74 ピーター・バラカン(ブロードキャスター)前編

ピーター・バラカン(ブロードキャスター)

日本人でもイギリス人でもなく、ロンドン人。

 よく「バラカンさんは日本人なんですか?」って聞かれるのですが、自分のアイデンティティを国家にダブらせたことはありません。大学を出た1年後からずっと東京に住んでいるけれど日本人ではないし、かといってイギリス人でもない。しいて言えばロンドン人。だって今年の夏、初めてリヴァプールに行ったくらいで、イギリスっていったってロンドン以外ほとんど知らないんですから(笑)。

 とはいえ、42年も住んでいますから、基本的には東京が好きなんだと思います。でも住んでいると、いい面も悪い面も全部見えてくるもので......。

 たとえば、僕が好きなところは、銀座から日本橋にかけての中央通り。道もまっすぐで、きれいにビルが並んでいて、本当に都会らしい感じがする。あとは浅草とか、ざっくばらんな雰囲気の下町も好き。もちろん街そのものがいいなと感じる場所もあるけれど、下町ってとにかく人がいいんですよ。

東京は冷たい? ロンドンは温かい?

Japanology Plus
富士山からラーメンまで、多面的な日本の魅力を世界に発信するテレビ番組。バラカン氏が、毎回さまざまな分野の専門家を訪ね、日本の伝統芸能や自然、食や技術などを紹介している。NHK BS1で、毎週火曜日3:00~3:28放送中。

 NHKワールドで「Japanology Plus」という番組をやっていて、いろんなところに取材に行くことがあります。昨日も、町屋にある何十年も同じお菓子をつくっている町工場を取材したんですけど、ものすごく人がよくて。最近電車なんかに乗ってると、東京の人はみんなストレスにやられて温かみがないと感じることが多いんですが、ときどき下町に行くと、もっと人間らしくやってるなという印象を受けます。その人間らしさを、六本木あたりにも取り戻す方法はないものかな。

 今は住んでないからなんとも言えないけど、ロンドンも、もうちょっと温かみがあるんじゃないかって思うんです。ロンドンの中心部はわりとまとまっていて、歩いて回れるんですよ。東京は中心部がもっと広くて、42年間暮らしていても、まだまだ行ったことのないところがたくさん。みなさんだって、山手線で下りたことのない駅、けっこうあるでしょう?

 なにより、東京はとにかく人が多い。ついこの前、番組のファンの人から「東京に行くから会えないか?」って連絡がきて、新宿駅の近くで待ち合わせたら、案の定迷っちゃって。僕も40年前、日本に来たばかりの頃まったく同じように新宿駅で迷ったことがあって、パニックに陥りましたから(笑)。

地に足がついていなくて、流されてしまう街。

 東京ってメディアに振り回されがちで、地に足が着いてない感じがありますよね。ロンドンとの一番の違いは、もしかするとそういうところかもしれない。ときどき宙に浮いてるというか、流されてしまっていると感じるときがあるんです。

 世界を見てみると、今年はイギリスのEU離脱とか、トランプの大統領就任とか、まさかの事態が続いていますが、どちらも大都会にいない人たちの不満というか閉塞感が爆発したような動きですよね。これから、日本や東京はいったいどうなってしまうんでしょうね。

後編はこちら

ピーター・バラカン
ブロードキャスター
1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。 著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+á文庫)、『200CD ブラック・ミュージック』(学研)などがある。
http://peterbarakan.net