65 水口哲也(メディアデザイナー)

水口哲也(メディアデザイナー)

日本や東京の"結界"を外す、プラットフォームがつくりたい。

 個人的に今やってみたいのは、テクノロジーを使って、日本の隠れた魅力を発見して、体験に変えていくこと。訪日した外国人が、ますます好きになって何度も訪れたくなるような、新しいプラットフォームをつくりたいですね。

 というのも、日本や東京って、せっかく潜在的なポテンシャルを持っているのに、それを発揮できていない気がするんです。たとえば今、目の前に外国人がいたら、目をそらしてしまう人が多いですよね。でも、もし日本に来る外国人全員が「日本語をしゃべれる」状態だったら、たぶんそんなふうにはならないでしょう。みんな「うまく話せないから、話しかけないで」という結界を張っているだけ、今の日本や東京には、そういう"タガ"がたくさんあると思うんです。

 テクノロジーによって結界が外れた瞬間、潜在的なポテンシャルや魅力が表に出てきます。困っている外国人を見かけたら積極的に声をかける人が出てきたりとか、仲良くなって飲みに行く人がいたりとか。そんな、人の振る舞いを変えるクリエイティブにも挑戦してみたいですね。

日本人はストーリーを、欧米人は体験を重視する。

 日本でより深い体験を重ねることができたら、日本人とエンゲージする外国人は確実に増えていくでしょう。その流れをつくり出すために重要なのは、自分が外国に行ったときに、どういう思いをしたか、どんな感情になったかという体験です。その多くは、やはり「人」に紐づいているもので、ずっと日本にいるとわからなくなってしまうので、いつも"イメージのスワップ"をするようにしています。

 僕はゲームをつくっているので、日本、アジア、北米、ヨーロッパ、いろいろな国の人たちの反応を見続けてきました。ビデオゲームは、何十年にわたって世界中で多くの人が遊び続けていますが、そこにはやっぱり共通性と違いがあるんですね。たとえば、日本人は比較的、RPGのようなキャラクターやストーリーのあるものが好きで、欧米の人はどちらかというとリアリティのある「体験」に寄ります。

 それは旅の仕方を見てもわかりますよね。欧米の人は体験重視、セレンディピティ(偶然の出会い)を求める傾向が強いから、好奇心が行動を牽引するというか。「えっ、そんな装備で屋久島行っちゃうの!?」とか(笑)。

体験が人を育て、体験が人を変えていく。

Rez Infinite
2001年にプレイステーション2とドリームキャストで発売された音楽シューティングゲーム「Rez」を、PlayStation VR対応に拡張した新作。2015年12月、サンフランシスコで行われた「PlayStation Experience 2015」で発表され、2016年にリリース予定。

 VRやARの未来を考えてみると、「Rez Infinite」のような共感覚的な「アンリアルな体験」と、空間を超えるような「スーパーリアルな体験」の両方が可能になるでしょう。イリュージョンとか、エンタテインメントとか、魂が震えるような体験もあれば、ドローンでパリの街を散歩してみたいとか、ハワイの火山を上から見たいとか、"行きたいけど行けない"を解決してくれるような体験もある。リアルなものからアンリアルなものまで、やっぱり人間にはその両極が必要だと思います。

 いずれにしても新しい体験って、新しい意識のスイッチを入れてくれますよね。感受性も刺激するし、人を幸せにもするし、いろんな能力を開花させてくれる。「ハマりすぎたらどうするんだ」とか、ネガティブな面を強調する人もいますが、それは新しいメディアが登場すると、いつも言われること。本も映画もテレビも、必ずそうでした。当たり前のことですが、マイナスもあればプラスもあって、そのバランスの中で新しい視点を提示していくのがクリエイティブな人たちの役目でもありますから。

 僕自身は、やっぱり体験が人を育てていくし、人を変えていくと信じています。そして、情報とか知識だけじゃなくて、それを体験に変えるデザインがしたいんだと思います。

 ちなみに東京には、リアルもアンリアルも両方ありますよね。住んでいるとつい忘れてしまうけれど、1時間ちょっとで海にも山にも温泉にもアクセスできて、都会と自然、新しいテクノロジーと古い文化を瞬時に体験できる。あらゆる美食にアクセスできる。外国人の視点からすると、こんなにいいところはない。だから僕も離れられないんです、東京。

取材を終えて......
ほかにも「いつかやりたいと思っているのは、街にアートを拡張させて、歩いて回ること自体がアートになるような体験」と水口さん。インタビュー中にも登場した、さまざまな六本木にまつわる"ウォンツ"、未来会議もぜひ一緒に考えてさせてください!
ちなみに、3月3日(木)19:00〜20:00には、六本木ヒルズ「MAT LAB」にて、水口さんとライゾマティクスの齋藤精一さんによるトーク「デジタルとリアルの新たな身体性」も開催されます。そちらも、ぜひどうぞ。 http://mediaambitiontokyo.jp/thenewembodimentofdigitalandphysical/
(edit_kentaro inoue)

水口哲也(みずぐち・てつや)
メディアデザイナー / レゾネア代表 / 米国法人enhance games, CEO
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授
ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2001年、「Rez」を発表。その後、音楽の演奏感をもったパズルゲーム「ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)など、独創性の高いゲーム作品を制作し続けている。また音楽と映像のハイブリッドユニット「Genki Rockets」の中心メンバーとして、作詞プロデュースや映像演出、地球温暖化抑制のための地球型コンサート『Live Earth』(2007)においてはアル・ゴア元副大統領のホログラム映像によるオープニングアクトの演出などを手掛ける。2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、Ars Electoronicaインタラクティブアート部門栄誉賞などを受賞(以上Rez)。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベイター50人)の1人に選出される。2007年文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査主査、2009年日本賞審査員、2010年芸術選奨選考審査員などを歴任。