68 川村元気(映画プロデューサー)

川村元気(映画プロデューサー)

映画化できないものを書こうと思って書いた小説。

六本木未来大学
アイデア実現プロジェクト#07として、2015年より開講中のクリエイティブディレクションが学べる学校。川村氏は第3回に登場、「川村元気さん、エンタテインメントのデザインって何ですか?」をテーマに講義を行った。
http://6mirai.tokyo-midtown.com/project/no7_6/

 六本木未来大学の授業でも話したように、「世界から猫が消えたなら」は、もともと映画にならないものを書こうと思って書いた小説。それがなぜか映画化されて、プロデューサーではなく原作者という立場で関わることになりましたが、こういうキャストやスタッフがいいとか、脚本にも音楽にも編集にもいろいろ意見は言わせてもらいました。映画のことにやたらと詳しい原作者として(笑)。

 でも僕は、もともとプロデューサーをやっていても、こうじゃなきゃダメだってものがないんですよ。こういうトーン&マナーで、こういう世界観でという土台の部分さえ握れていれば、ディテールの部分はなるべく多様であるべきだと思っています。原作者として、心の底から「へー、こういうふうになるんだ」と驚きたいので、ひねり出すアイデアの部分については、むしろ映画のチームにおまかせしていました。

 原作が自分だから、他の映画作品よりも思い入れがあるのかなと思っていましたが、とくに変わらなかったのが驚きではありました。でも、ふだん当たり前にやっていた映画的な仕掛けに、逆説的に気づかされる部分があって。たとえば、音楽というものがどれだけ人の感情を揺さぶるのか、それから俳優の肉体のすごさ。宮﨑あおいさんがイグアスの滝の前に立つだけでちょっと心が動く、みたいなのって映画ならではで、とても興味深かったですね。

今、世界を変えているのは理系の人

 最近、『理系に学ぶ。』という対話集を出したのですが、これを書いたきっかけも、やっぱり映画でした。映画って昔は、ミュージシャンとか政治家が主人公だったのに、最近はマーク・ザッカーバーグとかスティーブ・ジョブズとかホーキング博士とか、理系の人ばかり。僕は「映画の主人公は世界の主人公」だと思っているので、ってことは今、世界を変えているのは理系なんだ、と気づいて。

 僕は数学も物理もできないし、理系コンプレックスが激しい超文系人間。だいたいものを書いたり、映画をつくったりしている人って、数学に挫折してきている。本当は数学をやっていたほうが世界を変えられたのに、それができないから逃げてこうなっただけというか(笑)。数学って、明快に答えが出ますよね。でもこっちは、どんなに美しい文章を書いても、どんなに美しい絵を描いても再現性がないし、共有しにくい。

 最近、アルゴリズム化できないものや、定型性がないもの、偶然性が好きと言っているんですが、それも、せいぜい理系に対抗するのはこれしかないと思っているから(笑)。自分の真逆にいる人たちに突っ込むことで、それを知ろうと思ったんです。映画の人間として小説に突っ込むことで、また映画を知ったように。

人工知能を考えることは、実は人間を考えること。

 人工知能は計算もできるししゃべれるし、今や将棋だって負けるし、囲碁だって負ける。そうやって、どんどん人間にしかできないことがなくなっていったときに、人工知能にできないことって何だろう。たとえば、恋愛感情を持つこととか、「大目に見る」とか「水に流してやる」なんていうのは、きっとすごく難しいですよね。

 結局、人工知能にできないことを考えるのは、実は人間を考えることなんですよね。『理系に学ぶ。』の対話を通して、プログラミング、人工知能、バイオ、最先端医療......そういうものを学ぶことで、逆説的に今の人間がわかってくる。もう人間だけにできることってほんと残ってないんだ、って。ということは恋愛感情とか、そこに残されたものが一番大事なんだって思うし、それを見つけることが僕が表現すべきことなんだろうな、という気分になっています。

嫌だと思う場所に突っ込まざるを得ない状況をどうつくるか。

『仕事。』
「私と同じ年の頃、何をしていましたか?」。山田洋次、秋元康、宮崎駿、糸井重里、篠山紀信、坂本龍一など、仕事で世界を面白くしてきた12人のレジェンドにたずねた、川村氏初のビジネス書。唯一無二の仕事術が満載。

 僕は、勝手知ったる人たちとずっと一緒にいるよりも、ふだん絶対会わない人、苦手だなって思っている人に強制的に会ったほうがいいと思っているんです。学校に行かなくちゃいけなくて、机があって先生が来るから無理やり勉強する、みたいな。

 たとえば僕にとって避けて通りたいのは、60代の巨匠たち。怖いし、大変そうだし、同い年のやつらとつるんでるほうが楽ですし(笑)。でも、そういう人たちって失敗の蓄積もしているし、僕らより絶対進んでいる部分があるはず。そう思ってまとめたのが、宮崎駿監督や坂本龍一さん、糸井重里さんなど、巨匠12人と対話した『仕事。』という対話集です。

 苦手だと思っても、勉強して無理やり話をしてみると、実はそのほうがブレイクスルーがあるもの。だから僕、旅行でも、だいたい行きたくない場所に行くんです。汚いのは絶対ダメだし、お腹を壊すのも嫌だから、インドなんて絶対行きたくないんですけど、そういう場所が一番発見がありますね。自分が怖いとか、嫌だと思う場所に突っ込まざるを得ない状況をどうつくるかが重要だと思うんです。