロニカを始めとしたクリエイティブとテクノロジーの力によって、産業、教育、雇用創出、多様性社会の実現などの地域社会の課題解決を実現した都市としても知られている。2009年には欧州文化首都に、また2014年にはユネスコ創造都市に選出された。(credit: Nicolas Ferrando, Lois Lammerhuber)

 テクノロジーと言えば、東京の高層ビル群は、実用的で機能的で、完璧に整備された構造がそこにあって、その下を通る地下鉄もまた完璧なタイムスケジュールで走っています。そんな働くためのインテグレートされた空間に身を置いていると、高層ビルや地下鉄こそ、東京のテクノロジーそのものであると実感します。これがマンハッタンの地下鉄だったらどうでしょう。100年前にタイムスリップしたような感覚になります。

東京は、まるでサイエンスフィクションのように整っていて、「社会実験の場」であり、「未来ラボ」でもあるんです。それが時として、東京がパーフェクトすぎると感じてしまう所以です。そしてそこに生きる人たちもまた、機械のような精密さで働いている。東京は今後、その完璧すぎるものからどう逃れていくのか、本能的に完璧ではない何かに向かおうとする側面がでてくるのではないかと思います。

理屈や理論を超えたアートが存在する六本木。

 完璧ではない何かに向かうとき、アートは非常に大きな役割を果たします。それは、アートに完璧はないから。アートは理屈や理論を超えたもので、エモーショナルな方法で人の人生や社会を探求する力を持っているからです。

 としたときに、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、21_21 DESIGN SIGHT、国立新美術館......。アートやデザインを軸とした文化的な空間に満ちた六本木は、東京が持つべき新しい方向性が内包されている街なのではないでしょうか。20年前の六本木はクラブカルチャーを始めとするナイトライフのイメージが強くありましたが、この20年で街全体が大きく変貌していきました。

冨田勲
1932年東京都生まれ。大学在学中から作曲家として活動を始め、TV、舞台、映画、CMなど多彩な分野で作編曲家として優れた作品を数多く残す。1970年頃よりシンセサイザーによる作編曲・演奏に着手。1982年「アルスエレクトロニカフェスティバル」に初参加。1984年に再び参加した際にはドナウ川両岸の地上・川面・上空一帯を使って超立体音響を構成し、8万人の聴衆を音宇宙に包み込む壮大なイヴェント「トミタ・サウンドクラウド」を催した。享年84歳。

 東京にくると必ず21_21 DESIGN SIGHTに立ち寄ります。「アスリート展」も観ましたし、日本のクリエイターは、本当に優秀で才能に溢れていますよね。

 そもそも日本のクリエイターとアルスエレクトロニカとの関係性は長く、歴史も深いんです。1980年代に今は亡き冨田勲さんがパフォーマンスしてくれたことに始まり、坂本龍一さん、岩井俊雄さん、明和電機や、最近ではライゾマティクス、落合陽一さんらがプリ・アルスエレクトロニカの賞を受賞したり、活動に参加してくれたりしています。

新しい視点を生み出す存在として。 

 一方でアルスエレクトロニカとして東京、そして六本木でのプロジェクトも年々増えてきています。人とテクノロジーがどう共存していくのか、どう関係性を作れるのか、などのテーマが圧倒的に多いですね。今、クリエイターやアーティストに求められる専門性や役割が、時代とともに大きく変わってきています。

 これまでは表面的にわかるものをデザインに落とし込んでいく傾向が強かったのですが、今、その落とし込む前の過程で生まれる問いや気づき、対話にこそ、クリエイターの役割や専門性が求められています。

 つまり社会は今までにない視点を求めている、ということです。だからこそクリエイターはその視点を生み出し、人々がその視点を持って、主体的に行動できる仕組みを生み出す存在でなければならないのです。

後編はこちら

ゲルフリート・ストッカー
メディア・アーティスト、アルスエレクトロニカ総合芸術監督。1964年生まれ。1991年X-スペースを結成し、インタラクション・ロボット工学・通信など、領域横断的な作品を制作。1995年からは先端芸術の祭典「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」の総合芸術監督に就任。以降、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボの設立、アルスエレクトロニカ・センターの企画責任者を担うなど、アルスエレクトロニカのブレインとして活動中。https://www.aec.at/