58 須藤玲子(テキスタイルデザイナー)

須藤玲子(テキスタイルデザイナー)

日本の風土にあった素材、日本人の肌に一番近い素材ってなんだろう。

 私が今、一番興味を持っているのは、日本の縞模様について。大好きなプロダクトデザイナーの竹原あき子さんが書いた『縞のミステリー』(光人社)などの文献を読むと、縞模様は江戸時代に木綿と一緒に入ってきたそう。欧米の縞模様は、囚人服のように、どちらかというとネガティブなイメージがありますが、日本は少し違います。「縞帳」なんてものがあるくらい、膨大に縞模様がある国なんて他にありません。

『縞のミステリー』(光人社)

『縞のミステリー』(光人社)
縞というもっとも単純な模様の正体をめぐって、日本、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、イスラム諸国を旅し、産業、デザイン、歴史に触れたエッセイ。著者は、キヤノンカメラなどで工業デザイナーを務めた竹原あき子氏。

 また、縞という模様が、日本の古代の布、本来の布を考えるきっかけにもなりました。貴族が身につけていたような高価な布には研究家がいっぱいいますが、「ボロ」のような、生活に寄り添っていた大衆の布の歴史は、あまりにも身近すぎてなかなか見えてこない。もともと日本は、麻とシルクの国。なんだか渋いでしょう? 最近では、日本の風土に一番あった素材、日本人の肌に一番近い素材はなんだろう、なんていうことを考えるようにもなって。

 ちょうど2011年の東日本大震災をきっかけに、日本の産地を歩こうと思ったのも理由のひとつ。私がテキスタイルのデザインアドバイザーを務めている無印良品でも、日本の布をテーマにした「Found MUJI」の活動や、岩手県大槌町の女性が刺繍する刺し子のデザインをしたりと、日本のものづくりに深く関わるようになりました。私自身、そんなことをするなんて、考えてもみませんでした。でも、今までだったら出会えなかったような、工業製品ではない織物を織っている人たちや、着物の産地を訪ねる機会が増えたことを、とてもうれしく思っています。

未来にどうしようもないゴミを残さないために。

大槌町の刺し子
東日本大震災からの復興、また現地のブランドづくりを目指す「大槌復興刺し子プロジェクト」に共感した、無印良品が商品を企画。岩手県大槌町の女性たちが一針一針刺繍した、大槌刺し子ストラップを販売中。http://www.muji.net/foundmuji/2014/12/174.html

 もう少し大きな話をすると、2003年に、私も関わった帝人の「エコサークル」というシステムプラントが立ち上がって、原油由来の化学繊維は、すべて再生可能になりました。すばらしいんですよ、このシステム。たとえばポリエステル100%、ナイロン100%であれば、あらゆるものが完璧にリサイクルできるんですから。

 私も80年代、90年代には「ハイブリッドテキスタイル」と呼ばれる、化学繊維と天然繊維をミックスさせた新しい布をずいぶんたくさんつくりました。今までにない見え方をするので、「これはハイテクだ、日本でしかできない」と言われて、世界中の美術館にコレクションされたんです。

 でも今、私自身は、原油由来の化学繊維と天然素材は分けて考えたいと思っています。そうやってものづくりをしていかないと、10年後20年後30年後の未来に、どうしようないゴミを残すことになってしまうんじゃないか。それは本当にやってはいけないことなんじゃないか、って思って。

化学繊維と天然繊維は分けて考える、テキスタイルの理想の未来。

 だから、2003年以降は「懺悔の時代」と言っていて、本当に懺悔しっぱなし(笑)。たとえば、ポリエステルと紙をミックスしたテキスタイルは、紙の部分をポリエステルにして、100%ポリエステルの布につくり変えたり。今、デザインアドバイスをしているいくつかの企業とも、布のライフスタイルを考える取り組みを続けています。

 もちろん全部が全部、完璧に理想の姿には至っていないけれど、いつかは実現できるような気がしているんです。今はまだ無理だけど、5年先、10年先には新しい技術も開発されるかもしれない。六本木の街がここ15年で大きく様変わりしたように、きっとテキスタイルの世界だって変わっていくはず。私が勝手にやっているだけで、まだまだ小さい動きですが、そういう流れがだんだんだんだん膨らんでいって、少しずつ広がっていったらいいなと思っています。

取材を終えて......
「すてきだよ〜」「おいしいよ〜」と言いながら、次々とおすすめのお店を紹介してくれた須藤さん。本文に登場した数は、おそらく過去のインタビューでも最多。それ以外にも、おそばの「HONMURA AN」、俳優座のパブ「HUB六本木店」、中華の「北海園」、さらに会社の"残業食"としてよく食べる「正直家」のやきとり重に、藍の風呂敷に包まれた木の出前ケースがかっこいい、うなぎの「野田岩」など。今後ブログなどでも、ぜひ紹介させていただきます!(edit_kentaro inoue)

須藤玲子(すどう・れいこ)
茨城生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科デキスタイル研究室助手を経て、株式会社「布」の設立に参加。現在取締役デザインディレクター。東京造形大学教授。英国UCA芸術大学より名誉修士号授与。毎日デザイン賞、ロスコー賞,JID部門賞等受賞。日本の伝統的な染織技術から現代の先端技術までを駆使し、新しいテキスタイルづくりを行う。作品は内外で高い評価を得ており、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ビクトリア&アルバート美術館、東京国立近代美術館工芸館など、22の美術館に永久保存されている。代表作にマンダリンオリエンタル東京、東京アメリカンクラブ、TORAYA TOKYOのテキスタイルデザインなどがある。2008年より株式会社 良品計画のファブリック企画開発、山形県、鶴岡織物工業協同組合、2009年より株式会社アズのテキスタイルデザインなど。企業や染織産地のテキスタイル開発にデザインアドバイスを行っている。また、イギリスでの「2121 the textile vision of Reiko Sudo and NUNO」展をはじめとして、内外で数多くの展覧会を行っている。