60 田根剛(建築家)

田根剛(建築家)

ゲーリー展のコンセプトを「I Have an Idea」にした理由。

 今回、「建築家 フランク・ゲーリー展 "I Have an Idea"」のディレクションをするにあたって、ロサンゼルスのゲーリー事務所を訪れました。話をしていると、急にゲーリーが「君たち、私のマニフェストは知っているか?」と言うんです。

フランク・ゲーリー展
2014年10月から2015年1月まで、パリのポンピドゥー・センターで開催。60年代から現代まで、ゲーリーの仕事を6つのセクションに分け、各時代を代表するプロジェクトを多数紹介。ゲーリー建築の進化を詳細に解説した。

フランク・ゲーリー/Frank Gehry パリ-フォンダシオン ルイ・ヴィトン 建築展
2014年10月、パリにオープンしたルイ・ヴィトン財団の現代美術館。ガラスパネルをランダムに組み合わせた斬新な建物は、どのようにつくられたのか。ゲーリー氏が手がけた一大プロジェクトを振り返る。2016年1月31日(日)まで、エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催。 ©LOUIS VUITTON / YASUHIRO TAKAGI

「まずアイデアが浮かぶ。ばかげているけど気にいる。模型をつくって嫌いになるまで見続けて、それから違う模型をつくることで、最初のばかげているアイデアを別の見方でみる。するとまた気に入る。でもその気持ちは続かない......」。これが展覧会の「ゲーリー・ルーム」にも貼り出したゲーリーの「マニフェスト」、それにコロッとやられてしまって。有名なのかと思ったら、実はスタッフも知らないというし、どこかのスピーチで何度か使われたものらしいんですね。

 「I Have an Idea」というコンセプトでいこう、と決めたのには、もうひとつ理由がありました。それは昨年の秋、パリで見た、ポンピドゥー・センターで行われたゲーリーの大回顧展、そして現在、表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京でも開催されている「フランク・ゲーリー / Frank Gehry パリ - フォンダシオン ルイ・ヴィトン 建築展」という2つの展覧会。前者はゲーリー建築が学術的にどういう意味を持つか、また後者は、フォンダシオンという美術館ができるまでのプロセスをすべて見せていくものでした。そのとき「ああ、この2つがあるなら、まったく新しい展覧会を思いっきりやればいいんだ」と思ったんです。

建築展ではなく「アイデアの展覧会」。

 しかも会場は、子どもから大人まで老若男女にデザインの価値を伝える、21_21 DESIGN SIGHT。そこでまず、偉大な建築家であり、想像力の天才であるフランク・ゲーリーを、あくまでひとりの人間として知ってもらおうと考えました。週末は海に行ってセーリングをして喜んでいたり、ホッケーが大好きだったり、シェイクスピアや川端康成、さらに古典芸術に傾倒していたり。そういう彼の好奇心や興味を公開して見せたい、と。

 また今回は、実際にゲーリーがつくった建築模型をたくさん展示していますが、図面や土地の条件といった情報はすべて取っ払っています。これは、建物をつくるうえで必要とされる機能や制約を排除したときに残るのは、模型やスケッチ、そして言葉といった、彼のアイデアだと思ったんです。建築展としてはかなり乱暴なもので、いろんな人から文句を言われるかもしれませんが、そこは「アイデアの展覧会なんです!」と割りきって。

 フランク・ゲーリーという建築家を紹介する一方で、ディレクターズ・メッセージには「『アイデアの時代』がはじまりました」と書きました。僕自身、今回あらためてゲーリーが手がけたビルバオ・グッゲンハイム美術館などを見にいって、建築って本当にすごいなと感動した。アイデアを生み出す力は、未来に対する強い思いがないと絶対に出てこない、本当にポジティブなもの。アイデアが時代を変える、世界を変える力を持っているということを、フランク・ゲーリーという人を通して伝えたかったんです。

舞台も展覧会も建築も、考え方はまったく同じ。

 僕は、舞台や展覧会の仕事もしているので、それらと建築の違いについて聞かれることがよくあります。でも、自分自身がものを考えて形にするという意味では、まったく同じ。建築家としてのキャリアの最初に舞台の仕事をやって学んだことは、時間と空間は絶対に分けられないということ。建築の仕事をしていると、どうしても空間のことばかり考えてしまいがちですが、僕は空間と時間は同じ比重だとは考えていません。

 舞台は1時間で終わってしまうし、展覧会は数ヵ月で終わってしまいます。一方で、建築は20年、50年、100年先まで残るもの。舞台は短い時間に1000人もの人が同じ場を共有する、かなり祝祭的なイベントです。でも、それが日常の建築にあったら邪魔くさくて仕方ない。以前やった展覧会では、2週間で7万人ものお客さんが来場してくれました。これがもし4人家族で7万回家を使うと考えたら、約50年という時間がかかる。つまり、時間をぎゅーっと引き伸ばしたものが建築であり、ぎゅっと圧縮したものが舞台であり展覧会である、そう考えるようになりました。

 いずれにしても、時間と空間、または場所と記憶を考えながら仕事をするという意味では同じ。展覧会の場合は、ギャラリーという場所に意味はなくても、置いてあるものには意味があるので、「ものと記憶」について考えます。僕は依頼された仕事を一生懸命形にするだけで、分野やカテゴリについてはあまり興味はないんです。

 ただ舞台の仕事をしてきたので、展覧会の仕事でもお客さん自身がパフォーマーになって、それを見ている人がまたお客さんになる、という相関関係は大事にしています。「あの人何を見てるんだろう?」と一緒になって眺めることで、また新しい見方を発見できるような。