76 川田十夢(AR三兄弟)後編

川田十夢(田川欣哉(AR三兄弟)

現在、六本木ヒルズ展望台 東京シティビューで開催中の「HUAWEI presents 星空のイルミネーション」。同イベントで展示されている「星にタッチパネル劇場」をはじめ、コカ・コーラの「自販機AR」など、話題の作品を数々手がけるAR三兄弟の川田十夢さん。なんでも六本木でやってみたいことがあるそうで......。

前編はこちら

update_2017.1.25 / photo_ryoma suzuki / text_kentaro inoue

ARとは、妖怪のようなもの。

 水木しげるさんが大好きで調布に住みはじめて、それからずっと住んでいるんですけど、調布はいい街ですよ。東京の端っこの都市としての顔もあるけど、変に緑が多かったり、地図に載ってるかどうかもわからない坂道があったり。油断していると、マジで妖怪が出てくるんじゃないかっていう雰囲気がある。だから水木さんも住んでいたんでしょうけど、変なことが起こりそうだなっていう"妖気"があって。

 鬼太郎が名誉市民だし、水木さんの命日には、市役所の職員がみんな鬼太郎のコスプレをしてましたから。『ジョジョの奇妙な冒険』の第5部に登場するブチャラティみたいな格好したおばさんが、普通に商店街を闊歩していたり。謎が多い町なんですけどね(笑)。

 僕はARって、妖怪みたいなものだと思っているんです。たとえば「座敷わらし」にしても「からかさ小僧」にしても、すべて何かしらの根拠があって形成されている。自然現象とか言い伝えが由来になっている場合もあって、冬は寒さが厳しいからちゃんと窓は閉めておけよとか、危ないから子どもを夜中に歩かせないようにっていうことを、メタファーとして伝えるために妖怪がいる。言ってみれば、警句の擬人化なんですよね。

 稲川淳二さんだったら「嫌だな、嫌だな」って言いそうなことを形にしたのが妖怪。根拠はあるけれど、まだ形になって現れていない、聞こえていない、さわれないものを見せる。ARも、何か根拠があって何かを出すというのは同じなので、近しい概念だと思います。

味覚や嗅覚が再現される時代がやって来る。

 前回のクリエイターインタビューで、Takramの田川欣哉さんが、今は「視覚依存にした時代」で、視覚→聴覚→触覚→味覚→嗅覚の順でハックされていくという話をされていました。

 メディアの中核は、視覚と聴覚による入力と出力によって構成されています。現代人が一番肌身離さず持ち歩いているであろうスマホの表面は、無表情なガラスです。ふだん、それに慣れ親しんでいるからこそ、それだけでは補いきれない差分、つまり「バグ」が存在する。このリアルとリアリティの間に存在する差分、違和感の集積が「悪夢」です。走っているのに地面が軟質で足が取られてしまうとか、パンチを繰り出しても拳(こぶし)がグニャグニャになってしまうとか。夢にバグとして出現しやすいものの順番に、リアリティが実装されてゆきます。

 「視覚→聴覚→触覚→味覚→嗅覚の順」という、いわば生物学的な進化とは逆の順番。頬をつねると、夢かどうかわかるっていうけれど、僕はある時代までは夢の中でも実際に痛かったんじゃないかと思っていて。要するに、今、僕たちは視覚世界を生きているから視覚ベースの夢を見てるけど、触覚で夢を見てた時代もあるんじゃないかなと。たとえば土偶は、触覚記憶媒体だったような気がしてます。目で見るのではなく、指でなぞってみると正解がわかる。博物館とかでガラス張りで土偶が表示されているのを見ると、スマホ社会の先読みだったなと感じます。

  今はまだ、ARとかVRとか、視覚や聴覚寄りの技術がクローズアップされています。でも近い将来、きっと味覚とか嗅覚のような、より原始的なリアリティが記録・再生できる時代がやって来るでしょう。

近い将来、嗅覚情報は撮影禁止に?

 たとえば、調理師が使うような業務用の嗅覚センサーはすでにあって、数十万種類の匂いを判別できます。それがスマホに搭載されたら、おいしそうだなって思ったものは、写真とともにスキャンしておけばいいんですよね。

 さらに嗅覚から味覚に変換する技術は、食品メーカーとか香水メーカーがすでに持っていて、フレーバーを化学調味料や香料で再現できる。おいしそうだなと思ったらセンサーで嗅覚情報を撮る、それをRGBみたいな感じでレシピとなる味覚情報に変換して、ふりかけにして出力するっていうのもない話ではないし、現在の技術だけでできること。

 だから、そのうち料理は嗅覚情報撮影禁止になるかもしれませんね。そこでまた妖怪の話に戻ると、「妖怪Bluetooth」とか、猫娘ならぬ「Wi-Fi娘」とか、新しい妖怪も登場するはず。なんか青い歯型がついてるなと思ったら......それは、妖怪Bluetoothの仕業(笑)。