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永井一史(アートディレクター)

クリエイターが楽しめて、働けて、住める街に。

 今はまだ、事務所を構えるとなったら、六本木より青山や神宮前を選ぶデザイナーのほうが多いですよね。それは、街のイメージがいいということもありますが、働くのに都合のいい環境やインフラが整っているというのが大きい。居心地のいいカフェがあるというのもひとつだし、人が人を呼ぶじゃないけれど、刺激を受けられるような同じ仕事をしている人たちがまわりにいる、というのもそうでしょう。

東京ミッドタウン・デザインハブ

東京ミッドタウン・デザインハブ
2007年4月に開設したデザインネットワーク の拠点。本文中の2機関ほか「武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ」「インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター」で構成。デザインのプロモーション・職能・研究教育という異なる役割を担う機関が連携し、展覧会やセミナーの開催、出版などの情報発信を行っている。

 最近、東京都が海外の企業を誘致する「アジアヘッドクォーター特区」を推進していますが、同じように「デザイン特区」をつくるといった、行政的な取り組みがあってもいいのかもしれません。六本木という場所をよりクリエイティブな街にしていくんだ、という対外的な発信をきちんとしていく。たとえば、デザイナー限定のシェアオフィスを建てたり、クリエイターが楽しめて、働けて、住める街をつくることで、結果としてクリエイティブな人や産業が集まっていくイメージです。

 今回取材を受けている、ここミッドタウン・タワー5階の「デザインハブ」には、グッドデザイン賞の運営をしている「日本デザイン振興会(JDP)」や、「日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)」ほか、デザイン系の組織が集積しています。それによって、やっぱり自然と人や情報も集まるようになった、まさにそのいい例ですね。

「THINK ZONE」のような、広場的な中間領域をつくる。

 もともと僕は赤坂生まれなので、六本木は心理的にもとても近い街。みなさん六本木というと、夜とか歓楽街のイメージを持っているかもしれませんが、僕はあまりお酒を飲まないこともあって、六本木=文化発信エリアというイメージが強いんです。高校大学時代にも、青山ブックセンターに行ったり、リビング・モティーフに行ったり。今はなくなってしまいましたが、WAVEでCDを探して、その下のシネ・ヴィヴァンで映画を観て。当時、あんなに研ぎ澄まされた場所はありませんでした。

ROPPONGI THINK ZONE

ROPPONGI THINK ZONE
2001年、六本木ヒルズ開発のプレ・プロジェクトとして、六本木通り沿いにオープンしたアートスペース(現在は閉館)。インテリアデザインは吉岡徳仁氏、アートディレクションはブ ルース・マウ氏が手がけ、映像や音響を交えた最先端のイベントが数多く行われた。photo:Jun Kumagai

 他に、印象的だったのが、六本木ヒルズができる少し前にあった「ROPPONGI THINK ZONE」。仕事帰りお茶を飲んだり、売っている本を眺めたり。何か具体的なアートワークがあるわけではないけれど、あの空間に寄るだけですごく刺激を受けたし、六本木の未来を感じさせてくれた。WAVEやTHINK ZONEがなくなって、六本木ヒルズや東京ミッドタウンができた。たしかに、今のデザインとアートの街につながる原型があったのかな、という気もします。

 そういう意味では、すごく機能を持った空間というよりは、むしろ無意味な空間。ある種、広場的な中間領域があったら、六本木っぽいかもしれません。それこそ、デザイナーが自由にプレゼンテーションしたり、ワークショップを開いたり、イベントをしたりできるような。そこからきっと自然発生的に、何か面白いことも生まれるでしょう。

100年後には、世界を代表するグッドデザインな街になる!?

 先ほどから、東京で好きな街ってどこだろうって考えていて、ふと思いついたのはお茶の水。お茶の水って、大学があって、古書店街があって、それに紐づくようにリーズナブルな定食屋とか、古いカフェがある。歴史の集積がある街ですよね。同じ匂いがするのは、2年間だけ住んだことのある国立。やっぱり大学があって、古本屋があって、ムダにいいカフェがある(笑)。どちらも街全体に、醸し出す雰囲気が感じられるというか。

 そういう雰囲気は、残念ながら六本木からは感じられなくて、まだやっぱり点にすぎない。もちろん、歴史が生み出したものですから、一朝一夕にできるものではないでしょう。でも、その点と点の間を地道に埋めていけば、もしかすると100年後くらいには、世界を代表するグッドデザインな街ができあがるのかもしれません。

取材を終えて......
「デザイナーには、肩書きにも"流派"があるんです」と、永井さん。原研哉さんや佐藤卓さんのように、「グラフィックデザイナー」という肩書きで活動する人がいる一方で、永井さんは広告会社出身ということもあって「アートディレクター」という肩書きにこだわっているのだそう。いろいろなクリエイターのプロフィールを比べてみるのも、面白いかもしれません。(edit_kentaro inoue)

永井一史(ながい・かずふみ)
(株)HAKUHODO DESIGN代表取締役社長 1985年多摩美術大学美術学部卒業後、博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングの会社HAKUHODO DESIGNを設立。様々な企業・商品のブランディングやVIデザイン、コミュニケーションデザイン、プロジェクトデザインを手掛けている。2007年、社会的課題の解決に取り組む「+designプロジェクト」を主宰するなど、ソーシャル領域での活動も多い。2008年、雑誌『広告』編集長(~2012年1月)。2015年度グッドデザイン賞審査委員長。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞グランプリ、毎日デザイン賞など国内外受賞歴多数。多摩美術大学美術学部統合デザイン学科教授。