57 永井一史(アートディレクター)

永井一史(アートディレクター)

デザイナーのパブリックイメージと、実体との間には乖離がある。

『◯◯化するデザイン』(誠文堂新光社)

『◯◯化するデザイン』(誠文堂新光社)
表現の場を拡大する現代のグラフィックデザインの世界において、各デザイナーはどのような思考プロセスを踏んでいるのか。原研哉氏、佐藤可士和氏、佐藤卓氏など、実際のプロジェクトを取り上げつつ掘り下げていく。JAGDA会報誌だが一般販売も(税込1,080円)。

 日本は今、成長モデルから成熟モデルへ、社会構造や産業構造が大きく変化しています。これからの暮らしや社会のあり方がどういうものなのかを模索していくにあたって、デザインという考え方は欠かせません。一方で、産業構造の変化ということでいうと、IoT(Intenet of Things=モノのインターネット)とかロボティクスとか、新しい分野もどんどん生まれてくる。かつてのデザインの役割がそうであったように、新しい技術にどういう形を与えるかというのは、それはそれで重要。つまり、社会と産業の両面で、デザインが担っていく役割があると感じています。

 先日、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)で、『◯◯化するデザイン』(誠文堂新光社)という本を発行しました。「グラフィックデザイン」といえば、一般的にはポスターが花形で、そういうものをつくる人たちが「グラフィックデザイナー」という印象ですが、実態としてはどんどん変わっています。亀倉雄策さんに代表される、一般的なグラフィックデザイナー像と、我々が今やっている仕事との間には、けっこう乖離がある。それを埋められないかな、という思いでつくった一冊です。

「なんとなくいい形態がグッドデザイン」ではない。

 本の構成は、大きく「川上化するデザイン」「社会化するデザイン」「流動化するデザイン」の3つ。それぞれ簡単に説明すると、「川上化」というのは、デザインがただ形を決めることから、もっと上流工程の考え方とかコンセプトといった領域に入っていったこと。「社会化」は、教育や地域、あるいはコミュニティのデザインなど、今までデザインが活かされていなかった場所にこそ、これからのデザインの役割があるんじゃないかということ。そして「流動化」は、グラフィックデザイナーの仕事が、ウェブやファッション、空間など他のジャンルに広がっているということ。

 いずれにせよ、みんなが思っている「ザ・デザイン」みたいなところから、どんどん裾野は広がって、デザイン自身がそのフィールドを開拓していくっていうのが、これからの流れです。「なんとなくいい形態がグッドデザイン」ではなくて、「六本木のこのコミュニティってグッドデザインだよね」という方向に、意味が変わってきていると思います。

六本木の問題は「中間を埋めるものがない」こと。

 さて、「六本木をグッドデザインな街にしていくには」ということですが、僕は六本木に対して、ずっとある問題意識を持っています。それは「中間を埋めるものがない」ということ。

 六本木ヒルズがあって、東京ミッドタウンがあって、国立新美術館があって、デザイン関連ということでいうとAXISもあるし、青山ブックセンターもある......。それぞれ少しずつ距離が離れているってこともあるけれど、僕自身の行動を考えても、AXISに行ったらAXISだけ、東京ミッドタウンに行ったらミッドタウンだけで、そのまま帰るケースが多い。せっかくデザインを発信していくポテンシャルはあるのに、それがつながっていないのは大きな問題、逆にいえば、その間が埋められると、エリアとしてもっと魅力的になれると思います。

 中間を埋めて、街全体をグッドデザインであふれさせるには、たとえばステキなお店をつくるとか、いろいろなやり方があるはず。でも一番重要なのは、デザイナーをはじめとするクリエイティブな人たちやクリエイティブな産業を、どれだけ集積させられるかということでしょう。