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田根剛(建築家)

六本木は、まだまだ商業箱の中に文化がある。

 これまで日本、スウェーデン、デンマーク、イギリス、フランスと暮らしてきて感じているのは、街の好きなところと嫌いなところはどうしても両方ある、ということ。パリなんて、だいぶ長く住んでしまったので、今は好き嫌いを超えて「ラブ・アンド・ヘイト」みたいな状態になっているくらい。地下鉄が汚いとか、フランス人の対応が悪いとか、くだらないことにイライラすることも多いですし。でも、街は本当に美しいし、歴史あり文化あり、パリでしか体験できないようなスペシャルな場に居合わせることもあったり。

 人間わがままなので、いろんな街に住むとどうしても比較をしてしまいます。あそこはよかったけど、ここは、みたいな。もちろん東京もすごく好きだし、楽しいんだけれど、同時に消費文化や享楽的な部分が多すぎて、大事なものを見失っているのが残念でもあって。自然は少ないし、電車は混んでいるし、あれが毎日というのは本当にキツイですね(笑)。

Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015
「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトに、2007年スタートしたデザインイベント。2015年は「つながるデザイン」をテーマに、隈研吾氏ディレクションの「つみきのひろば」、小屋と新しい暮らしを提案する「MUJI HUT」、「森の学校 by 六本木未来会議」など、数多くの展示・イベントが行われた。

 六本木には、美術館のほかにも、アクシスがあったりギャラリー間があったり、デザインとアートについては、日本でも一番すぐれたものに触れられる場所。理想をいえば、文化と商業が渾然一体となって、街にあふれたらさらにいい。商業が文化を食い尽くすのではなくて、商業が文化をプロデュースするような街。「DESIGN TOUCH」をはじめとする秋のイベントなんかはいい例ですが、それが終わると、デザインもアートも、お店や美術館という「安全な箱」の中にしまわれてしまう。まだまだ商業の中に文化がある感じがして......。

デザインやアートを「箱」に入れず、もっとオープンに。

 そういう意味でパリは、地下鉄に音楽家を派遣したり、プロデュースすることでどんどん文化を生み出していますよね。六本木にも、大江戸線から地上に上がってくるところにもすばらしいアート作品が置いてありますが、危ないからといって、すぐ線を引いてしまうでしょう。あれもひとつの「箱」ですよね。

「建築家 フランク・ゲーリー展 "I Have an Idea"」も、ずいぶん戦いました(笑)。柵をつけられそうになるんですけど、そこは「展覧会のトーンをしっかりつくって、お客さんを信じましょう」と言って。ヨーロッパでは、小さい頃からアートの見方や触れ方を教育されていて、それを楽しむ文化がある。だから、いたずらしたり壊したりっていうことはなかなか起きません。

 六本木はコンテンツがたくさんあるからこそ、箱をつくりすぎてしまうというのもあるんでしょう。もっともっと日常の中でオープンにデザインやアートにさわれたり感じられるようになると、さらに人も集まるだろうし、世界にもなかなかない面白い街になると思います。

いつも来てくれないから「未来」であり、夢がある。

新国立競技場案「古墳スタジアム」
2020年、東京オリンピックのメインスタジアムでもある「新国立競技場」国際設計競技で、ザハ・ハディド氏などとともに、最終審査11点に残った田根氏(DGT)の作品。古墳をモチーフに、競技場の屋根部分すべてが木や芝生などで覆われている。

 これまで未来についてはあまり考えてこなかったんですけど、僕もコンペに参加した国立競技場の問題があってから、未来に対する意識はすごく強くなりました。未来っていうのは文字どおり、「未だ来ない」からこそ、未来に夢があり希望がある。いつも来てくれないからこそ、もうちょっと頑張ろうとか、まだできるんじゃないか、とか思うでしょう? 未来とは、大きな夢を目指し続けるためにある言葉であり、時間なんだろうって思うんです。

 だから未来は、絶対、来ないんですよ(笑)。今、東京では2020年を未来だと思っているかもしれないけど、そうじゃない。「2020年にだまされてたまるか」っていうくらいの気概がないと、終わった瞬間にころっと足元をすくわれてしまう。自分たちの世代も、気を引き締めて頑張らないといけないなと思いますね。

取材を終えて......
「過去と未来」そして「時間と空間」について語ってくれた田根さんに、毎週ブログでも紹介している「クリエイションのスイッチを押してくれる一冊」を聞いてみました。すると答えは、少女が時間泥棒から奪われた時間を取り戻す、ミヒャエル・エンデの『モモ』と、ここでもやっぱり時間がテーマ。あらためて、ブログでも紹介したいと思います。
(edit_kentaro inoue)

田根剛(たね・つよし)
1979年東京生まれ。建築家。2006年、ダン・ドレル(イタリア)、リナ・ゴットメ(レバノン)と共にDGT.(DORELL.GHOTMEH.TANE / ARCHITECTS)をパリに設立。現在「エストニア国立博物館」(2016年完成予定)をはじめ、フランス、スイス、レバノン、日本でプロジェクトが進行中。2012年に新国立競技場基本構想国際デザイン競技で「古墳スタジアム」がファイナリストに選ばれ国際的な注目を集めた。フランス文化庁新進建築家賞(2008)、ミラノ建築家協会賞受賞(2008)、ミラノ・デザイン・アワード2部門受賞(2014)など受賞多数。現在、コロンビア大学GSAPP、ESVMD(スイス)非常勤講師。