33 箭内道彦(クリエイティブディレクター)

箭内道彦(クリエイティブディレクター)

東京がふるさとだと思えたら、世の中はもっとやさしくなる。

 よく東京の人から、「あんたは帰る場所があるからいいよね」と言われることがあります。ということは、東京の人はふるさとがない、地元がないって感じているんですね。もしかするとそのせいで、ふるさとを失う人の気持ちを想像するのが難しくなってしまうのかもしれません。震災直後にあった水の買いだめも東京に特徴的なことでした。これは怒っているわけでも批判でも何でもないんですけど。だからこそ、東京の人が自分の住んでいるところをふるさとだと思えたら、世の中がもっともっとやさしくなる気がします。

 もちろん昔から東京に住んでいる人たちに、僕たち地方出身者たちが、どれだけ迷惑をかけてきたかもわかっているつもりです。ゴミを出して東京を汚しているし、酸素も吸って二酸化炭素を吐いてるし、他にもたくさん迷惑をかけている。いつも申し訳ないなあって。さっきの「違いを認め合う」っていう歌詞は、東京の人と地方から来た人が、どうやったら尊敬しあってやってけいけるかということにも通じるんじゃないかと思うんです。

 僕自身が東京に出てきたのは、どうしても東京藝大に入りたかったから。自分がやりたいことは東京じゃないとできないと思っていたんです。今はそんなことありませんが、あんまり好きじゃなかったんですよ、ふるさとが。人が近すぎるんです。踏み込んでくる、というか土足で上がってくる。いつも人のウワサ話ばっかり言っていて、自慢をするわけでもなくみんなが自虐しあっている、あの感じが苦しかった。

 だから東京に来たときは、すごくうれしかった。ちょっと言葉は悪いけど、かつらをかぶるタイミングってあるじゃないですか。僕にとって上京が、まさにそれ。自分の昔を知らない人ばっかりのところで、一から生まれ変わることができる。隣に住んでいる人の顔がわからないなんてさびしいとか、怖いとかいうけれど、それがあんがい心地いい。東京の人は、絶妙なデリカシーを持っているし、とても抱擁力が高いんです。

県とか国の違いなんてどうでもいい。

東京メトロのCM

東京メトロのCM
2007~2012年まで、箭内氏がディレクションを担当。宮崎あおいさん、新垣結衣さんなどが出演し、「TOKYO HEART」「TOKYO WONDERGROUND」といったコピーもおなじみ。

 僕は、去年まで6年間、東京メトロのCMのプランニングをしていました。あのCMで伝えたかったのは、東京はあったかい街だということ。みんな東京は怖い、冷たいっていうけど、人と人がつながるいい距離感のある街なんだというのを知ってほしかった。

 でも、きっとどこかに、東京を怖い場所にしておかないと都合が悪い人たちもいるんだろうなとも思います(笑)。たとえばヒット曲を見ても、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」では「都会の絵の具に染まらないで帰って」と都会の怖さを歌ってるし、内山田洋とクールファイブの「東京砂漠」とか、「東京=コンクリートジャングル」なんて表現もよく使われますよね。だったらみんな東京になんか来なきゃいいのにって思うんだけど、それが逆に東京に行く覚悟を試すハードルになっていたり、夢破れて地元に帰っていくときのBGMにもなっているんでしょうね。

 最後にこんなことを言うのはなんですが、正直、バッヂなんてどうでもいいんです。そもそも県なんて、明治維新のあとに誰かが決めた境目でしょう。宮藤官九郎さんが「被災地とか被災者という言葉は好きじゃない。日本が被災地で、日本人が被災者なんだ」と言っていましたが、それって「日本がふるさと」「世界がふるさと」っていうのと同じこと。バッヂをつけることでみんなが仲よくなって、最終的には、県とか国の違いなんて関係ないんだ、っていうふうになったらいいなあって思うんです。

取材を終えて......
「そんなにちゃんと考えてるわけじゃないですよ......」と言いながらも次々と話を展開させて最後はキッチリ着地させるのが箭内さんのすごいところ(しかも、雑談や面白いエピソードを交えながら!)。私が箭内さんを取材をさせてもらう機会はこれまでにも数回あったのですが、インタビューでうかがった話すべてを記事に盛り込めないことをいつも残念に思っていました。今回は本文に入れられなかった雑談の一部をブログに掲載しましたので、そちらもぜひご覧ください。(edit_kentaro inoue)

箭内道彦(やない・みちひこ)
1964年、福島県郡山市出身。東京藝術大学美術学部デザイン科卒。博報堂を経て、「風とロック」設立。主な仕事に、タワーレコード「NO MUSIC,NO LIFE.」キャンペーン、リクルートゼクシィ「Get Old with Me」「芸人30人、本気のプロポーズ」、サントリー「ほろよい」、グリコ「ビスコ」など。LIVE福島ドキュメンタリー映画「あの日~福島は生きている~」発起人。「月刊風とロック」発行人。風とロック LIVE福島 CARAVAN日本実行委員長、2011年NHK紅白歌合戦に出場した猪苗代湖ズのギタリストでもある。