49 平林奈緒美(アートディレクター)

平林奈緒美(アートディレクター)

六本木=ブラブラと歩きたくならない街。

天鳳

天鳳
1985年から営業を続ける、六本木を代表するラーメン店。本店は札幌のラーメン横丁にあり、かつてスープづくりに使っていたというドラム缶が目印。平林氏おすすめは、店の名物メニューでもある、醤油ラーメンの「1・3・5(麺硬く、油こく、しょっぱく)」。

祥瑞

祥瑞
東京ミッドタウン前から、外苑東通りを入ってすぐのところにある人気のビストロ。十勝池田牛のステーキをはじめ、ボリューミーな肉料理が楽しめる。「ワインはもちろん、牛だけじゃなくて豚肉もおいしいんです」(平林氏)。

 そもそも私、ふだん本当に外に出ない人なんです。六本木に限らず、自宅と事務所以外、どこにも行かない(笑)。事務所は南青山なので、この街にも歩いてこられるのに、行くのはお気に入りの2ヵ所くらい。ひとつは東京ミッドタウンの目の前にある、ラーメン屋「天鳳」。昔からずっと好きで、今でも好きなラーメン屋を1軒あげろと言われればここを選びます。そしてもうひとつが、天鳳の裏にあるビストロ「祥瑞」。

 他に六本木の思い出といえば、子どもの頃、ロアビルの中に母親が好きな雑貨屋さんがあって、よく連れてきてもらったこと。まだ輸入雑貨なんて売っているお店がなかった時代に、木でできたバッグとかハイカラなものが揃っていて。あとは伝説のバー「ジョージズ」にもよく連れて行ってもらっていたし、名前は忘れてしまいましたが行きつけのイタリアンのお店もありました。ただ、私の通っていたお店って、どういうわけかなくなってしまうんです(笑)。

 お店以外でいえば、飯倉片町の「インターナショナルクリニック」前の雰囲気が好き。交差点から眺めると車が通っていて、いつも警備の警官が立っていて、一軒家の病院があって。あとは「国際文化会館」がある鳥居坂とか、建て直される前の「東京アメリカンクラブ」とか。クラブと外国人みたいな、いわゆる六本木的なイメージじゃなくて、なんとなくほのかに漂うインターナショナル感というか。

 そういう好きな景色はポツポツ残っていますが、今の六本木って、六本木ヒルズと東京ミッドタウンという大きな商業施設だけがドン、ドンってある、そんな印象の街。車で目的のところには行くけれど、あんまり街をブラブラ歩きたくなる感じがしませんよね。

大きいことではなく、まずは小さなことからはじめる。

 みんながブラブラ散歩したくなる街にするにはどうしたらいいか、ですか? 先ほど、デザインだけで何とかしようとしてもダメ、という話をしましたが、きっと街だってそう。たとえば、もっと歩きやすくなるように、道端のサインを全部直すというのは簡単です。でも、いくらサインをわかりやすいデザインにしたって、もともと歩きにくい場所だったら意味がない。

 いきなり大きいところから変えるのは難しいので、何かやるとしたら、まず小さなことからはじめるのがいいでしょうね。パッと思いつくところでは、港区のコミュニティバス「ちぃばす」。せっかく便利なのに、車の色がすごい地味だから、もっと街のアイコンになりうるようなデザインにできたらいいなあ。そもそも名前も、「ちぃばす」じゃなくて「バス」でいいんじゃないの? とか。

この街のデザインには"圧力"がある?

ちゃんと使えるデザイン

ちゃんと使えるデザイン
文房具からおもちゃ、下着にワインまで。デザインが美しいだけではなく、実際に使って心地よいと思えるもの、面白いと思えるものをコンセプトに、東京ミッドタウンのフロアから、平林氏が約30アイテムをセレクトした。

 Tokyo Midtown DESIGN TOUCH2011で、東京ミッドタウンのお店から商品をセレクトする「ちゃんと使えるデザイン」という企画をやらせてもらいました。六本木って、デザインやアートの街といわれていますが、そのデザインって、私の思っているデザインとは少し違うんです。「六本木のデザイン」には、たとえば「デザイン家電」のように、明らかにデザインされてないといけないみたいな圧力がある。なんとなくわかりますか?

 この企画では、そうじゃなくて、私なりの視点でモノを選ばせてもらいました。デザインされているし、デザイナーが関わっているけど、表現が全面に出てきていなくて、心地のいいもの。タイトルにつけたとおり「ちゃんと使えるデザイン」、あるいは「当たり前になりえるもの」といってもいいかもしれないです。

 ふだん六本木に買い物に来ることなんてないのに、選びはじめたらけっこう楽しくて。そのときは東京ミッドタウン限定でしたけど、アクシスとか六本木ヒルズとか、他の場所も含めてできたら面白い。松屋銀座の上に「デザインコレクション」というセレクトショップがありますが、あれの六本木版。この街の中からセレクトしたモノが1ヵ所に集まって、買えるような場所や仕組みがあったらいいですよね。

取材を終えて......
たしかに、デザインデザインしてないけれど、なんかいいな、と感じるモノってありますよね。きちんとデザインされていることを気づかせない、というか。平林さんが世界中からセレクトした道具店、ぜひつくっていただきたいです。(edit_kentaro inoue)

※2016年4月8日 加筆・修正しました。

平林奈緒美(ひらばやし・なおみ)
東京生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業後、(株)資生堂宣伝部入社。ロンドンのデザインスタジオ「MadeThought」に1年間出向後、2005年よりフリーランスのアートディレクター、グラフィックデザイナー。主な仕事に、(marunouchi) HOUSE、la kagu、UNITED ARROWS等のアートディレクション、HOPE、NTT DOCOMOパッケージデザイン、矢野顕子・宇多田ヒカル・DREAMS COME TRUE等のCDジャケットデザイン、雑誌『GINZA』のアートディレクションなど。JAGDA新人賞・ADC賞・NY ADC GOLD・British D&AD silver など受賞多数。