70 内藤廣(建築家)前編

内藤廣(建築家)

「小さい正しさ」と「大きい正しさ」。

 土木展の映像の中でも話していることですが、「正しさ」には、「小さい正しさ」と「大きい正しさ」の2種類があります。大きい正しさというのは、どうしたら被災した人が豊かな生活を築いていけるかということ。小さい正しさというのは、防潮堤をどうする区画整理をどうする、道路をどうするといったパーツ的なもの。

 もちろん、小さい正しさはたくさん積み上がっている。ただ、それが本当に大きい正しさにつながっているかは誰にもわからなくて、行政の人も、道路をつくっている人も、気の毒なくらい必死にやっているけど、心のどこかに疑問を持っている。

 本当はみんなが大きい正しさを描きつつ、そのまま小さな部分を調整していけばよかった。でも、そんなのやったことがないからできなかった、というのが現実でしょう。これは個人個人の責任というより、この国の社会システム自体の問題です。1960年くらいからずっとつくってきた社会の仕組みとか、補助金の仕組み、法律の仕組み......。

脳みそが切り替わるのは、首都直下か南海トラフ。

 戦後すぐは、みんな豊かになりたい、だから経済を立て直そうという、はっきりしたものがあったからよかった。それで50年やってきたけど、今どうなりたいのって聞いたときに、それを一言で言える人はいませんよね。

 おそらく、首都直下型地震がくるか南海トラフが動くか、そのぐらい大きな災害が起こらないと、日本人の脳みそは切り替わらない。ちょっと難しい話をしていいですか? 今回の東日本大震災で亡くなった方は、行方不明者も入れると2万人。南海トラフの被害想定が30万人から36万人ですから、被災規模はだいたい15倍。今回の復興には24兆円入れることになっているので、単純に計算すると360兆円。国はそんなにお金は出せないので、必然的に違うシステムを考えざるをえないでしょう。

 国が全部はできないんだから、もうちょっと地域でまとまって考えてね、みたいな話にしないと成り立たない。たとえば、家族というものをどう考えるか、コミュニティをどう考えるか、建築や都市やデザインをどう考えるか。考え方が変わるのはわかるけれど、どういうふうに変わるのかまでは言えない。僕も考えて続けていきたいし、いい方向に変わっていくといいなと思っています。

土木展には、未来つながるヒントが詰まっている。

スマホアプリの位置情報を用い、東京の交通網やユーザーの行動を観察することができる作品「土木の行為 はかる:Perfume Music Player Installation」(ライゾマティクスリサーチ)ほか、さまざまな展示が並ぶ。
Photo:木奥恵三

砂場遊びを通して土木の設計者になれる映像インスタレーション「土木で遊ぶ:ダイダラの砂箱」(桐山孝司と桒原寿行/写真)。インタビューのメイン写真は、映像空間でダムに水の溜まる様子を体感できる「土木の行為 ためる」(ヤックル株式会社)。
Photo:木奥恵三

 山本リンダの歌に「♪うわさを信じちゃいけないよ」ってあるでしょう? 今は、テレビとか雑誌とかSNSとか、そういうものを見て知ったつもりになってしまう時代。本当にリアルな情報を素手でつかむためには、あるところまで深く降りていくことが必要です。僕の場合は建築というジャンルを深掘りしたけれど、そういう専門分野ができれば、土木でも都市計画でも、もっといえば物理でもデザインでも、あとは全部横につながっていく。

 そういう意味で、この土木展には、土木の未来も建築の未来も日本の未来も全部入っている。変わったあとの世界につながるエレメントやヒントが詰まっていると思います。たとえば、ライゾマティクスの展示のセンシングや三次元技術を使った砂場遊びのインスタレーションといった最先端の技術から、具体的にものをつくっている職人レベルの話まで。

 あとは、それらを組み合わせて、どうやって新しいものをつくっていくかっていう話。あんまり難しいことばっかり言うとお客さんが来てくれなくなっちゃうから(笑)、まずは体験して楽しんでもらって、あるとき「ああ、そうか」って思ってくれたらいい。

後編はこちら



内藤廣
建築家
1950年神奈川県横浜に生まれる。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程修了後、フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(スペイン・マドリッド)、菊竹清訓建築設計事務所勤務をへて、1981年内藤廣建築設計事務所を設立。2001年東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学助教授、2002〜11年同学研究科社会基盤学教授、2007〜09年グッドデザイン賞 審査委員長、2010〜11年東京大学副学長、2011〜東京大学名誉教授。