81 ゲルフリート・ストッカー(アルスエレクトロニカ総合芸術監督)前編

int_81_main01.jpg

オーストリアの地方都市リンツ。この街で1979年からスタートした『アルスエレクトロニカ・フェスティバル』は未来を体験できる芸術の祭典として、世界中のアーティストや研究者、企業から熱い視線が注がれている。同フェスティバルを主催するアルスエレクトロニカで1995年から総合芸術監督を務めるゲルフリート・ストッカー氏に、アートとテクノロジーを通じてひらかれていく六本木の未来、またこれからの時代に役立つ学びについて話を伺いました。

update_2017.6.7 / photo_mariko tagashira / text_nanae mizushima

東京は地球で一番、面白い社会実験の場。

int_81_sub01.png

アルスエレクトロニカ
1979年、オーストリア・リンツで始動したアルスエレクトロニカは、毎年9月に開催される『アルスエレクトロニカ・フェスティバル』を始めとする4つの部門を通じて、デジタルアートとメディアカルチャーの分野で国際的拠点を築いてきた。他の3つの部門は、ミュージアムや教育の発信拠点であるアルスエレクトロニカセンター、メディアアート研究・開発機関としてのフューチャーラボ、世界中のアーティストとのネットワークを育成するプリ・アルスエレクトロニカがある。

東京に初めて訪れたのは今から約20年前のことです。以来、毎年いろんな理由のもと訪れているのですが、私にとって東京は地球上で一番、面白い社会実験の場です。

世界的な都市と比較しても群を抜いて人口密度が高く、日本という国単位で見ても、そもそもこれだけ多くの人たちがこの街にピンポイントで集まっているという状況がすごいことで、都市の環境、人の技術や営みがそれぞれに調和しながら共存しあっている事実に、訪れる度にエキサイトしています。

一方で、東京は街全体が商業主義に溢れています。この点については個人的に課題視しているところもあって、例えば、渋谷駅前の交差点に立つと実感するのですが、周辺を囲むビル群やショッピングモールのほとんどが広告に埋もれています。そんな風景を見る度に、東京は街の公共空間がマーケティングと広告を得るための場所として保管されているんだなと思うんです。

公共空間の可能性が街をつくる。

int_81_sub02.jpg

Ars Electronica Tokyo Initiative Kick Off Forum
5月25日、ストッカー氏は東京ミッドタウンで行われた「Ars Electronica Tokyo Initiative Kick Off Forum」のために来日。「Ars Electronica Tokyo Initiative」とはアルスエレクトロニカと博報堂が、共同で活動を開始したイノベーション創出コミュニティ。Initiative(イニシアティブ)とは、先駆け、率先、第一歩という意味を持つ。「これからの東京、ひいては日本社会を良くする為に、我々は一体何が出来るのか」をミッションとし、企業・イノベーター・アーティスト等、様々なステークホルダーと未来社会を創り出すアイデアを共創し、社会への実装に向けて活動することを目的としている。(Credit: Ars Electronica Tokyo Initiative / Hitoshi Motomura)

街の公共空間をどのように使っていくのか。東京の人々はもっと自分たちで問うべきだと思います。なぜなら公共空間こそ、街の創造性と未来を育む場所になるからです。

 毎年9月初旬にオーストリア・リンツ市で数日間開催される『アルスエレクトロニカ・フェスティバル』。私はこのフェスティバルのディレクターを務めていますが、広場や公園、市街地のショッピングモールなど、市内の公共空間を会場として活用します。パッケージしたものを美術館で展示するのではなく、人々の暮らしの現場である公共空間にそれを持ち込むこと。それによって多様な人々がアートやテクノロジーへのアクセシビリティを高めることができる。そしてそこに新しい対話が生まれていくのです。

 リンツは人口20万人くらいの小さな街です。その小さな街で行われている活動は、大きな規模感を持つ街よりも伝わりやすいという良さがあります。アーティストもまた自分の内に閉じこもっているのではなく、アクターとして、社会の中でダイナミックに動き始める時代に入りつつあります。

 このように、フェスティバルを通じて、市民が街の発展におけるアクティブなプレイヤーになっていく姿をたくさん見てきました。東京はどうでしょう? 守られたスペースを出て、街全体を舞台にしてみる。そこに東京の一つの可能性があるように思います。