68 川村元気(映画プロデューサー)

川村元気(映画プロデューサー)

時代はすでに、オンラインからオフラインへ。

『理系に学ぶ。』
養老孟司、川上量生、佐藤雅彦、宮本茂、真鍋大度、伊藤穰一など、理系のトップランナー15人と川村氏による対話集。サイエンスとテクノロジーがもたらす世界の変化と未来を、文系人が言葉でわかりやすく読み解いた一冊。

『理系に学ぶ。』も、まったく同じ考え方。そもそも、バイオとか人工知能とかプログラミングとかについて、俯瞰して一気にわかる本が欲しかったんです。理系の本を読んでも全然意味がわからないから、僕が通訳になって、理系の人たちはこんな面白いことを考えてるんですよって伝えたかった。

 理系の人たちとしゃべっていて、「ああなるほど、明確に未来を見ているな」と思ったことがありました。ひとつは、僕らはSNSとかクラウドとか一生懸命オンラインにいこうとしているけど、彼らはもうそれに飽きて、オフラインに戻ろうとしていること。具体的には、オンライン上でつくったプログラミングや人工知能を、どうやって農業や建築などオフラインで活かすかを考えている。

 言葉は悪いですけど、少し前まではエリートはオンラインでプログラミングをして、それ以外はものづくりでもしておけ、という空気があったようなんです。それこそ生産はアジアに投げていたのが、だんだん逆になってきたともいえる。日本は自動車をはじめ、もともとモノをつくるのが得意ですから、そこにチャンスがあるのかもしれません。

チームプレイだけではブレイクスルーはない。

 もうひとつは、チームプレイが絶対的によいという意識がもう古くなりはじめている、ということ。これもいろんな人が話してくれたことで、結局すばらしい発明とか発見とかブレイクスルーは、絶対にひとりプレイじゃないと出てこない。ロボットクリエイターの高橋智隆さんが「昔みんなで集まって宿題やろうっていって、進んだためしがない」と言っていましたが、やっぱりひとりで潜らないと絶対的なところにはいけないんですね。

 順天堂大学に天野篤さんという心臓バイパス手術の天才がいて、彼が見つけたことをチームで共有して大きな成果をあげています。これは別にチームで何かを発見したわけじゃなくて、ひとりの天才が独力で見つけた山の登頂ルートを共有して、みんなにも登れるようにしよう、という考え方。映画でも、監督にもカメラマンにも脚本家にもくせがあって、俳優も言うこときかない、そうやってけんかしているチームのほうがいい作品になることが多いもの。現場もスムーズで、みんなで仲良くつくりましたっていう映画はだいたいつまらない(笑)。きっと会社だって、そうだと思うんです。

 もちろん、チームが一人ひとりの発明をちゃんと拾っていく機能を持っていないといけません。人の発明を評価して受け入れられるかも重要で、なんか気にくわないからといって封じちゃったらもう終わり。伊藤穰一さんが所長を務めているMIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボには、アートからサイエンスまでいろんな分野の人がいますが、誰かが何かを発明したときにちゃんと形にできる場になっているように。

境目がない、それが未来のエンタテインメント。

 これらの理系の人たちと話すことで、自分の中でもやもやと考えていたこと、アイデアの組み立て方がロジカルになっていきました。だから、これから僕がつくるものには理系の影響がものすごく出てくると思います(笑)。たとえば、『週刊文春』で連載がはじまった3作目の小説「四月になれば彼女は」もそう。

 僕のまわりにいる30〜40代って、ほとんどまともな恋愛をしてないんです。でも、彼らも大学生とか高校生の頃には恋愛をしていたわけです。かつては人を好きだという気持ちや嫉妬心があったのに、たった10数年間でまるでなくなってしまった。小説では、30代の登場人物たちの恋愛がなくなってしまった今の時代と、まだ恋愛があった10年前を交互に描いています。これ、すごく数学的な考え方なんですけど、もしAとBの間で恋愛がなくなってしまったのなら、交互にAとBを描いていくことで、A--B=Cというように、その差(=C)が恋愛として浮かび上がってくるのではないか、と。

 すでにプログラマーがオペラをつくったりしているように、未来のエンタテインメントは、テクノロジーやサイエンスがどんどん融合して、文系と理系の境目がなくなっていくでしょう。もちろん、任天堂の宮本茂さんとか、元電通の佐藤雅彦さんとか、昔からそういうことをやっていた人はいっぱいいたけれど、ロジックでモノをつくるみたいなのが、どこかで受け入れられなかった自分もいて......。

 でも、ロジックを詰めているからこそジャンプもできる。アップルを見てもわかりますよね。スティーブ・ジョブズというプログラマーがアートとかストーリーとかコミュニケーションを習得すると、ああいうエンタテインメントあふれる会社ができるわけで。きっと未来は、よりそういう時代になると思っています。

取材を終えて......
メイン写真の撮影中、「映画館ではいつもどのあたりに座りますか?」と尋ねると、「右側のうしろですね。真ん中は音はいいけれど、画面が大きいと首を左右に振らないといけないので」とのこと。ちなみに、昔映画館でバイトをしていた川村さんいわく、TOHOシネマズ系のポップコーンは味がおいしいそうです。(edit_kentaro inoue)

川村元気(かわむら・げんき)
映画プロデューサー
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、130万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮崎あおい出演で映画化された。13年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。14年には、絵本『ムーム』を発表。同作は『Dam Keeper』にて米アカデミー賞にノミネートされた、Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によるアニメ映画化が決定した。同年、山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』を発表し大きな反響を呼ぶ。一方でBRUTUS誌に連載された小説第2作『億男』を発表。同作は2作連続の本屋大賞ノミネートを受け、ベストセラーとなった。近著として養老孟司、若田光一、川上量生、佐藤雅彦、伊藤穣一ら理系人との対話集『理系に学ぶ。』、ハリウッドの巨匠達との空想企画会議本『超企画会議』などがある。