78 青木保(国立新美術館長)×落合陽一(メディアアーティスト)前編

青木保(国立新美術館長)×落合陽一(メディアアーティスト)

この街には、風景が変わるほどやばい体験がない。

国立新美術館
コレクションを持たない唯一の国立美術館として、2007年1月に開館。2017年1月には、「開館10周年記念ウィーク」と題し、エマニュエル・ムホー氏デザインによる特別展示など、さまざまなイベントが行われた。
photo:国立新美術館開館10周年「NACT Colors」インスタレーション(イメージ) デザイン:エマニュエル・ムホー

落合地方の芸術祭のようにコミュニティとアートを結びつける発想とは全然違って、六本木はもっとニューヨーク的でいい街。街はもう十分おこされているから、そういったアート経済文化をどうやって集積するかが重要で、スタンダードなアートの価値をつくることを目指していいはずなんです。

 国立新美術館をはじめとする文化施設はもちろんないといけないけど、それは一般の人がアートと出会うための場所。もっとエッジな人がアートに触れたりアートを買ったり、100万円くらいポンと金を払ったりできる場所がないんですよね。

青木以前、京都の国立博物館がカルティエの即売会みたいなことをやったところ、大成功したらしいんです。いわゆる富裕層を顧客の中心にして。実は個人でアートのためにお金を大きく動かせる人がいないと、マーケットは発達しない。ただ日本にはそういうお金持ちが少ないし、特権的なことがしづらいから......。そこが日本のよさでもあるのですが。

落合でも、会社をイグジットして、キャッシュで数十億持っている人って、このまわりにたくさん住んでいると思うんです。そういう人やコミュニティをうまく使って、「六本木をニューヨーク化しよう」みたいなことをやっていくのも、うまくいく気がするんですけど。

青木これからは東京も、北京や上海などアジアの都市と競争しなくちゃいけないから、他にはない街づくりが必要ですよね。東京はおいしい店も多いし、安全だし、利点はいっぱいあるけれど、これっていうスケールの大きな魅力がない。

落合風景が変わるほどやばい体験がないんですよ。とてつもなくでかい塔があるとか、街の1階すべてをバーにしているとか、他の国だったらありえるじゃないですか。でも、この街は全部がこじんまりしている。

青木落合さんが言うような21世紀型の都市をつくるなら、日本でできるのはここしかないでしょう。私自身、国立新美術館の館長を引き受けたのもそれが理由で、新しいし、コレクションもないし、これはいいなと思って。六本木はやっぱり新しいことを取り入れて、未来に向かっていくことができる場所ですから。

現代の美術館は、建物自体が美術品。

青木美術館の世界的な傾向として、まず建物が美術品である、ということがあげられます。国立新美術館が黒川紀章さんに頼んだように、みんな競って優秀な建築家にデザインしてもらう。あるとき、外国人のご一行が正面玄関のところで写真を撮っているんです。寄っていって「中で展覧会やっていますよ」って言ったら、「中はいいです」って(笑)。

 スペインのビルバオという街は、フランク・ゲーリーの設計したグッゲンハイム美術館が評判になって、一躍文化都市として有名になり生まれ変わりましたし。

落合あれは、やばいですよね! シルエットが尋常じゃない。銀ピカのとんでもない建物が目に入るだけで、普通の路地が異世界に変わりますから。

青木三宅一生さんから「デザイン・ミュージアムをつくりたいけれど、なかなか新しいものを建てる場所がない」と言われたことがあって、そのとき私は「だったら、国立新美術館の建物のまわりに巨大な柱をつくって、その上に新しいデザイン美術館をつくったらどう?」なんて答えました。夢物語に聞こえるけれど、半ば本気でもあって。

落合実は、僕が学生時代によく授業を受けていた東京大学工学部の2号館って、そうやって建築されているんですよ。もともとの建物を活かしつつ、新しい建物を上にボンと置いた。クレイジーで最高なデザインだと思います。だから、ありえない話ではないですよね。

 ちなみに、ここ最近、六本木にできた建築物の中で一番謎だったのは、ドンキのビルの上のジェットコースター。あれは全然美しくないけれど、めちゃくちゃ目立つ。ランドスケープを変えるような象徴的構造物があるだけで、街の雰囲気ってがらっと変わるんですよ。

青木もし落合さんが、六本木に何か建てるんだったら......。

落合高い、でかい、やばい、見たことない、言葉じゃ表現できないみたいな(笑)。

後編はこちら

青木保
文化人類学者、大阪大学で博士号取得。大阪大学・東京大学・政策研究大学院大学教授、文化庁長官(2007.4〜2009.7)などを務めた。米ハーバード大学客員研究員、仏国立パリ社会科学高等研究院客員教授、独コンスタンツ大学客員教授なども務めた。1965年以来、タイ、スリランカなどのアジア諸国、欧米各国等の文化人類学や文化政策の調査研究に従事。1972年〜73年にはバンコクの仏教寺院で僧修行をする。日本民族学会(現文化人類学会)会長(1994〜1996)。2013年3月には全米アジア学会で基調講演を行った。サントリー学芸賞、吉野作造賞受賞、紫綬褒章受章。近著に『「文化力」の時代』(岩波書店)、『作家は移動する』(新書館)、『文化の翻訳』(新装版 東京大学出版会)など。2013年4月から現職。現在国立新美術館研究紀要にアメリカの画家、エドワード・ホッパー論を掲載中。

落合陽一
1987年東京都生まれ。筑波大学情報学群情報メディア創成学類でメディア芸術を学び、東京大学で学際情報学府にて博士号を取得(学際情報学府初の早期修了者)。2015年より筑波大学助教。映像を超えたマルチメディアの可能性に興味を持ち、映像と物質の垣根を再構築する表現を計算機物理場(計算機ホログラム)によって実現するなど、デジタルネイチャーと呼ばれるビジョンに基づき研究に従事。情報処理推進機構より天才プログラマー/スーパークリエータ認定に認定。World Technology Award 2015年、世界的なメディアアート賞であるアルス・エレクトロニカ賞受賞など、国内外で受賞歴多数。