49 平林奈緒美(アートディレクター)

平林奈緒美(アートディレクター)

見た目だけじゃなく、システムまできちんとしているのがヨーロッパ。

 見た目がかっこいいだけじゃなくて、システムとしてきちんとデザインされているのもヨーロッパのすごいところ。たとえば、ドイツの郵便局のグッズって、黄色くてすごくデザインがいいのですが、プラスチックの箱が街全体でリユースされているんです。箱を持って帰って、郵便局にモノを持っていくのに使って、使い終わったらまた返す。あまりに欲しくて「どうやったら買えるの?」って聞いたら、「買うもなにも、どこにでもありますよ」って。そうやって、ぐるぐる使い回すことで、ゴミも減っていたり。

e モビリティ・ベルリン
2008年にドイツでスタートした、ダイムラーとエネルギー会社RWEによる共同事業。ダイムラーはメルセデス・ベンツやスマートなど電気自動車100台以上を提供し、RWEは約500ヵ所の充電スタンドの設置と管理を行う。

 この間、撮影でベルリンに行ったときに感心したのは、街なかに誰でも使えて、自由に乗り捨てられる電気自動車があったこと。iPhoneアプリもあって、空いている車がどこにあるか教えてくれるし、どのくらい充電されているかもわかる。これは、「e モビリティ・ベルリン」というプロジェクト。日本と同じように自動車はドイツの重要な産業ですが、今、若者が車を買わなくなっている。そこで、政府が協力してこうしたシステムをつくったんです。

 もし、日本でこういうことをやろうとしたら、意見を調整するだけで、何十年もかかりそう(笑)。しかも、箱とか車に、よくわからないイラストやロゴが入ってしまうかと思うと......。

パブリックの分野には、アートディレクションが介在していない。

 私はいつも、国連とか銀行、それからエアラインといった、パブリックな場所やものをデザインする仕事をしたいと言っています。たとえば、ルフトハンザ航空なんて、すごくデザインがきれいじゃないですか。でも、日本の場合、どうしてもポケモンジェットみたいなことになってしまう。

 駅とか、空港とか、日本のパブリックなデザインは本当にひどくて、ため息が出てしまうほど。サインひとつをとっても、もし私に頼んでくれたら、字詰めくらいはきちんとするのに、と......(笑)。そもそも、パブリックの分野には、アートディレクションというものが介在していないに近いんですね。かといって有名デザイナーに依頼すればいいかというと、むしろ上っ面だけシンプルでかっこよくなって終わっちゃう、という危険もあるような気がして。それが、すごく難しいところではあるんですが。

いくらいいデザインをしても、ベースがなければ意味がない。

 実は、デザイナーがデザインをしている時間というのは、本当に最後の最後。そもそも、それ以前に"ベース"が整っていなければ、やっても意味がないと思っています。たとえば展覧会の仕事だったら、展覧会自体が面白くなかったら、ポスターがいくらステキだってダメでしょう? もちろん私は展覧会の企画自体に口は出せないんですけど、見せ方だったり広報の仕方については、頼まれていなくても首を突っ込んじゃいますね。

 他にも、洋服のブランドの仕事をしていたら、「このくらいの売上をあげたいなら、これじゃ商品が少なすぎる」なんて言ってしまうことも。ステキなカタログをつくる前に、どうしたらお客さんは服を買ってくれるのか、みたいなところから考えはじめてしまいます。

 つまらない話になりますけど、結局何のためにやっているかといえば、数字じゃないですか。当然、人を呼びたいとか、売りたいがためにつくっているわけでしょう。いくら外側だけいい感じの見た目にしたって、ベースの部分がしっかりしていなかったら結果も出ない。デザインだけで何とかしようとしてもダメなんですね。

 前に、あるブランドで、小さな消火器をデザインしたことがありました。もともとそこで出していたのは、白くてキッチンに置いておいても目障りにならないオシャレなもの。本来なら、消火器は、いざ火事が起きたときに、目立っていないといけないのに。それは違うでしょと思って、つるっとした赤で、表にはピクトグラムで使い方だけが入っているものをデザインしました。いろいろ規制が多すぎて、残念ながら商品にはならなかったんですが。