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中村拓志(建築家)

「東急プラザ表参道原宿」や「Ribbon Chapel」などの作品で知られ、数々の受賞歴を持つ建築家の中村拓志さん。10月16日(金)から開催される「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015」のプログラム、「Salone in Roppongi by OFFICINE PANERAI」では、イタリアの高級時計ブランド、パネライの世界観を表現したインスタレーションも手がけています。インタビューのはじまりは、そのお話から。

update_2015.10.7 / photo_tsukao / text_kentaro inoue

建築とは、自己実現ではなくソリューション。

Salone in Roppongi

Salone in Roppongi
毎年4月にイタリア・ミラノで開催される世界最大規模の国際家具見本市「ミラノサローネ」。そこで活躍する日本人デザイナーや企業に焦点を当てるDESIGN TOUCHのプログラム。写真は、今回のインスタレーションの完成予想図(上)と、中村氏によるスケッチ(下)。

OFFICINE PANERAI
イタリア・フィレンツェの時計工房として1860年に創業。イタリアンデザイン、スイスの時計製造技術、海への情熱を融合した伝統的な時計づくりを続けている。中村氏が着けているのは、人気モデルの「RADIOMIR 1940 3DAYS AUTOMATIC TITANIO-45mm」(3ページ目メイン写真参照)。

 建築物や空間をつくるときに僕が一番大事にしているのは、やっぱり周辺環境。クライアントニーズはもちろん、商業空間であれば、そこに置かれる商品だったり提供されるサービスだったり。建築とはそういうものに対するソリューションであるべきだと考えているので、作家の自己実現として何かをつくるというスタンスはとっていないんです。

 たとえば、今回のインスタレーションなら、光や音が遮蔽できない吹き抜けの空間に、どうやって海の中の世界を再現するか。パネライというブランドの歴史は、イタリア海軍のために深海でも機能する時計をつくる、というところからスタートしています。そこで、潜水時の景色や音を追体験することで、その歴史や魅力を感じてもらえないだろうか、と考えました。

 会場には、海中で作業をするときに使われる「潜水球」を模した球体の装置が5つ置かれ、ボールの内側に投影された光が海の中の光景を、そして振動スピーカーが潜水音を再現しています。潜水球が着水すると、最初は淡いマリンブルーの世界、そこからだんだん色が変わっていって、最後は真っ暗な深海の世界へ。

 ちょうど、自分の網膜に青いペンキを塗りたくって、それを見ているような感覚。ただ光だけが変わっていって、奥行きがなくなって見えたり、逆にものすごく深い奥行きにも見えたり。まるで、映画「グラン・ブルー」の世界のような、心細くもあり、でもどこか懐かしい気持ちにもなれる。東京のどまん中で深い海に潜る、そういう体験ができるインスタレーションです。

ブランドヒストリー×無限空間への憧れ。

 パネライの時計は、文字盤と夜光塗料の塗られたプレートが二枚重ねになっていて、切り抜かれた数字が輝く機構になっています。水深が深くなると徐々にまわりは暗くなっていくので、ダイバーにとっては、相対的にこの文字盤がどんどん輝いて見えると思うんです。もちろん時計ですから、陸の上で刻んでいたリズムを同じように刻み続ける。外の世界の名残を伝える安心感や信頼感は、海に潜ったときでないと感じられない強い体験でしょう。

 建築家はふだん、壁があって天井がある"有限空間"を設計しています。そうすると、無限の空間に対する憧れが日に日に増してくるんですね。このインスタレーションは、パネライのブランドヒストリーと、無限空間への憧れという自分の興味、その接点を探しながらつくっていきました。

環境保護と資本主義、相反するものをどう調整していくか。

 僕はこれまで、木と建築の関係を大事にして設計を続けてきました。今までの建築のつくり方って、斜面を全部フラットにして、大きな石や木を取り除いて更地にしてから建てる。いわば、その場所の歴史や時間を全部ゼロにして新たに建てるっていうケースが多かったんですね。

 でも僕の場合は、自然の中にある木をとにかくよく観察して、三次元測量もして、たとえば台風のときにはどういうふうに揺れ動くかまでシミュレーションしたうえで、木に寄り添うように建物を建てていく。木を残しながらも最大容積を目指す、環境保護と資本主義という相反するものをどう調整していくかに挑戦しています。