58 須藤玲子(テキスタイルデザイナー)

須藤玲子(テキスタイルデザイナー)

織物の産地には、いつも機音が響いている。

 今回、「六本木をテキスタイルの街にするには?」とたずねられて、正直「え、六本木をテキスタイルの街にしちゃうの!?」って驚いたんです。だって、テキスタイルの街にするなら、やっぱり機音がほしいじゃない? 京都にしても桐生にしても今治にしてもそうだけど、日本の織物の生産地を訪ねると、やっぱり街には機音がある。伝統工芸的な手織りの織物をつくっているところもそうだし、工場で大量生産をしているところもそう。基本的には、街に機音が響いているんです。

 活気のある産地になると工場は24時間営業、真夜中に薄く明かりがついた工場から、糸を紡ぐ「シー、シー」という音が聞こえます。地方都市で、街灯もぽつりぽつりとしかない中で、機械だけが静かに動き続けている。虫の音に季節を感じるように、テキスタイルをやっている人間にとっては、それが落ち着くというか、「来たな」という感じがすごくあるんです。

 逆に、産地に行って機音がしないと、「いったい何が起きたの!?」ってすごく不安になる。機が止まるイコール廃業みたいな、なんだか命が止まるような気がして。機械も生き物なので、1日2日はいいけれど、1週間か10日も止めると、布が織れなくなってしまいます。やっぱり生きている、動かしていることが重要。工場を動かすためには市場だって必要だし、流通やお店だって必要、まさに日本人が日本の生地をつくっていくというか。これは何の世界だって同じですよね。

テキスタイルの街は無理、でもメッカにはなれる。

ホットマン

ホットマン
創業は明治元年、50年以上にわたって東京・青梅でタオル製造を行う純日本製タオルブランド。細い糸を密度濃く織り上げ、秩父山系の伏流水を使って染色された、上質なタオルで知られる。1972年、六本木に直営1号店をオープン。

「Japan! Culture + Hyperculture」展

「Japan! Culture + Hyperculture」展
2008年2月、アメリカのジョン・F・ケネディ舞台芸術センターで開催された、日本の文化・芸術を紹介する展覧会。写真は、"コイ カレント" インスタレーションの様子。その後、2014年5~8月にはパリのギメ東洋美術館でも、新たなテキスタイル20点ほどを加えて、同様のインスタレーションが行われた。

 ちょっと話が脱線してしまったけれど、六本木が未来、テキスタイルの産地になることは絶対に考えられないでしょう。だけど、「テキスタイルのメッカ」になら、なれるかもしれませんよね。たとえば冒頭で紹介したホットマンなんかは、その核になるお店。また、これは、六本木をメッカにするためのアイデアのひとつでもあるんですが、街じゅうに「こいのぼり」をあげるというのはどうでしょう?

 2008年、私たちは、アメリカのワシントンD.C.にあるジョン・F・ケネディ舞台芸術センターで開催された「Japan! Culture + Hyperculture」展という、日本を紹介する文化芸術イベントに招かれました。大きなギャラリーが3つあって、安藤忠雄さんと草間彌生さん、そして私たち「NUNO」が、会期中通して展示をすることになったんです。

 そのとき「日本のテキスタイルを見せてほしい」と頼まれて、つくったのがこいのぼり。せっかくなら、テキスタイルを通して日本の生活とか風習を伝えられないかと思って、直径1メートル、長さ3メートル、いろいろなテキスタイルを使ってつくった巨大なこいのぼりを60本くらい展示しました。こいのぼりといっても、いわゆる古典的なものじゃなくて、布を筒状にして口と尾っぽを小さくしただけの、すごく抽象化したもの。お客さんの反応はというと、みんな大喜び、というか大笑い。「なんで魚なの?」「なんでカープなの?」って(笑)。

たくさんのこいのぼりが風に揺れる風景を、六本木に。

 六本木でも、5月になったら、街のみんなが参加して、こいのぼりをあげましょう。ルールは、それぞれのお店にある布や、その場所を象徴するようなものを使って、必ずこいのぼりを1匹つくること。織っても染めても絵を描いてもいいし、カーテンをそのまま使ったっていい。小さいのから大きいのまでいろんなサイズのものがあっていいし、真っ黒でも真っ白でも、とにかく難しく考えなくてOK。六本木には外国人も多いし、すごく面白いと思うの。

 街じゅうにこいのぼりが泳いでいて、お菓子屋さんはこいのぼりのお菓子をつくったり、子どもたちが参加できるような、こいのぼりのワークショップをあちこちでやったり。東京ミッドタウンなんて、ちょうど吹き抜けがあって風が抜けるから、すごく気持ちいいはず。

 花火って、見た人全員を幸せにしてくれるでしょう? 丸の内でやっていた「東京ミレナリオ」のようなライトアップももちろんドキドキする。でも、たくさんのこいのぼりが風に揺られている風景も、けっこううれしいよね。