69 えぐちりか(アートディレクター / アーティスト)後編

えぐちりか(アートディレクター / アーティスト)

広告会社のアートディレクターとして数々のキャンペーンを手がけるかたわら、国内外でインスタレーション作品を発表、ガラス製たまごのテーブルウエアシリーズ「バーンブルックのたまご」などのオリジナルプロダクトに、フィギュアスケート高橋大輔選手のコスチュームデザインなどなど、えぐちりかさんの仕事はとにかく多彩。広告クリエイターであり、アーティストでもある、えぐちさんならではの人を楽しませる街のつくり方とは?

前編はこちら

update_2016.7.13 / photo_tsukao / text_kentaro inoue

自分の価値観を恥ずかしいと思わせてくれる街が好き。

 つい最近、地元の帯広に帰ったとき、私はなんて忙しい時間を生きていたんだろうって感じたんです。東京にいると当たり前だと思っていたけれど、自分がちょっとおかしいってことに気づけなくなっているんですね。帯広にいると頭がすごくクリアになるし、そこに住んでいる人たちが大事にしていることも、東京とは全然違う。「ああ、気がつかないうちに、かっこつけて生きてたんだな」って思って、自分が背負っていた鎧を剥いでもらった気がしました。

 田舎は不便なことも多いけど、それでも生活がちゃんと成り立っているところに、すごくヒントがありますよね。ああ、こんな感じでもやっていけるんだ、しかもむしろそのほうが豊かなんだって。

 旅をしていて、私が好きだと感じる場所は、今まで自分はこうだと思っていたけれど、それだけじゃないって思わせてくれる、こんな価値観で生きていた自分が恥ずかしくなるような街。

人に合わせるのではなく、人を変えていくのがニューヨーク流。

 だから場所は、田舎か最先端か両極なんです。田舎が帯広だとしたら、最先端はニューヨーク。ちょっと前はチェルシーが面白いって言ってたのに、今度はブルックリンだとか、いやいや今はもう違う場所だよとか、そんなに変わっていく街って、なかなかないですよね。

 行くと知った気になって、そのとき流行っている場所を楽しむんだけど、1年後はもう変わっている。もちろんパリとかも面白いけれど、ヨーロッパの街はまず伝統があって、そこに新しいことをかけ合わせていう感じ。でもニューヨークは、とにかく常に新しいものを提案していく実験的な場所で、ダメなものはすぐに消えてしまう。人に合わせていくんじゃなくて、人を変えていくような街。

 日本って、一度開発されてしまうと、街にあるコンテンツもターゲットも大きくは変わらないですよね。ニューヨークに行って新しいものに触れると、東京ってまだまだなんだな、って感じるんです。しばらく行ってないので、私ももう語る資格はないんですけど......。でも、もし東京や六本木が面白い街でいたいのなら、やっぱり変わることを恐れないほうがいいと思うんです。

考えているのは「人が幸せに生きるって、どういうことだろう?」

 仕事では、少し尖った表現が多いように思われているかもしれませんが、最近は「人が幸せに生きるって、どういうことだろう?」って、いつも考えながら仕事をしています。どこで、どういうふうに暮らして、どんなふうに働くのがいいのか。昔はもっとやんちゃで、面白いことが大事だったけれど、アラフォーにさしかかって(笑)、自分の人生を見直しながら仕事をしているので。

 たとえば、下着の広告をつくるにしても、売ることにつなげるのはもちろん、新しい女の生き方とか、新しい女性像を表現してみたいとか。商品の持つイメージの幅を広げて、下着ってこんな側面もあるんだとか、見た人にわくわくしてもらえるようなもの。目を引くビジュアルを目指しつつ、その中で新しい考え方や生き方を提案したいと思うようになりました。