50 齋藤精一(クリエイティブディレクター)

齋藤精一(クリエイティブディレクター)

メディアアートは「ガリバートンネル」のようなもの。

FULL CONTROL TOKYO

FULL CONTROL TOKYO
au 4G LTEのプロモーションとして、2013年1月に増上寺で行われた参加型イベント。本殿壁面をプロジェクションマッピングしたり、東京タワーの色を変えるなど、専用アプリを使ってライブ演出に参加できる。インターネットで生中継されたほか、CMとしてもオンエア。

 アートナイトでの、僕の役職は「メディアアートディレクター」。メディアアートのいいところって、スマホとかタブレットとか、身の回りにあるネットワーク化されたツールを媒介にして、すぐにつながれること。ただ面白いからスマホをいじっているだけなのに、俯瞰してみると巻き込み型のアート作品になっている、というように。

 auの「FULL CONTROL TOKYO」というプロジェクトで、増上寺と東京タワーをバックにきゃりーぱみゅぱみゅのライブをしましたが、まさにそれをイメージしました。仕掛け自体が単純に面白いし、どんなCMを観るより深く強く記憶される。そういう経験は、現代美術ではなかなかありません。現代美術って、人の生活とちょっと遠い存在じゃないですか? 彼女と美術館に行ってアート作品を観る。もちろんそれはすばらしい経験でしょうが、やっぱりまだ現実の自分との間には乖離がある。最近メディアアートが取り沙汰されるのは、よくも悪くもデザインとかアートとか広告の領域を横断してしまっているからでしょう。

 ちなみに、去年のアートナイトのテーマは「動け、カラダ!」でしたが、いきなり動いたり踊ったりするのは一般の人にとっては少しハードルが高かったかもしれません。踊り方もわからないし、ちょっと恥ずかしいし。よく僕はメディアアートを、ドラえもんに出てくる「ガリバートンネル」にたとえています。最初入るときは小さいけれど、出てくるときには大きくなっている。テクノロジーを使ったアート表現ならば、みんなが参加したり、巻き込まれたりする敷居を少し下げてあげやすい。デジタルを使ってつながったり、参加する感をもっと強く打ち出していけたらいいですね。

「NHKのど自慢」の中には、ハッピーしかない。

「仙台市地下鉄東西線 WE」プロジェクト

「仙台市地下鉄東西線 WE」プロジェクト
地下鉄から仙台をよくしていくための、市民参加プロジェクト。これからの仙台をつくる人をつくる「WE SCHOOL」、プロジェクトを具体的に生み出し実践していく「WE STUDIO」、13駅に設置されるデジタルサイネージ「WE TUBE」の3つから構成される。

 僕はもともと建築出身なので、ふだんから街発信で企画を考えることに興味があります。同じくauのプロジェクトで、渋谷のスクランブル交差点をディスコにする企画のように、「実は街ってもっと面白いんだ」ということを、外的な力を使ってつくることにもすごく魅力を感じていて。最近では、古田秘馬さんたちと一緒に、仙台で「地下鉄東西線WE」プロジェクトという街づくり的なこともはじめました。

 僕がかつてアートの世界にいたときに感じていたのは、アーティストなんて、半径2メートルくらいの人しか幸せにできないし、幸せにしようとは思わないということ。でも、だんだんそのエリアを広げていきたいじゃないですか。その場にいるみんなが幸せな状態、みんなが感動しているエモーショナルな状態ってあると思うんです。たとえばお祭りはそのひとつだし、日曜のお昼にやっている「NHKのど自慢」なんかもそう。あの中には、とにかくハッピーしかない。司会の人がサラッと「去年、お父さんが他界されたそうで?」と聞くと、参加者は笑顔で「ハイ!」。会場を見ると遺影を持って応援している家族もいるけれど、みんなが幸せ。この飲み込み方はすごいな、と。

 年をとったからかもしれませんが、ねぶた祭に行ったり、のど自慢を観たりすると、なぜか泣けてきちゃうんですよね(笑)。それはきっと、その場にいるみんなが見ている幸せの強度と方向、ベクトルの長さと向きが同じになっているからだと思うんです。

オリンピックを「人ごと」から「自分ごと」に変えるために。

2020年東京オリンピック・パラリンピック

2020年東京オリンピック・パラリンピック
移動の負荷が少ない「コンパクトな五輪」をアピールし、2013年9月、ブエノスアイレスで開かれたIOC総会で開催が決定。オリンピックは2020年7月24日(金)~8月9日(日)、パラリンピックは2020年8月25日(火)~9月6日(日)に開催される。

 そういうふうにならないと、オリンピックも「人ごと」で終わってしまうし、「自分ごと」にできないとその輪の中にも入れない。結局、経済効果的にも残念なことになってしまう。自分ごとにするというと大げさですが、なんだっていいと思うんです。外国人観光客がたくさん来るだろうから英会話をはじめようとか、英語に翻訳したメニューでもつくってみようかとか、ウチの前に聖火が通るから装飾しようとか、看板を塗り替えようとか、パレードの横でフランクフルトを売ってみようかとか......。

 ロンドン五輪の直前、僕はちょうど現地でインスタレーションをしていたんですが、聞いた限りでは、それほどみんながお祭り的に盛り上がっているわけでもなさそうでした。東京オリンピックでは、競技会場の大部分が選手村から半径8キロ圏内に集中させるそうなので、少なくともその中では、みんながある程度、同じ強度と熱さを保っていたい。まあ、僕がオリンピックで何かをやるわけではないんですけど(笑)、いつ始まっていつ終わるかも知りません、みたいなのはやっぱりダメじゃないかなって。